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Mirror's Edge
開発: EA Digital Illusions Creative Entertainment 販売: Electronic Arts - 2009
プラットフォーム: PC



■シンプルイズベスト

『Mirror's Edge』程シンプルという言葉が似合う作品はない。

走る事のみに特化されたゲームデザインは、近年の複雑化の一途を辿るゲームの中で一際分かりやすく、そして新鮮にうつる。美術についてもまた同様。それはゲームに登場するランナーのように、今のゲームに対するアンチテーゼあるかの如く。

一方このゲームは新鮮さと同時に懐かしさも湛えている。シンプルなゲーム性のその内には、進化の過程で忘れてしまった単純性故の奥深さが潜んでいる。それはまるで往年のファミコン時代の傑作ゲームであるかの如く。

『Mirror's Edge』は簡素なようで、驚く程雄弁だ。またそれこそが、シンプルイズベストと言うものなのだろう。

■ストーリー概要

『Mirror's Edge』は『Battlefield』シリーズで有名な、EA Digital Illusions Creative Entertainmentによる一人称アクションゲーム。既に2008年11月にコンソール版は発売されており、PC版はそれから約三ヶ月遅れての発売となった。

舞台は現代の架空の都市。そこで暮らす人々は多くは不自由なく幸せな日々を送っていた。しかしその生活の背後には徹底しか管理社会システムが存在しており、それに反発する少数派の人々はその世界の法律上、犯罪者として扱われていた。

主人公フェイスを含めた"ランナー"と呼ばれる人々は、そんな少数派の人々から以来を受け、通常の手段では運びたくない品々を、自らの体を使って運送するアンダーグラウンドな運び屋達の事である。

ある日市長選が控えていた最中、改革派の候補者だったポープが暗殺される事件が起きる。そして警官であるフェイスの妹はその容疑者として捕まってしまい、更には自身も追われる身になってしまう。背後に陰謀を感じ取ったフェイスは妹を助けるために、独自に真相を究明しようと街を駆け巡るのであった。

守りたいから私は飛ぶ!みたいな。

■一人称視点の"弱点"に挑戦する

主人公、つまりプレイヤーは"ランナー"と呼ばれている事からも分かるとおり、このゲームで課せられる課題は目的地まで走り続ける事である。プレイヤーは全編に渡ってビルの屋上や用水路等の都市の裏側の道なき道を、持ち前のテクニックを駆使して走って走って飛んで飛んで飛んで飛んで回って回ってまた走る。これが本作の全てであり、近年のゲームでは1,2を争う程シンプルなデザインだ。

ゲーム性がシンプルなら操作も極端にシンプルにまとめらており、殆どの場面では移動とジャンプとしゃがみ位しか行わない。敵との対峙も一般的なFPSと違ってあくまでも交戦せず逃げ切る事に主眼が置かれており、兎に角脇目も振らずに前へ前へと進み続けるゲームなのだ。

そんな性質から、往年の『Tomb Laider』や『Prince of Persia』等のアスレチックアクションを彷彿する人も居るだろう。もっと遡って横スクロールアクションゲームと比較してみても良いかもしれない。実際本作で行うことや面白さはそれらと大筋は一緒である。しかし従来の作品と本作が決定的に違うのは、ゲーム全般を徹底して一人称視点のみで作っているという事にあるだろう。

一般的に一人称視点には鬼門と呼ばれる極めて苦手な事がある。それは近接戦闘の表現であったり或いはアスレチックアクションであったりで、いずれも一人称独特の間合いの取り難さに起因する問題だ。しかし本作はその弱点を乗り越えて一人称視点を再定義すべく、今までにない試みがなされている。

先ほど一人称がアクションが苦手なのは間合いの取り難さに起因すると書いたが、結論から言うと『Mirror's Edge』はそれをかなりのレベルで克服する事に成功している。その最も分かりやすい例としては、ゲーム中の一人称の見た目や挙動を実際の人間のをれに出来る限り近づけている所にあるだろう。例えば足元を見ればしっかりと自分の体や手足が地についているのを確認できるのは当然として、壁をよじ登る、ドアを開ける、前転する等のアクションの数々は、全て実際己がそうしているかのように体の部分が表示され、そして視点も大きく揺れたり反転するのだ。

この新しい一人称視点は遊びやすさのみならず、没入感や臨場感の点においても非常に効果的に働いている。視点の挙動は実際のそれをかなり精密にトレースしており、主観ながら身体のムーブメントを非常に上手く表現できているのだ。動かしていて気持ち良い。これはどんなゲームにおいても最も基本的ながら大切な事であり、『Mirror's Edge』はその点を最高のクオリティで仕上げている。またそうでありながらゲーム的なレスポンスの良さも損なっておらず、このリアリティと気持ちよさ、、遊びやすさを両立できたのは本作の最大の功績と言えよう。

これに関しては文字よりも実際に映像を見てもらった方が手っ取り早い。

■トライアンドエラーを主軸にしたデザイン

とは言ったものの、本作は今までの死に易さを払拭し切れてはいないどころか、実は近年のゲームの中では圧倒的に死にまくる。アクロバットを欲求されるその量の絶対的な多さ、また敵の大群が目前に迫っているなど急かされるシチュエーションの多さ等が相まって、本作は本当に景気良く死にまくるのだ。

しかしこれは本作が一人称故の失敗と言うよりかは、寧ろ『Tomb Laider』や『Prince of Persia』等と同じく、意図して設計された典型的な"死んで覚える"タイプのデザイン故のものであると見た方が的確であろう。無数のゲームオーバーを繰り返しながらマップの構造を熟知し、頭を巡らせ自らの技を磨いて突破していく。今では見当たらない、昔ながらのゲームのお作法である。

しかしその為に初回プレイはゲームのスピード感に似合わず、歯切れの悪い思いをする事が多々あるだろう。 またアクロバットは後半に行くほど複雑になっていく為、成すがままにゲームを進めていると自らの上達スピードが追いつかずに余計に苦戦することになるかもしれない。そうかと思えばストーリーモードは5~6時間という一般的なゲームの半分程度の長さで終わってしまう。正直な話、1周だけでの判断では、本作はやたら死にまくるだけでボリュームは少ない、イマイチ冴えないゲームだと思われても仕方が無い。

本作を遊ぶならば何度も「I can fly !」するのを覚悟しなければならない。

■現代に蘇ったスポ根魂

このトライアンドエラーを強いる作りは、近年その手の作品が激減しているのも相まって好き嫌いが分かれる所だろう。しかも本作は1回クリアできれば完璧というわけではない。2回目でも間違いなく死にまくるし、5回目でも多分無理。文字通りランナーの如く華麗に走りきれるようになるには、それはもう相当の修練が必要となる。

だが裏を返せばそれこそが醍醐味でもあるのだ。マップには1周目では気づかないようなショートカットがあちこちにあり、巧妙に潜んであるそれらを見つけて物にする面白さがある。

また本作は自分の上達具合がしっかりと目に見える形で理解できるのも非常に優れている所であろう。先のショートカットは効果的なものになるほど比例して難易度が高くなるが、逆に成功すればそれだけより格好良いアクションとして還ってくるという事なのである。そして更にやりこむと、柵を越えたり段差をよじ登ったりするアクション1つですらその発動タイミングによってアクションとスピードが変わるのに気づくはずだ。

そのうち初めは30分以上掛かっていた所も、何と5~10分程度でクリアすることが可能になるだろう。当然やり込めばやり込むほどよりデリケートな操作が求められてくるが、それによって得られるスピード感、格好よさ、そして何よりもゲームとの一体感が素晴らしい。『Mirror's Edge』は努力と根性を重視した、スポ根賛歌のゲームなのである。

■戦闘はオマケ

一方で本作における戦闘は、前にも書いたとおりあくまでも避けるべき障害で、仮に交戦するとしてもそれは単なるおまけ程度に過ぎない。

敵は必ず2人以上の集団で登場し、丸腰のこちらと違って銃器で攻撃をしてくる。一応1対1程度ならCQCで火器を奪うことが出来るが難易度は高く、またそれも撃ち尽くしたらそれっきりの使い捨てで、更に銃器を持っている状態では移動能力が極端に制限されて本来のアクションも一切行えなくなってしまう。

以上から分かる通り敵との戦闘は下手したら死亡率が上がるだけで何ら得することはないし、そして何と言っても面白くないのである。また9割は必ず戦わずに突破する方法が用意されており、このゲームでは敵もパズルの一種として見た方が良いだろう。

CQCも決まれば格好良いが、タイミングは通常のアクション以上にシビア。なるべく逃げろ。

■競い合ってもっと速く、もっと格好良く、もっと深く

『Mirror's Edge』はスポ根をより奥深いものにする為の、ストーリーモードとは別のスピードランやタイムトライアルモードがある。これらはアカウント形式で世界ランキングの参照や自身の記録の保存、またはゴーストを表示させてのレースが出来るなど本格的に競技性を意識して作られている。

スピードランは通常のストーリーモードのチャプター毎のタイムを競うモードで、5分~10分の長丁場を走ることになる。対するタイムトライアルはストーリーモードの各ロケーションを抜き出し、独自のルートを編成したもの。こちらは1分~2分と短く、またチェックポイントごとのタイムの照合や、上位プレイヤーや自身の過去のプレイをゴーストとして表示させる機能もついており、より競技性が突き詰められたものと言える。いずれも早さを追求するという本作のテーマを抽出した内容になっており、通常のストーリーモードは練習で、こちらこそ本番と言い切っても過言ではないだろう。

また世界ランクを見ると一見不可能そうな記録があるが、ゴーストを眺めると自分では気づかなかったショートカットを利用しているのが分かったりするのも面白い。マップを熟知し、技を磨いていく面白さを十分に満喫できるモードだ。

ただ欲を言えばゴースト表示だけではなく、主観視点でのリプレイ機能もついていれば尚の事良かった。ゴーストは基本的にそれについていけないとその先に何をするかが見れないし、また見れたとしても具体的にどのタイミングで技を成立させているかまではわからないからだ。

ちなみに僕はスピードランで最終チャプターのランク4位だ!(09年2月15日時点)

■競技性を損なわせるシステム周りの不備

好みが分かれるとはいえ非常に高い完成度の本作であるが、勿体無い事にシステム周りの不具合が相当煩わしい問題となる。

まずゲームがクラッシュする問題で、環境にもよるがかなり頻繁に発生する。一応対策用のパッチがリリースされているが、それでも完全には治っていない。もう1つはKBの入力遅延が起きる事がしばしばあり、発生時は入力が反映されるまでおよそ0.5~1秒程の遅れが出てしまう。これはKBの種類に関わらず発生する。

これらの問題は他のゲームでも致命的だが、本作は競技性が強い分より一層深刻になる。例えばスピードランでベストタイムを出していたのに、ゴール間際にクラッシュされたらどうだろうか。入力遅延も同様で、折角努力してスキルを磨いてもそんな所でパーになるようではモチベーションが下がるのも道理であろう。本作に限って何故そんな問題が出るのだって感じだが、何にせよパッチによる早急な対応が望まれる。

またこれは問題って程でもないが、デリケートな操作が求められる為微細なFPSの変化が大きく影響してくる点も留意しておいた方が良い。少しFPSが変わるだけでも着地のタイミングがズレて失敗してしまうというケースがままあるので、気になるようだったら潔くグラフィックスの設定を下げた方がストレス無く遊べるはずである。更に極端にFPSが乱高下するような人はPhys Xが悪さしている場合もあるので、何かあったらこちらも切ってみると良い。

■ポカリ?グラフィティ?ジャパニメ?な斬新なグラフィックス

『Mirror's Edge』と言えばその斬新なグラフィックスも語る上では欠かせない要素だろう。この極彩色とエッジの利いた美術は、ポカリスウェットに代表されるようなスポーツデザイン的とも言えるし、『DELTA』や『ZEDS』のようなグラフィティアートとの関連性も指摘できるし、はたまた日本アニメからの影響もあるかもしれない。だがいずれにせよこれまでのFPSの文脈には無い奇抜な見たである点に違いはない。

本作のグラフィックスで特に評価できる点は、簡素さと視覚的な満足感を両立できている点にあるだろう。近年のゲーム美術の徹底的なリアル化、情報密度の過密化とは明らかに一線を画す方向性で、ロケーションといえば閑静なビルの屋上か地下ばかり。派手な演出もなく、物体の本来の密度感は全て極彩色とライティングで徹底的に飛ばされている。

しかしそれでいながら決して単調と思わせないのは、ひとえにセンスの力に拠るものが大きいのだろう。要素が少ない分、画面内の調和は細心の注意が払われており、リアル非リアルの以前に色面として美しく見えるのだ。

また一見簡素なようでも、画面に映るモデル等は良く作りこまれており、それは写実的というよりかは如何にも実際の駅にありそうみたいな印象を捉えているという点で完成度が高い。

この必要最小限のリアリティと大胆な色面構成こそが『Mirror's Edge』のグラフィックスの魅力である。

これまたCrysisとは対極的。

■機能性も兼ね備えた視覚デザイン

本作のグラフィックスでもう1つ語るべき重要な点はその機能性にある。本作の視覚デザインは単なる見た目の奇抜さの追求だけではなく、そのゲーム性にも即した合理的な設計がされているのだ。

まず本作のシンプルな見た目は、ゲームの持つスピード感を強調する上でも上手く作用している点が良い。また情報量の少なさは3D酔い対策の意味も兼ね備えているのだろう。僕は3D酔いはしない人間だが、それでも本作の画面のおかげで素早い移動も落ち着いて追っていく事が出来る。

更に『Mirror's Edge』もまた、最近の多くの作品同様HUDを表示させない作りになっている点にも注目したい。これは本作が主観視点にとことん拘っている所からも容易に判断できることだが、本作が凄いのは他の作品のような中途半端なFading HUDシステムではなく、文字通り全く一切の表示をしないという所にある。

本作はその代わりに環境デザインそのものを一種のインジケーターにする方法を採っている。具体的にはそれはゲーム中ではランナービジョンと呼ばれ、進むべき道の方向やパズルのヒントとなる物体が真っ赤に表示されるのである。プレイヤーはそれを目標にしていけば詰まらないで進む事ができるという趣向だ。

このやり方は極彩色を用いた本作の美術だからこそ通用する方法である。他の写実的な画面ではいざしらず、本作の色数が少なく整然とした画面ではこれが非常に効果的に働く。また点滅するみたいな従来型のゲーム的な嘘ではなく、あくまでもその周囲の環境そのものとして溶け込んでいるのも、ゲームの没入感を高めていて良い。

ただし若干残念なのは、赤い目印の置き方がかえって進むべき方向を混乱させてしまうような作りになっている場面が何箇所かあり、もう少し何を赤くするのかを煮詰めて欲しかった所である。

また他は徹底した環境デザインとの同化を推し進めているにも関わらず、何故か敵に対してだけ赤いオーラが表示されるという、従来型のダサい方法を採ってしまっているのも勿体無い。これは特別ゲームの進行の害になる事ではないが、ここまでグラフィックスに拘ったのだから、ここも頭の良いやり方で仕上げて欲しかった。

『Dead Space』と並んで次世代インターフェイスの回答の1つとして興味深い。

■幕間のアニメーションやストーリーは微妙

インゲームの美術はハイセンスな本作だが、チャプターの間に挿入されるアニメーションは打って変わって一気にカートゥーン調になってしまう事には違和感を感じてしまうだろう。

本作のストーリーの重要な部分はこのアニメーションにて解説されるわけだが、正直作品のイメージに合わないし、なんだか下手い。それにわざわざこの表現様式を使う必然性も感じられず、折角インゲームでは徹底して主観視点のみでドラマを見せていたのだから、ここでもそれを貫き通せば良かったであろうと思ってしまう。

実はこれに関しては外注に頼ったらしいが、出来上がりを見るとどうも発注先を誤ったのではないだろうか?似た方法を採っている『Call of Duty 4: Modern Warfare』並びに『Call of Duty: World at War』は寧ろローディングアニメーションが評価ポイントなので、本作も発注先とアイディア次第でどうにでもなったはず。それとも予算が足りなかったのであろうか。

加えてそのストーリーも中途半端である。構成自体は無難で中盤まではそこそこ盛り上がるが、後半以降の説明不足で失速してしまう。物語は続編を匂わして終わるが、やや投げやり感は否めない。

カートゥーンネットワークで絶賛放送中ではありません。

■まとめ

内容そのものとは別の所にやや問題があるが、本筋はシンプルながら新鮮であり古典的でもあり、何より非常に良く出来た傑作である。

但し好みが分かれるデザインなのは確かなのでそこは気を付けた方が良いだろう。特に最近の劇場型ゲームを求めるような人には全く向かない。逆に最近のゲームは手応えがなくてつまらないとお嘆きのあなたにこそ本作はお薦めだ。一筋縄では行かないが、それに見合った奥の深さを味わえるはずである。



参考リンク

Mirror's Edge 公式サイト
Mirror's Edge Wiki
PCゲーム道場 - Mirror's Edge Upcoming Games
Game Life - Mirror's Edge レビュー
4Gamer.net - Mirror's Edge レビュー
GAME Watch - Mirror's Edge レビュー
4Gamer.net - [GDC2008 番外編]EAのプレス発表会でEA DICEの新タイトル3本が公開
4Gamer.net -
[E3 2008#19]鳥だ! 飛行機だ! 高いビルもひとっ飛びの「Mirror's Edge」がデモ展示

4Gamer.net -
主人公Faithのモデルは誰? EA,「Mirror's Edge」のプレゼンテーションイベントを開催

4Gamer.net -
[GC 2008#46]EA DICEの「Mirror’s Edge」は,エポックメイキングなゲームを目指して開発中

4Gamer.net - [TGS 2008#012]4年ぶりのブース展示を行ったEAから,「ミラーズエッジ」と「アンダーカバー」の新情報
4Gamer.net -
明日12月11日発売予定の「ミラーズエッジ」で,発売記念イベント開催。日本語PC版の発売日も明らかに


2009/02/15
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