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Assassin's Creed II
開発: Ubi Montreal 販売: Ubisoft - 2009
プラットフォーム: Xbox 360



■『Assassin's Creed』の完成形

「ソーシャルステルス」、「アサシネーション」、「フリーランニング」、「フリーパスデザイン」。これらのコンセプトと共に『Assassin's Creed』が発表された時、そこから次世代を予感した人は少なくないだろう。しかしその期待は実物が余りにもお粗末な出来だったと発覚するや失望へと変わり、更には怒りとなってシュプレヒコールの嵐を呼んだ。かくして『Assassin's Creed』はメディアの高評価とは裏腹に、ゲーマー達からは迷作のレッテルを貼られるに至った。

それから二年の月日が流れ、彼等は帰ってきた。失敗は成功の元とは良く言うが、ここまでエレガントにそれを成し遂げられたものはそうそうあるまい。前作で挙げられた不満点や批判点を真摯に改善し、これまでのコンプセプトで実現可能なものとそうでないものを見極め再構築された本作からは、最早かつてのお粗末さは微塵も無い。

正に『Assassin's Creed II』は前作をあらゆる面で凌駕した理想的な続編だ。しかしここは寧ろ"『Assassin's Creed』の完成形"か或いは"『Assassin's Creed 1.0』"と呼びたい。時に未完成と揶揄される位酷かったこのシリーズは、本作でもって初めてあるべき形として完成を向かえたのだから。

■ストーリー概要

『Assassin's Creed II』は07年に発売された『Assassin's Creed』の続編である。開発は前作に引き続きUbi Montrealが行っている。

舞台は15世紀イタリアのフィレンツェ。ルネッサンスの到来と共に新時代の幕を開けたこの地で、エツィオ・アウディトーレは貴族で銀行家である父ジョバンニの庇護の下、何不自由なく奔放に暮らしていた。しかしある時父と兄弟は反逆の罪を着せられ投獄されてしまう。

自分の死を予期していたジョバンニは、逃げ延びたエツィオにアサシンの装備を託して処刑される。自分達が陥れられた事を知り、家族を殺され貴族の位も剥奪されたエツィオは父を引き継ぎアサシンとなり、娼婦や盗賊等これまで関わってこなかった下級の人々の力を借りながら、裏切り者達に復讐する事を誓うのだった。

父ちゃん、こんなん着て戦っていたんかいな。

■作業ゲームから真っ当な箱庭ゲームへ

『Assassin's Creed II』は前作『Assassin's Creed』で特徴的だった、どんな建物でもよじ登れる「フリーランニング」システムや、タイミング重視の戦闘、広大なマップといった基礎的な要素を引き継いでいる。だがその一方で修正・追加された要素も数多く、それらによってどう変わったかを一言で表すと"作業ゲーム"から"真っ当な箱庭ゲーム"へ進化したと言うに尽きるだろう。

ここで前作について軽く思い出してみると、あの作品の一番の問題点はやれる事が極端に少なく単調という事だった。メインクエストはスリ、盗聴、尋問、暗殺等の行為をワンセットで行っていくもので初めこそ面白く感じられたが、どんなにゲームを進めてもこのルーチンワークが全く代わり映えが無く続いていくので、次第に辟易させられたものだった。またサブクエストも旗探しやテンプル騎士団探し等、面倒くさいだけで面白みの無いものばかりだし、折角の広いマップも活かせていないどころか単調な内容と合わさるとかえって億劫。これでは単なる作業ゲームと言うしかない。

その点本作はまず単純比較でやれる事が圧倒的に増えた。前作ではセットになっていたメインクエストの諸要素は、それぞれ独立したサブクエストに分割され、その分メインクエストはストーリー仕立てでよりイベント性の強いものとなっている。またアイテム収集要素もちょっと道を歩けばすぐ新しい物が見つかる位に増量され、種類も多様化。更には金銭を稼いでアイテムの売買といったRPG的な要素、投資して街を復興するシミュレーター的要素も追加される等、量が増えるのと相まってプレイフィーリングも複雑、複合化しているのだ。

だがこの作品の真に優れている所は要素の多様化も然る事ながら、それらを一つの体験として連動させる構成力にある。プレイヤーはメインクエスト進行中を除いてマップを自由に動き回り自由に色々な事が出来るが、同時にその色々な事は全て相互に影響しあう連動性を伴っている。特に有限の体力値、金銭、非行に伴い増加する手配レベルがその典型で、全ての行為はこれらの増減を引き起こす為、プレイヤーは次取るべき行動を自然と規定されて行くのだ。但しこれらはそこまで強制力は無く、解決策も複数用意されているのであくまでも自らの自由意志で行動を選択できるし、かといって何もやる事が無い事態も避けられているのが絶妙である。

この多種多様の仕込みと、それを一繋がりのものとして体験させる事に力点を置いたデザインは、逆に言うと前作で最も重要なコンセプトだった「ソーシャルステルス」の挫折を意味する。しかし「課題は常に同じでも環境を利用する事で千差万別の体験になる」という思い込みと理想主義の結果、前作が酷く単調な出来になってしまった事を考えれば、今回の舵の切り方は正解だ。それどころか仕込みを増やした分広大なマップが効果的に機能し、そこを効率的に移動する手段として「フリーランニング」や「フリーパスデザイン」といった他のコンセプトも活きてきている。この様な現実的な判断を行えなかったのが今までのUbi Montrealで、本作ではそれが出来た事を最大限評価したい。

■豊かなのは良い事だ

各要素についてもう少し詳しく見てみよう。まず全般的な話から始めると、メインサブ問わず全てのクエストは前作の半強制的な進行から、マップ中に点在するチェックポイントから自由に引き受ける形式になった。これは丁度『Grand Theft Auto IV』に近いと言えば理解し易いだろうと思う。

その上で一番大きな変化が見られるのはやはりメインクエストで、前作のワンパターンなスタイルは大幅に見直され、今回はとてもバリエーション豊かになっている。クエストはストーリー仕立てになっていて一つ一つ異なるシチュエーションのものをこなしていく事で進んで行き、それぞれバリエーションが描けていて面白く、また飽きが来ない。

但しその分スクリプトによる展開の強制力も高くなっていて、一つ一つのクエストは前作程攻略法に幅が無い。これは少し残念にも思うが、反面それに固執しすぎて単調になってしまった前作を克服する為には、このような方法を取るしかなかったのだろう。ここにもまた「ソーシャルステルス」の挫折が伺える。

一方前作のメインクエストを構成していたスリや尋問といった要素はサブクエストに移され、本筋とは関係なく自由に遊べるようになった。元々それ自体は面白くないわけではなかったので、自由且つ適度に遊べる分には作品のスパイスになっていて丁度良い。

スクリプトを活用した分見た目の派手さも増した。一石二鳥だ。

■暗殺業はお金が掛かる

新しく追加された要素も中々いいものが揃っている。鍛冶屋や染物屋などの商店では武器やアイテムが購入出来、マップ中に点在する娼婦や傭兵、盗賊は雇う事で同行させクエスト等を有利に進める事が可能だ。また収集したアイテムを飾ったり建物を建てたりする事で、自分の領土となる街を復興していく要素もある。

しかし最も重要なのはこれらを統べる貨幣システムの導入だろう。本作では何をやるにも金が必要で、例えば体力値は前作と違って有限で防具も壊れていくので、適度に鍛冶屋や医者に足を運ばなければならない。逆に街の復興に関しては、投資して復興していけば街の収入が上がるという事で、定期的にマージンを受け取れる様になるのが面白い。これにより単純にその場の金を得る為にも、またはそれを投資して後々更に巨額を得る為にもサブクエストをこなしたりアイテムを収集する意味が出てくるのである。特にアイテム収集は前作は完全に無意味だったので、この進歩はとても大きい。

ただこのバランスが上手く機能しているのは中盤までで、それ以降は手に入る金の量が増えすぎて破綻してしまうのが勿体無い。特に序盤から街の復興に費やしすぎると、その傾向により拍車が掛かる。これがシビアすぎるバランスだと嫌でもサブクエストをこなさなければいけないみたいな窮屈な事になるのでそれよりかはマシだが、もう少し緩すぎず厳しすぎずのバランスを最後までキープしてもらいたかった。

暗殺者と言えども先立つ物は金。その為なら何だってします。

■歴史は偉大也

作品の世界観についても触れておこう。グラフィックスは前作同様美しく、ストーリーも『ダ・ヴィンチ・コード』さながらのオカルト陰謀論が相変わらず繰り広げられてどちらも中々魅力的だが、本作の醍醐味は15世紀のルネッサンスを舞台にしているという、その世界観にこそある。

まず舞台をルネッサンスにするという、企画それ自体が素晴らしい。今まで歴史物のゲームとなると有名な戦争があった時代だとか、どうしても取り上げられる題材が限られていた。ルネッサンスもそういった従来の基準からすると適当な時代とは言えなかったが、本作は主人公が歴史の闇に潜む暗殺者で、同様に歴史の闇に潜む陰謀に立ち向かうという設定にする事で、見事に舞台にしてみせた。

一度舞台にする正当性が築き上げられればこれ以上に魅力的な題材は無い。有史以来稀にみる文化的革命が起きたこの時代にはレオナルド・ダ・ヴィンチやロレンツォ・デ・メディチ等歴史に名を残した実在の人物、フィレンツェやヴェネツィア等実在する場所や建造物、そしてパッツィ家の陰謀等実在した陰謀がある。本作はこうした史実を積極的に絡めてフィクションを構築しており、架空の物語でありながらもとても説得力に溢れ、魅力的なものになっている。

ちなみに今回もまた公式では意図的に殆ど取り上げられていないが、ストーリーは前作同様現代人がアニムスという装置を使って、遺伝子に刻まれた先祖の記憶を追体験していくという設定の下で描かれている。ただこれは折角の時代劇に冷や水を掛けるかのようなものだとかなり批判された部分なので、それを反省してか今回は設定そのものは変わらないものの、それを表立って表現するような事は極力減らされている。

具体的には前作では一章終わるたびに現代に舞い戻されていたのが、今回はオープニングとエンディング、後は一回(厳密にはもう一回あるがほんの一瞬)戻されるだけだ。またこれにより現代編の面倒くさいアドベンチャーも無くなったので、ゲームプレイの九割以上の殆どは中世ヨーロッパで過ごす事が出来るようになっている。

レオナルド・ダ・ヴィンチもレギュラーで登場。かなりのひょうきん者である。

■歴史教材としての『Assassin's Creed II』

本作は史実を積極的に活用しているので、当時の歴史や社会風俗を学ぶ初歩的な教材として、或いは観光ガイドとしても優れている。特にライブラリー機能が秀逸で、名所や著名人、或いは当時の風習等の情報がライブラリーに沢山記載されていき、実際のゲームの場面と照らし合わせながら読んで理解していく事が出来る。このような機能は他の作品にもあるが、本作は実際の歴史や土地を舞台にしているので単純にゲームへの理解を深める以上の価値があるし、なにより書かれている文章自体がユーモアが効いているので読んでいるだけでも面白い。

正直な話世の中学生、高校生諸君はつまらない世界史の授業を受ける位だったらその時間をこのゲームを遊ぶのに費やした方がよっぽど歴史への理解を深 められると言っても過言ではあるまい。実際はレーティングがCERO-Zなので遊びたくても無理なのが残念極まりないが、本作のエンターテイメントとして成立しつつも、それを損なわず教材的価値も同時に持ち合わせようとしている姿勢は、教育者または教材を作る立場の人間にとっても大いに見習うべき点があるはずである。

フル3Dで再現された街を歩きながら解説を読んでいく、正に次世代観光ガイド。

■まとめ

シリーズが当初掲げていた「ソーシャルステルス」という理念は事実上挫折してしまってはいるが、それと引き換えにゲームプレイ自体はとても豊かで面白いものになった。およそ続編に求められる殆どの期待に応えられた、見事な出来栄えである。

ちなみにここまで取り上げるのを忘れてしまっていたが、本作はローカライズも日本語音声と字幕の他に、英語と更にイタリア語にまで切り替え可能だ。翻訳自体も自然だし、近年の作品の中ではダントツの仕事振りと言えよう。

これなら前作を途中で投げてしまった人にも薦められるし、『Grand Theft Auto IV』の様なフリーローミングの作品が好きな人にもうってつけ。寧ろ注意すべきは本作を気に入って前作にまで手を出してしまう事で、それだけは止めた方が良いと言っておこう。本作とは比べ物にならない酷い内容に後悔するだけである。



参考リンク


Assassin's Creed II 公式サイト
Assassin's Creed II 日本語版公式サイト
4Gamer.net - [E3 09]ルネサンス時代の暗殺者は空を飛ぶ? Ubisoft,「Assassin's Creed II」の詳しい情報をE3で紹介
4Gamer.net - [TGS 2009]プロデューサーが語る「アサシン クリード II」の魅力。ユービーアイがプレス向けカンファレンスを開催
Choke Point - 【E3 09】 Assassin’s Creed II プレビュー

Choke Point - 【GC 09】 Assassin’s Creed II プレビュー
Choke Point - 【TGS 09】 Assassin’s Creed II プレビュー
 2009/12/24
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