Top Diary Review Text Gallery Link

私的Game of the Year 2008



ここでは2008年のゲーム事情を振り返ってみたい。メディアでは既にこの話題は出尽くしているので一般的なまとめや評価はそちらに譲るとして、ここでは僕が個人的に見聞きし遊んだ範疇での印象を書き綴っていく事にする。

■2008年総括

まず私的GOTYを発表する前に、2008年の全体の印象についてから話していこう。一般的にゲーム業界における転換期となるライフサイクルは4年ごととされており、丁度前年の2007年がその当たり年となっていた。当然その翌年は反動による谷間の時期となるのが通例で、08年もその色が濃かったと言えるだろう。

その具体的要因の1つは、新規フランチャイズや新機軸を掲げたゲームの不足、いわゆる野心的な作品が少なかった事。07年の作品の続編として平行線上で推移した物は幾つかあったが、そこから更に上を目指そうとした作品は殆ど無し。また『Far Cry 2』や『Spore』等、数少ないそんな野心的な作品も総じて期待外れな結果に終わっており閉塞感は否めなかった。

更に他に類を見ない発売日の一極集中化が起きてしまった事も、上記のような空気の澱みを感じさせた原因である。08年は大作を含めた多くの作品が9月以降のホリデーシーズンに発売が集中し、それ以前には殆ど発売されるものがないというアンバランスな事態となった。

またその9月以降においても余りにも発売が重なってしまった為に共食い状態になっていたように思う。食いっぱぐれが出てくるのは勿論のこと、A級タイトルにおいても発売ラッシュの波に揉まれて存外に印象が薄くなってしまっていた。『Gears of War 2』や『Call of Duty: World at War』など本来ならもっと盛り上がりを見せて然るべきタイトルだと思っていたのだが、実際はいつのまにか発売されていたという感じだったし、また発売後の消沈も早かった。

一方マルチプラットフォーム展開については新しい動きを感じられた。07年でPC対コンソールの重視度の比率が逆転したが、08年はそこから更にコンソール寄りになった印象を受けた。ゲーム内容のコンソール嗜好化は勿論だが、ビジネス的な面でも具体的な方法によってコンソール優遇、PC冷遇の構図がはっきりしてきたのである。

まず1つにDLCのビジネスの普及がある。コンソール機のDLCそのものは以前からあったが、08年に入ってからFPSやACTのジャンルにおいて、追加ミッションや追加マップという形でDLCビジネスに参入してくるケースが増えた。コンソール機では着実に普及しているが、PCゲームはその流れに取り残されてしまっているようだ。

PCゲームの分野では元々この類のコンテンツは無料で配信されるものという慣例があるためか、有料配信という方法が未だ定着していない。現状ではNvidiaやIntelが肩代わりしてPC版だけ無料提供というケースもあるが、『Mercenarys 2: World in Flames』のようにそもそも提供しないという作品もあるし、このまま行けばそういった作品は更に増えてくるだろう。逆に言えばSteamのようなダウンロード販売サービスの役割が今度もっと重要になるということでもある。

もう1つは違法コピーの問題で08年は特にDRMで大きな騒動が起きたが、それとは別の対策としてコンソール版とPC版の発売時期をずらすという方法がちらほら見られるようになった事にも注目したい。UBI Softwareの作品がこの方法に積極的であるが、それ以外のゲームでも散見され、特に『Mirror's Edge』においては年を跨いでの発売となってしまっている。数日程度の差ならまだしも、数ヶ月以上の隔たりがあるとそれは最早過去のゲームという事になり、ともすればPCはゲームの主戦場から外れてしまっているという事だ。

■2008年の私的ベストゲーム

上記の感想を踏まえた上で2008年のベストゲームを選定するならば、僕としてはやはり『Far Cry 2』を取り上げたい。『Far Cry 2』は事前情報では非常に野心的に思えたが、蓋を開けてみたら見事に破綻していたという作品であった。

これは僕の中では08年全体のイメージと一致する部分もある。フリーローミング、プロシージャル、そんな次世代ゲームのトレンドが希望的幻想としてもてはやされたのが07年だとしたら、08年はそれを現実的にゲームに組み入れることが如何に難しいかを露呈させた年と言える。それは『Spore』や『Crysis Warhead』、『S.T.A.L.K.E.R. Clear Sky』等を遊んでいても薄々感じていた事だったのだが、『Far Cry 2』はこのテーマを真正面から取り組もうとした分問題点も明確に見て取れた故に、08年を象徴しているかのような作品と感じられたのである。

しかしこのままだったらベストではなくワーストゲームになってしまうが、僕が敢えてこれをベストと呼ぶのは、先駆的な試みとは真逆の、FPSとしての最も基礎的な骨格部分が非常に優れていたからに他ならない。他の要素は全て駄目でも、この骨格がしっかりしていて、単純に敵と戦うことに面白さを見出せたのは何よりもの救いだった。

またそんなゲームの構造上の破綻によって、意図してなのかどうかは分からないが、他のゲームとは明らかに違う、独特の時間間隔が流れる作品となっているのが面白い。40時間を越すゲーム時間、日の出から日没までがゆっくり移ろいながら、遠大なマップを駆けずり回り、黙々と敵と戦っていく。壊滅的な単調さ1歩手前のデザインが、何故か中毒的に面白く感じるのである。そんなゲームは今まで無かった。

とは言え僕は『Far Cry 2』を他人に薦めるつもりはないし、寧ろ全力でやめるよう説得したい位である。やはり成果より課題の方が多い作品だし、その成果を知覚するにはプレイヤー自身に強い根気としぶとさを求められる。特に近年のゲームは少ないプレイ時間の代わりに密度や最大瞬間風速は濃くしていこうという方向性に舵を切っており、そんな中『Far Cry 2』は殆ど説明なしに真逆な事をやっている。分かる人には分かる等と言う甘えは、大衆娯楽を称する物としては失格だ。独特のゲーム性を打ち出すのならば、それをストレス無く楽しめるような導線を用意して然るべきであって、その不備を理由に遊ぶのを途中で投げられても何も文句は言えないだろう。

思うに本作は今後将来、本作で浮上した問題点を克服した作品が出てきたとき、同時に真に評価されるような物なのではないだろうか。本作を乗り越えた作品に触れる事で、本作の遊び方なるものが自然と感覚として備わるのではと思う。その時が来たら、僕は改めてこの作品を推薦するであろう。

また次点に『Dead Space』も取り上げておきたい。この作品もまたイノベーションはまるで駄目、というより端からそんな物求めていないという感じだが、それまでのサバイバル・ホラーの文法を集約させた、正に決定版と呼ぶに相応しい作品だ。本作こそ己の元ネタの問題点を克服した作品そのものであり、この作品によって元ネタの良さ悪さを再認識する事が出来る。よって『Far Cry 2』とは違いこちらは皆にお薦めできる作品だ。

『Far Cry 2』と『Dead Space』の共通点は、共に新規性とは別次元の基礎的な要素がしっかりしている所にある。つまりそこさえしっかりしていれば、新規性の有無に関わらずゲームとしては成立するという事だ。自明の理ではあるが、07年に次世代だイノベーションだと現を抜かしていた僕にとっては、良い意味で冷や水を浴びせられ冷静になれた気がする。その面でもこれら2作は僕にとって印象に残るゲームだった。

しかしそうは言ってもやはり『Dead Space』は新しさが微塵も無い作品なので、そこの差から『Far Cry 2』にベストゲームの座を譲る事になった。どちらか選べと問われたら、やはり僕は堅実な従来型の作品よりも、つぎはぎだらけでも新規性のある、または形としては無くてもそれを目指そうとした作品を評価したいのだ。

■2009年予想

さてひとしきり2008年をまとめた所で、翌年の2009年を簡単に予想してみよう。雰囲気ゲームが好きな僕としては、『Alan Wake』や『Mafia II』に注目したい所だが、この両者が09年中に発売されるかどうかは怪しいところだ。

『Alan Wake』は05年に開発が発表されたが、それ以降延期の繰り返しで今日まで至るというRemedyの悪い癖が如何なく発揮されている。ゲームの内容も殆ど明かされておらず兎に角謎が多いが、前身である『Max Payne』シリーズが良く出来ていたので、是非ともハードボイルド・ゲーム、或いはシネマティック・ゲームの新境地を切り開いて欲しいと思っている。

『Mafia II』に関しても求めているものは殆ど一緒だ。但し本作の場合、08年に発売された『Grand Theft Auto IV』と比較されるであろうという所に注目している。しかしIllusion Softworksこと、現2K Czechはこれまた延期に定評にあるところで、09年中に本作が発売される保障は全く無い。

大作クラスで気になっているのはこれ位で、全体的に見てみると04年の後の2年間がそうだったように、09年もまた08年同様谷間に位置する年だろうと思っている。

ただその点は分かりきっている事なので今更何とも思わないが、心配なのは欧米全体の急速な景気後退の影響である。近年のゲームは開発費が鰻上りになっており、今回の影響は免れないだろう。既にスタジオの閉鎖や統廃合が進んでおり、更に大作クラスの作品においてもパブリッシャーが今まで以上に資金提供を渋る事を想像すると、余計に保守的なゲームばかりになってしまうのではと危惧している。

多分これは09年以降により深刻な問題になってくるかもしれないが、この点は注意深く見守らなければならない。


 2009/01/15
All trademarks and trade names are the properties of their respective owners.
Copyright (C) BaNaNaBoNa 2008-2009 All rights reserved.