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Alan Wake
開発: Remedy Entertainment 販売: Microsoft Game Studios - 2010
プラットフォーム: Xbox 360



■古くて色褪せた最新作

洋ゲー暦10年以上の熱心なコアゲーマーにとって、Remedyという名を記憶している者は多いだろう。Remedyは作品数こそ少ないが、01年の『Max Payne』、03年の『Max Payne 2』と縦続きに傑作をリリースし、00年代前半のPCゲーム界で強い存在感を放っていたスタジオだ。映画を強く意識したハードボイルドなストーリー、映画『Matrix』の様なスロモーションを活かしたゲームデザイン、極めて写実主義的なグラフィックスは後続のゲームに大きな影響を与えた。

そんなRemedyが『Alan Wake』を携えて帰って来た。初めて開発が発表された時からは5年、前作『Max Payne 2』からは実に7年ぶりの新作であり、否が応にも期待は高まる。途中ゲーム性を大きく改めたり、Vista専用タイトルになったかと思えばXbox 360専用になったりと紆余曲折はあったが、それでも尚Remedyの作風は健在である。

しかし確かに健在ではあるものの、7年間の月日は想像以上に多くのものを変化させる。Remedyの持ち味だったストーリー、ゲームデザイン、グラフィックスもその然りであり、03年当時こそ他に誰もやっていない位最先端だった表現も、今では他に誰もやっていない位古めかしいものになってしまった。

『Alan Wake』は表面的にはあたかも最新の技術でこしらえられている様に見える。しかし根底にある設計思想は新しいどころか寧ろ古い。そしてそこから得られる体験は、まるで5年以上前にタイムスリップしたのではないかと思ってしまう程、色褪せている。

■ストーリー概要

全米を代表するベストセラー作家Alan Wakeは、深刻なスランプから脱出する為、妻のAliceと共にワシントンの田舎町であるBright Fallsに訪れた。しかしその日の夜を境にAliceは行方不明になり、Alan自身もそれから一週間の記憶を失ってしまう。

またそれと同時に「闇」を纏った何者かが夜な夜な現われAlanを襲ってくる様になり、更には行く先々で書いた覚えの無い自らの新作の原稿が発見される。そこには今Alanの身に起きている事とそっくりそのまま同じ事が書いてあり、また未来の事も予言されていて現実でその通りの事が起こっていく。

Alanはこうした様々な怪奇現象に苛まれつつも、Alice見つけて助け出す為、理不尽で過酷な戦いに身を投じていく。

言わば「現実は小説より奇なり」を小説家が体験する物語。

■見るのとやるのとでは大違い

『Alan Wake』はフィンランドのゲームスタジオであるRemedy Entertainmentが開発したアクションアドベンチャーである。自ら"a Psychological Action Thriller"を謳っているだけあってストーリーテリングにはとても力を入れられており、特に海外ドラマの手法を積極的に取り入れているのが特徴だ。例えばゲームの各章はドラマにおける一話完結のエピソード形式をモデルにしており、一つ一つ連続性がありつつも毎回しっかりと起承転結が描かれている。その他にも各章の終わりには毎回エンディングソングが流れ、そして各章の始まりには「ここまでのAlan Wake」と称して前回までのあらすじが説明されるのである。

後者に関しては何だかギャグみたいだが、しかしこの試みはこと観賞する物語という観点で言えば良く出来ている。本作は海外ドラマの中でも特に『Twin Peaks』や『LOST』から影響を受けたと言っており、あれらの最大の魅力の一つである謎が謎を呼ぶストーリー展開を上手く汲み取れている。例えば第1章序盤で主人公夫妻は湖に浮かぶ小島のコテージに宿泊するが、主人公が一週間の記憶を失った後再びその場所に訪れると小島は跡形も無くなっていた・・・ という所で第一章は終わり、続きは第二章でという展開になる。その後も二転三転する物語は続いていき、先を知りたい鑑賞者の心理を良い感じに煽ってくれる。

また登場するキャラクターの描写も丁寧で、完全に名無しのモブキャラは殆ど存在せず、皆ちゃんと固有名詞と設定を持ち、彼等の相関関係が物語本筋でしっかり描かれているのも感心した。これは本作のテーマの一つである「住民全員が知り合い同士な程の田舎町」を表現する上で効果的に働いている。映画と比べて登場人物の扱い方が軽率なゲームはまだまだ多く、そういった作品と比べると本作は一枚も二枚も上手だ。

但しこれらは専らカットシーンや、行く先々で拾う原稿という名のテキストダイアログ等で一方的に語られるばかりで、プレイヤーが双方向的に物語に関われる仕組みが殆ど無いのはゲームとして問題だ。カットシーンはQTEがあるわけでもなくただ只管観賞するだけ。対するインゲームは殆ど戦闘一辺倒でドラマチックな事は大して起こらず、僅かにあってもその演出力は貧しく、特にキャラクターのアニメーションはカットシーンと比べると大きく見劣りする。最新のゲームに遊び慣れた人はこう思うだろう。「一体何年前のゲームなんだ!」と。

7年前の『Max Payne 2』の当時であればいざ知らず、最近のゲームにとってのストーリーとは『Call of Duty 4: Modern Warfare』がその代表格だが、見せる以上に体験させるものである。特にストーリーを重視するゲームであれば、ストーリーの良さとゲームプレイの良さは限りなくイコールに近くなければいけない。ところが本作はそれらがバラバラで、本作にとっての物語が描かれる場面では、プレイヤーはゲームプレイを一次休止しなければならない。

また従来のゲームの規格からは外れる主人公や物語の設定も、上記の様に感じさせてしまう原因の一つだ。まず作家という主人公の立場やメンタリティはかなり一般人からはかけ離れたもので、2年間の超スランプに悩まされていると言われても想像できないし、またそれを共感出来る仕掛けも施されていない。もう一方の謎が謎を呼ぶストーリーも、第三者として観賞している分には良いが、その只中を実際に体験するとなると全く意味不明で行動の動機が掴めなくなる。例えばこれが「狂った世界から脱出する」という内容ならば、意味不明さは行動の動機に直結する。しかし本作は真逆の意味不明に対立する話であり、その先に居る妻を助け出す話だ。ところがその主たる動機である妻も、主人公が執着している割にはそれに見合った描写が足りない。結果として何だか良く分からないおっさんが良く分からない事に悩まされていて、良く分からない出来事に遭遇しながら、良く分からない妻を助け出そうとしていて、プレイヤーはそれに良く分からないまま付き合わされる、という構図になってしまう。

これらの問題、映画等の一方向型のメディアの面白さと、ゲームの双方向型のメディアの面白さのミスマッチから来る諸問題は、現在では業界全体で見ると一定レベルでは克服されている。先ほども名前を挙げた『Call of Duty 4: Modern Warfare』以外にも、『Uncharted 2: Among Thieves』や『Heavy Rain』等など、挑戦的な作品はどんどんこのミスマッチさに飛び込んでいって映画的体験の裾野を広げているし、そうでない平均的ゲームもあまりミスマッチさが目立たない、無難な表現のラインは掴めて来ている。

そんな中本作は姿勢だけは上記の挑戦的タイトル同等のものを示しておきながら、実際は非常に基本的で古典的な、言い換えれば最早死語になりつつある「ムービーゲー」のドツボに真正面から嵌ってしまっている。物語自体の質は良いのに非常に勿体無い。だから本作は古いのである。

素直にドラマにすれば良かったんじゃなかろうかとも思う。

■素材は良いのに調理が下手

ゲームプレイの方はTPSの基本を踏襲しつつ、独自の味付けが施されている実にRemedyらしい作りである。前作の『Max Payne』シリーズの場合は時間を遅くする「バレットタイム」が特徴だっが、本作にとってそれに該当するのが「光と闇」だ。本作にとって光とは命の象徴であり、逆に闇は死の象徴で、この図式が様々な場面でシステムとして取り入れられている。

例えば敵と戦う場合、そのままでは幾ら銃撃しても倒す事は出来ない。ここで銃の代わりに最大の武器となるのがフラッシュライトで、この光を敵に照射し続ける事で、装甲として纏った闇を排除する事ができる。そうして闇を完全に排除しきった後、改めて銃撃を加えて止めを刺すのである。

本作の戦闘は基本的にこのプロセスを踏む為、どうしても一体を排除するのに時間が掛かるし、また排除する時は常に相手に照準を向け続けなければいけない。その間も周りから別の敵がじりじり詰め寄ってくるわけで、実際の戦闘では寄ってきた敵の攻撃を回避しては再び距離を離してフラッシュライトを照射するという事を繰り返す事になる。このギリギリまで照射し続けて襲われる一歩手前で回避する駆け引きや、時間掛けて装甲を剥いだ相手に渾身の銃弾を撃ち込む快感はかなりの中毒性があって面白い。

他にも攻撃を回避した時や敵を全員撃破した時のスロモーション効果も非常に気持ちよく、戦闘をより一層盛り上げてくれるし、武器も通常の銃器の他に発炎筒や閃光手榴弾など、光と闇というコンセプトに合った物が取り揃えられていてユニークだ。また光のある場所では体力の回復とセーブも行えるようになっており、これも作品世界観にマッチしていて良い。この辺のセンスはやはり『Max Payne』シリーズを生み出しただけあって一流であり、そこらの『Gears of War』モドキみたいな作品とは一線を画す。

しかし良いところが『Max Payne』譲りなら、悪いところもまた同様。Remedyの作品はどれもベースシステムの設計は優れているが、それを活かすレベルデザインが単調で大損をしている。本作の場合ならまずはステージの中でただ移動しているだけのシーンが多すぎる。これはプレイ時間を水増ししているんじゃないかと思ってしまう程の分量で、後述する見た目の貧しさも加わり、戦闘の興奮を相殺して有り余る程退屈だ。更には肝心の戦闘そのものも完成度が高い反面変化のふり幅が狭く、後半はそれ自体単調に感じてきてしまう。途中挿入される変則的な戦闘シーンや車を使った移動シーンも地味でスパイスとしては不十分だ。

またこれは前項のストーリーテリングと対になる問題でもある。つまりストーリーがゲームプレイとの結びつきが弱く魅力が感じられなかったのと同じ様に、ゲームプレイもまたストーリー不在でそれがより一層の単調さを生んでしまう。先程も書いた通りストーリーを重要視している以上はそれを体感できる仕組みを作らなければならない。それをカットシーンやテキストダイアログで済ませてしまうところ、後は戦闘と移動を黙々と続けるデザインは『Max Payne』シリーズ当時なら許容されたかもしれないが、表現力が飛躍的に増した今日では悪い意味で古典的で軽薄に感じてしまう。

素材は絶品だが、それだけ繰り返し食べさせられ続けると流石に飽きてしまうのである。

■プラスマイナスゼロ

Remedyは写実的なグラフィックスの美しさに定評があるが、本作に関しては一長一短で手放しには褒めにくい。まず先に良いところを挙げると、森林に囲まれた田舎町の雰囲気の再現はとても良く出来ている。ロケーションもキャンプ場や農場など如何にも田舎っぽい所が多数登場し、僕はたまに趣味でアウトドアキャンプに行く事があるが、その時の光景と比べてもかなり真に迫った表現になっていると言える。また光の表現も作品のメインテーマだけあって拘って作られており、特に光線や発炎筒の表現は一見の価値ありである。

しかし勿体無いのは折角リアルに作りこまれているのに、ゲームの9割が夜でディテールが殆ど潰れてしまっている点だ。しかも天候の変化だとかが起こるわけでもなくただ只管薄霧かかった闇夜が続いていくので、ディテールの豊かさに目が行くよりもずっと同じ暗闇を彷徨っているという印象の方が勝ってしまい、結果として単調に感じてしまう。また前述したゲームプレイのワンパターンさもそう感じさせるのに拍車を掛けている。

もう一つ良くないのは場面によってはテクスチャの解像度が低い点で、かといってシェーダーの使用も控えめなので近づいた時の見栄えが悪い。皮肉にも終始画面が暗いお陰でこの点は目立ちにくくなっているが、下手したら7年前の『Max Payne 2』よりも粗い部分すらある位だ。元々Remedyの作品のグラフィックスはテクスチャの質で魅せる方向性だったので、その作風がリソースの制限が厳しいコンソールで仇になってしまったのではと勘繰ってしまう。

総合的に見て決して悪いわけではなく平均水準を越えてはいるが、かつてのRemedyの実績や本作の発売前の宣伝文句、或いは他のトップクラスの競合タイトルと比べて見ると、やや見劣りすると言わざるを得ない。

文字通り光る部分はあるので、そこを買うか欠点に目が行くかで印象は変わるかもしれない。

■まとめ

思うにこの作品は開発が発表された5年前、それは無茶でも07年までに発売出来ていれば傑作になったのではないか。ここまで散々ケチつけてきたが、本作は決して手抜きで作られているわけではない。寧ろ丹精込めて作られているに違いないが、その力の込める方向性、設計思想が古いのだ。ストーリーとゲームプレイがバラバラな「ムービーゲー」なところは正に典型的な昔の作法である。その昔の設計思想のまま作りこんでも現代の良い作品とは言えない。寧ろ新たな基準を生み出していかなければ。

こうした古めかしさを除けば完成度自体はあるので遊ぶべきではないとまでは言わないが、他に大作で遊んでいない作品があればそちらを優先した方が良いかもしれない。本作はそれらを終えた後でも問題ない。




参考リンク


Alan Wake 公式サイト
4Gamer.net - [E3 2005#013]「Max Payne」の開発元が手がける心理サスペンス「Alan Wake」
4Gamer.net - [GDC07#17]「Alan Wake」のプロジェクトリーダーが,開発チームを語る
4Gamer.net - [E3 09]光を利用して闇の魔物を倒す「Alan Wake」がついに再始動(Alan Wake)
4Gamer.net - [TGS 2009]世界初公開の情報もアリ! 「Alan Wake」デモンストレーション
4Gamer.net - Xbox 360向けのサイコスリラーアドベンチャー「Alan Wake」,その概要と魅力を開発スタッフに直接聞いてみた
GAME Watch - Xbox 360ゲームレビュー「Alan Wake」
GAME Watch - Xbox 360ファーストインプレッション「Alan Wake」
GAME Watch - マイクロソフト、「Alan Wake」先行体験&インタビュー
Choke Point - Alan Wake インタビュー

Choke Point - 【E3 09】 Alan Wake プレビュー
Choke Point - 【TGS 09】 Alan Wake プレビュー
Choke Point - 【X10】 Alan Wake プレビュー
Choke Point - Alan Wake インタビュー
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 2010/06/18
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