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Call of Juarez: Bound in Blood
開発: Techland 販売: Ubisoft - 2009
プラットフォーム: PC



■西部劇FPSの決定版

西部劇。かつてアメリカ映画界を席巻したこの一大ジャンルでは、多くのガンマンが活躍したと同時に名場面もまた数多く生み出された。市街地でのガンファイト、インディアンとの戦い、高速ファニング、そして決闘。西部劇に特別詳しくない人でも知っている、定番中の定番だ。

しかし一見してFPSと相性が良さそうな同ジャンルだが、実際には殆ど作品数が無いのが現状であり、更にまともに遊べる作品となるとほぼ皆無である。

そんな現状に憂いたTechlandが、真の西部劇FPSを目指すべく『Call of Juarez』を世に送り出したのが2006年。それまでの西部劇FPSとは一線を画す完成度から一定の評価を得たものの、総合的なゲームとしての出来という点で見ると依然問題点は多く、特にシューターとしての質については厳しい評価を下されてしまった。

それから二年半が経ち、起死回生とばかりに再び登場したのが本作、『Call of Juarez: Bound in Blood』である。そこからは前作で突きつけられた課題を租借し、当時問われた西部劇FPSとしての理想の在り方を誠実に求めようとする姿勢が感じられ、その末に本作は大きな飛躍を遂げる事に成功している。

結論を言おう。『Call of Juarez: Bound in Blood』は西部劇FPSの決定版である。

■ストーリー概要

本作は前作の20年程前、主人公だったReverend Rayの若かりし頃の物語。時代は南北戦争後期、Rayともう1人の主人公で弟のThomasは、南部同盟の兵士として北軍と戦っていた。しかし上官との仲違いや戦場近くの我が家と家族を守るため、二人は脱走を決意する。しかしその我が家や農園は北軍に荒らしつくされ、更に彼らの母親も殺害されていた。唯一生き残った三男のWilliamを連れ、兄弟はいつしか農場を再建する事を夢見つつ西部を放浪する事になる。

その後RayとThomasはどんどん堕落し、脱走兵として追われる傍ら保安官の娘に手を出し、あまつさえその保安官をも殺めてしまう。神学校に通っていたWilliamはそんな兄達を何とかいさめようとするが相手にされず、そのまま流れ流れてメキシコへ。そこには"ファレスの呪い(Call of Juarez)"と呼ばれる、アステカの財宝が隠されているという伝説があった・・・

西部劇版亀田三兄弟・・・ と言うと例えが酷すぎるか。

■西部劇を完全再現

『Call of Juarez: Bound in Blood』はポーランドのTechlandが開発した西部劇FPSで、前作『Call of Juarez』の続編である。

Techlandはかつては『Chrome』や『Xpand Rally』、『Crime Cities』等のゲームを開発していたが、世界的に見て殆ど無名に近いスタジオだった。そこから前作『Call of Juarez』によって一般にもその名が知れるようになり、現在では本作を開発した傍ら、他にも三本の作品を平行して開発する等、とても精力的な活動を見せている。

そんな経緯の中発売された本作であるが、その魅力はまずなんと言っても西部劇の雰囲気をゲーム中で完全再現している点だろう。前作もこの点は高く評価されていたものの、やはり地方のスタジオ特有の垢抜けなさは拭えず、同時期の一流作品と比べると大分見劣りする内容だった。しかしそれから二年半足らずでリリースされた本作では目覚しい進歩を遂げており、大手の大作と比較しても勝るとも劣らない仕上がりになっている。

本作の物語は主にアメリカ西部とメキシコ国境付近で展開され、傾向としてマカロニ・ウェスタンからの影響が色濃いが、他にも南北戦争やインディアン等のエピソードも散りばめられ、西部劇というジャンルを広く取り入れていると言えるだろう。そしてこれらの再現度は大変高く、グラフィックスを始め、演出や音楽に至るまで之総西部劇節で、西部劇ファンにはたまらないに違いない。

また本作は前作から一転してレールライドスタイルのゲーム進行に舵を切ったのも特徴的だ。ゲーム中は殆どの場面で先導役が登場し、彼らについていき派手な演出を体験しながら敵と戦っていく事になる。この事から本作が『Call of Duty 4: Modern Warfare』から影響を受けているのはまず間違いない。

このレールライドスタイルに関しては賛否両論あるが、少なくとも本作においてはその採用は成功しているように思う。元来固有の様式美が多い西部劇というジャンルは演出重視のレールライドスタイルと相性がよく、その組み合わせによってゲーム性を損なうことなく西部劇特有の持ち味も如何なく発揮する事がで出来ているからだ。またゲームとして同時代性の高い演出法を用いる事で、西部劇ファンでない人でも楽しめるものになっている点でも評価できる。

映画で夢見たあんな事やこんな事が出来ちゃいます。

■ディテールとパフォーマンスに長けたグラフィックス

前項と被る部分があるが、本作の西部劇への拘りの中でも、とりわけグラフィックスに対する注力は特筆に値する。元々Techlandは『Chrome』の頃から一貫して自社製Chrome Engineを改良して使い続けていたり、前作『Cal of Juarez』ではいち早くDirectX10に対応する等努力を重ねてきた印象があるが、今回本作にてその成果が一気に開花したようだ。Chrome Engineのバージョンは4になり、今世代の標準的なテクノロジーは全て網羅しつつ、見た目とパフォーマンス共に秀でたグラフィックスを描き出す事が出来ている。

見た目の良さに関しては西部の乾いた質感や、当時の時代考証に則った建造物のリアルさは勿論だが、特にディテールへの拘りが素晴らしい。銃撃により崩れる木柵、立ち込める砂煙や陽炎により揺らめく遠景等など、1つ1つは細々とした取るに足らない要素に思えるものまで本作は一切の妥協無く描ききっている。

そして更に銃器ともなれば存在そのものがディテールの塊の様なものである。ピースメーカーやウィンチェスターを含めた当時の銃器が多数登場し、モデリングからアニメーションに至るまで精巧に作られていて大変格好良い。こうしたディテールの積み重ねによって、本作は西部劇という舞台設定に説得力を持たせられているのである。

またパフォーマンスの点でも本作は非常に優れており、今世代のゲームの中では美しさと軽さの両面で、『Call of Duty 4: Modern warfare』や『Call of Duty: World at War』に匹敵する。また前作で問題になっていたローディングの長さも改善され、何分も待たされていたのが一変して十数秒足らずで完了できるようになった。

近年ではコンソール偏重に伴いPC版のパフォーマンスは蔑ろにされがちであるが、本作もまた他の作品同様マルチプラットフォームの中にあって、ここまでの快適さを実現できているのは高く評価できる。

技術良し、センス良し、パフォーマンス良しと三拍子揃っているんだぞ。

■ストーリーは脚本としてなら上々、ゲームとしてはもう一歩

ストーリーは前作でも評価が高かった点だが、本作も負けず劣らず魅力的である。基本的にはこの手の時代劇の文法に則って話は進むが、それを駆使しつつも勧善懲悪では括れない物語になっていて、FPS全体からみても珍しい部類に入るだろう。

特に本作は前作の20年前の話であるから、中盤までは想定されている結末には凡そ繋がり得ないような展開で進みつつ、後半徐々に伏線が収束していき前作との繋がりが明らかになっていく構成は鮮やかで上手い。しかも20年後のもう1つの物語に繋げつつも、本作での物語は完全に決着を付けてある種のハッピーエンドにしているのは、かなり絶妙な終わらせ方である。

しかし惜しいのはその良さがあくまでも脚本留まりで、ゲームプレイとは別枠になってしまっている事だ。つまりカットシーンだけでストーリーの説明をしてインゲームではドンパチだけという感じで、それぞれが上手く統一されていないのである。レールライドスタイルの展開も西部劇の雰囲気を楽しむという点までなら十分に機能しているが、登場人物間のドラマといった叙情的な部分に対しての訴求力は低い。

フェイシャルアニメーションが貧相であったり、インゲーム中の会話シーンは棒立ちになってしまうのもそう思わせてしまう要因である。キャラクターのパッと見の容姿や戦闘中のモーション等は非常に凝っているにも関わらず、ドラマの部分になると途端にそれを演出する為の意匠がごっそり抜け落ちてしまっているところから、恐らく作り手は出来なかったというよりもその重要性に気づいていないのではないか。

派手な演出や戦闘中のリアルなモーション、一方のフェイシャルアニメーションやキャラクターの演技の繊細さは、最終的には高い没入感を得るための仕掛けに過ぎないという点で同一のものであり、逆に区別を付けるべきものではない。脚本は常に良いのだからその盲点に気づいて、ドラマをゲームプレイに着地させる事ができればストーリーや舞台への没入感、ゲームとしての統一感も更に良くなるはずだ。

■西部劇らしさとアクション性を両立させたゲームシステム

さて雰囲気や見た目の良さは十分に触れたが、肝心なのはやはりFPSとして出来がどうなのかという点だ。前作はこの部分が芳しくなく、作品の問題点の殆どはここに集中していた。だが結論から言うと、本作は前作の要素を引き継ぎつつも問題点を改善し、一流作品に匹敵しうる完成度まで高める事が出来ている。前作の問題点は大きく分けて二つあるので、それぞれ項目を分けて個別に見ていくことにしよう。

まず一つ目の問題点は、根本的にシューティングとしての完成度が低かったという事である。作りこみは繊細さに欠け、更に標準的なFPSと比べて性能の低い武器しか使えないという舞台設定特有の制限が加わり、およそ快適さや爽快さとは程遠い出来だったのだ。本作はそういった不満に対し、一つ一つの問題点を実直に改善していく事で応えている。そして重要なのはその改善による伸び率がとても高いという点にあるのだ。

その中でも一番大きい改善は、銃の性能が上がってより直感的で撃ちやすくなった事だろう。前作と違って狙った所へはほぼ真っ直ぐ飛んでくれるようになったし、また一発の攻撃力も上がっており、敵のやられモーションや武器のサウンドも派手になった。こうしてメリハリを付けた事で、銃を撃って敵を倒すというFPSにとって最も原始的な快楽性も格段に向上した。

とは言え舞台は前作から変わらないので武器も当然原始的な物ばかりであり、普通のFPSとはプレイ感は大分違う。メインの武器となるリ ボルバーは装弾数が6発と少ない上にリロードも長いし、武器はどれもセミオートなので連射する際は全て手動で撃たなければならない。そういう意味で依然他のFPSよりとっつき辛い部分もあるだろうし、好みも分かれそうな気がする。しかし寧ろこれはPCゲーマーにこそ薦められる内容であると僕は思う。

装弾数も少なければリロードも長いので、必然的に一発一発が慎重にならざるを得ない。しかし近年大雑把なシューターが多い中、このようなデリケートさ、シャープさを求められるのが逆に新鮮で、一発に賭けて確実に撃ち込んで行く緊張感が心地良い。

しかしだからと言ってとてもストイックな内容というわけでもなく、慣れればある程度激しい撃ち合いも可能になるのが尚の事面白い。またリロードに掛かる時間も確かに一般的な作品よりかは長いが、かったるいと思う限界ギリギリの所で調整しているようでそこまで嫌らしく感じない。この西部劇らしさと今風のFPSのアクション性を両立させたバランス感覚は見事である。

加えてインターフェイス設計が大幅に見直された点にも注目したい。武器選択は『Crysis』のNano Suitの様にサークルメニュー形式を採用していて使い勝手は中々良いし、HUDもFading HUDを採用しつつ、情報の表示位置が画面中央に集中するスタイルになっていて見易い。こういったデザインも如何にも今時のゲームという感じだが、形式だけ模倣するのではなくちゃんと質を伴わせられているので相応の評価に値するだろう。

但し2丁拳銃時にオートエイム補正がかかるのだけは頂けない。恐らく単発式の武器でしか戦えない不自由さを補うための措置なのかもしれないが、コントローラー操作のコンソールならまだしもPC版では全くもって大きなお世話である。しかしその割にはオートエイムがかかるのは2丁拳銃時のみなので、必然性が良く分からない。ただどういう理由にせよ狙って撃つのを至上とするデザインの本作においてオートエイム機能は全く不必要だ。そのオートエイム自体はそこまで極端なものではないのが不幸中の幸いだが、せめてオプションで切り替えできるようにするべきであろう。

確実に狙って確実に倒す。これがしっかりしていれば近代兵器なんぞいらんのである。

■あの名場面を自らの手で

前項で触れきれなかった点を見ていきたい。本作ではFPSとしての基本的なシステムの他に、西部劇を演出する数々の特殊なモードが組み込まれている。これらもまた要素としては前作からあるものだが、本作でもそれらを引き継ぎつつ多くの改良がなされている。

まず前作からあった早撃ちを再現したコンセントレーションモード(バレットタイムの様なもの)は今回も健在だが、前作では一つだったものが本作では三つに分けられた。

一つ目は前作同様発動すると時間がスローダウンした中で二つの照準が左右の端から画面中央に向かって移動して行き、その間装弾数が許す限り一方的に撃ちまくれるというもの。これは機能としては前作とほぼ同じだが、発動条件が任意だった前作とは違い、本作ではドアを蹴破って建物に侵入する時等に発動する限定的なものとなった。その為これはゲーム性云々と言うよりも演出としての役割の方が強い。

寧ろ重要なのは後の二つである。こちらは後述する二人の主人公がそれぞれ持ち合わせているもので、任意に発動できる事から立場的に前作のそれに近い。この二つは操作や演出が若干違うが、機能としてはほぼ同一とみなして良いだろう。一度発動すると目の前の敵をほぼ自動で殲滅させられるので威力という点では前作以上となっているが、代わりに発動条件が有限で敵を倒してゲージを溜める事が必要になり、また溜まった後も時間制限ありで超過するとゲージがふりだしに戻ってしまう。

その為この機能を効果的に発揮する為には、自分の視野に敵がなるべく多く収まっているタイミングを見計らう必要があり、この万能すぎず使えなさ過ぎずの按配が面白い。また目の前の敵を安全かつ確実に始末できるという点では危なくなった時の緊急退避としても使えるので、初心者救済用として作用しているのも上手いと言える。

次に西部劇ではお馴染みの決闘は本作でも当然導入されているが、これも前作からはかなりの変更が加えられている。システムとしては決闘の場面になると視点が画面左に腰の銃を捉えた三人称視点となり、マウスで右手の位置を操作できるようになる。そして鐘が鳴ると同時にマウスを銃の方へ持って行き、引き抜いたと同時に照準が下から上へ移動して行くので、相手の急所に合わせて撃つ。この一連の動作を如何に素早く確実に行えるかを競うわけだ。

またここでは左右に動くことで相手の視点をぶらしたり、鐘が鳴る前からなるべく腕を銃に近づける等色々と駆け引きの要素がるのだが、これは口で説明しても難しいので下の動画をご覧になって頂きたい。実際操作して見ると言うよりもずっと直感的で、前作のような明らかにゲーム然としたシステムと比較しても、西部劇らしい演出と操作を上手く両立できている。

しかしこれは演出としては面白いが、ゲームとしてはイマイチというのが正直なところだ。というのも例え負けてしまっても直前でセーブされるので、単に勝てるまで繰り返せば良いだけで、決闘としての緊張感が無いのである。かといって例えば負けると大きく前の方まで振り戻されるようにしても、今度は緊張感は確かに得られるだろうが負けた時の理不尽さも比例して大きくなってしまう。

そういった点からどうにも決闘という内容自体が今時のゲームには合わないという風にも思う。前述した通り雰囲気の再現性は高いので、この場面はそれを楽しむものとして割り切った方が良いだろう。

西部劇でボス戦と言えば決闘。これは真理。

■ザッピングシステムの変更は吉と出るか凶と出るか

前作のもう一つの問題点は主人公のザッピングシステムであった。これは二人の全く異なる性質の主人公がステージ毎に交互に切り替わっていくもので、演出上は面白い効果として働いていたものの、ゲームとして見ると二人の性質があまりにも違うため作品として一貫性が保てないという問題があったのである。またただでさえFPSの基本がなってなかった上に、一方の出来が輪にかけて良くなかったので、前作はこれによって大分評価を落としてしまっていた。

本作もこのザッピングシステムは継承しているが、同時に幾つかの修正も施されている。まず二人の主人公の性質が前作ほどは極端に違わず、ある程度近しい関係になったという事。またそれぞれ違うステージを進む構成も見直され、本作ではステージは基本的に両者共通になり、またどちらの主人公を操作するかもステージ開始時に選択できるようになった。その上で選択しなかった方はサイドキックとして同伴する形になり、各主人公毎の変化は、要所によってステージ内でそれぞれルートが細かく分岐する程度に留まる様になったのである。

この変化は前作のアンバランスさを是正するという点では上手く行っており、どちらでやっても作品としての一貫性を感じられるようにはなった。しかし逆に言うとそれぞれの差が無く当たり障りの無い内容になってしまってもいて、わざわざザッピングする必要性が薄くなってしまっている。それは特に二人の主人公の描き分けがあまり上手く行っていないのが主たる原因のように思う。

ここでそれぞれの主人公について個別に見ていこう。まず第一の主人公であるRayは前作から引き続きの登場であり、2丁拳銃を主軸にした戦闘スタイルも変わらない。またダイナマイトを使う事も可能で瞬間的な火力は総じて高いが、逆に遠距離への攻撃はあまり秀でていない。この辺は前作を基調にしつつも近~中距離に特化させたデザインになっていて完成度が高く、前述したオートエイムの問題が多少ちらつくものの、殆ど文句は無い。

寧ろ深刻なのはもう一人の主人公のThomasの方である。Thomasは前線でバリバリ戦うRayとは違い、遠距離攻撃やスニーキングを主体としており、前作で言うところのBillyの立ち位置に近い。拳銃の2丁持ちは出来ないので近距離では火力不足に陥りがちだが、その分スコープ付きライフルを使った狙撃や、弓矢や投げナイフによる隠密攻撃、または投げ縄を使って普通では行けない場所に移動してからの奇襲に長けている。

しかしこう書けば聞こえは良いが、その殆どが実現できていないのだから困ったものだ。まずスニーキングというのが無理で、序盤のチュートリアルステージを除くとそのような戦い方が出来る場面は全く無い。その為弓矢はまだしも、威力が低ければ着弾も遅い投げナイフは完全に無用の長物と化してしまっていて、結局最後まで使う機会が無かった。また投げ縄を使っての奇襲もあくまでもスクリプトイベントとして組み込まれているにすぎず、通常時にそれを活用した戦闘というのも全く出来ない。よって残された唯一性はスナイパーライフルを活用できる事くらいになってしまう。

そのスナイピング自体は面白いし、FPSとしての基本的な部分も良く出来ているので決して悪いと言う程の酷さではない。しかし全体的に見ると劣化版Rayという感じになってしまっていて、やはり特徴を描ききれていなければ、わざわざ主人公を分けた必然性も曖昧になってしまっているのである。尚Thomas編の前身となっているBilly編は前作の中でも最も評判が悪い点の一つだったので、今回で多少改善されているとはいえ、依然足を引っ張っている所を見ると、何だかジンクスになってしまっている気がする。

ザッピングシステムに話を戻すが、これに関しては前作と比較してどちらの方が良いと判断するのは難しい。確かに無難な内容という点では本作の方が遊びやすいが、それは同時にスタイルだけが残って実が伴っていないという事でもあり、この状態はTechland自身も望んだものではないはずだ。あくまでも理想を言うならば、Thomas編の完成度をもっと上げるのは当然として、その上で前作と本作の丁度中間くらいの所に着地点を置ければ良かったと思う。

■イマイチ振るわない新規要素

ここまで如何に前作から改善されたかという点ばかり触れてきたが、勿論新規要素も無いわけではない。しかしどれも出来は今ひとつで、それが本作にとってプラスに機能しているかは甚だ疑問である。

まず一つめに追加されたのが店と金の概念で、倒した敵が落としたりステージに散らばっている金を集める事で、時々登場する店で新しい武器やアップグレード版を購入できるというシステムだ。しかしその店がレールライドスタイルの展開の中で唐突に割り入るような形で登場するので、その度に話やゲームの流れが中断されて興が削がれる。

ここでの新しい武器を手に入れたりアップグレードしていく事自体は悪くなく、見た目が変化していく面白さは勿論、細かい差ではあるが武器の性能が変化していく事で、ゲーム前半と後半のプレイ感覚に変化が生じるのも単調さを避けられていて良い。しかしだからといってそれをお金を集めて店で買うシステムにする必然性はなく、もっと倒したボスから拾うだとかいった合理的で自然な方法があったのではないか。

次に先の店と金の概念と多少連動している部分があるのだが、全15ステージ中で二つあるフリーローミングステージも余計な存在だ。そのステージでは他のレールライドスタイルの展開とは一転して、広大なマップの中で幾つかのミッションを請け負い金を稼ぎつつ、自由に散策する事が出来る。しかしマップの密度の低さ、ミッションの少なさからフリーローミングとしておよそ真っ当に機能しているとは言い難い。

そもそもフリーローミングとして良く出来ていたところで、本作の主軸がレールライドシューティングである以上、店同様その存在自体が違和感がありすぎて不釣合いだ。ただマップの広さやグラフィックスの精度に比べるとパフォーマンスは非常に良好で、Chrome Engine 4の性能の高さだけはまじまじと感じ取る事が出来る。なので一種のデモンストレーションとして割り切るべきなのかもしれない。作り手側もそれを知ってか、この二つのフリーローミングステージは実はミッションを全くこなすことなくさっさと次のステージへ進めるようになっている(そんな事するなら始めからやるなって感じだが)。

景色は雄大で良いんだけど、ただそれだけです。

■まとめ

基本的に前作からのビルドアップなので、次世代的な面白さを感じられる作品ではない。しかしそのビルドアップの伸び幅は目覚しく、西部劇の雰囲気は更に魅力的に感じられ、そして何よりもシューティングとして立派に楽しめるようになったのが大きい。追加要素を中心に依然気になる部分もあるが、致命的な欠陥というわけではないので許容範囲だろう。前作や西部劇のファンは勿論、シンプルに狙って撃つ事が楽しいFPSを求めている人にもお薦めである。

また今回の飛躍ぶりを見て開発のTechlandも今後有望なスタジオだと改めて思った。この後も何本も新作が控えているが、これを弾みにして更なる躍進をして欲しいと願っている。



参考リンク


Call of Juarez: Bound in Blood 公式サイト
Call of Juarez: Bound in Blood on Steam
PCゲーム道場 - Call of Juarez: Bound in Blood Preview
360 Games Zone - Call of Juarez: Bound in Blood インタビュー

 2009/08/14
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