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S.T.A.L.K.E.R.: Clear Sky
開発: GSC Game Wolrd 販売: Deep Silver - 2008
プラットフォーム: PC



■夢よ、再び

激動の2007年、我々をあらゆる意味で驚かせた『S.T.A.L.K.E.R.: Shadow of Chernobyl』が発売されてから1年が経った。挫折と延期を繰り返し、それでもひた向きに自らの夢を追い続けたあの作品は、間違いなく後世に語り継がれるであろう名作となった・・・はずだった。

しかしGSC Game Worldは諦めていなかった!様々な賛辞を受けても尚、彼らの目はある1点のみに注がれ続けていた。A-Life。『Shadow of Chernobyl』で追い求め続け、そして結局掴むことの出来なかった、彼らにとっての遥かな夢。彼らはその聖域に再び近づかんと、『Shadow of Chernobyl』の続編としてこの『S.T.A.L.K.E.R.: Clear Sky』を世に送り出した。

良いだろう。分かった。蛇足が何だと言うのだ。彼らが夢を追い求め続けるのであれば、我々もとことん付き合おうではないか。たとえ火の中水の中草の中。そしてZoneの中までも。

■『Shadow of Chernobyl』がバージョンアップ

『S.T.A.L.K.E.R.: Clear Sky』(以下Clear Sky)は、『S.T.A.L.K.E.R.: Shadow of Chernobyl』(以下Shadow of Chernobyl)の1年前のチェルノブイリが舞台である。

最近Zoneでは"Emission"と呼ばれる天変地異が頻発しており、環境が非常に不安定になっていた。これ以上この状態が続けば、Zoneやその生態系が取り返しのつかない影響を受けかねない。プレイヤーはScarというStalkerとなり、Emissionの原因とされるStrelokなる人物を抹殺する為、彼を追跡しにZoneの奥地へ踏み入っていく事になる。

『Clear Sky』は前作の要素を殆ど引き継いだ作品となっており、基本的な部分は良さも悪さも一緒である。しかし前作で特に問題視された部分を含めて、様々な箇所に改良が施されており、さながら『Shadow of Chernobyl 1.5』とでも呼べるような内容に仕上がっている。

いきなり身も蓋もない話になるが、果たして良く言えば改良、悪く言えばマイナーチェンジな本作を新作として捉えられるかは甚だ疑問である。しかしその点を置いて考えれば、本作はより当初のコンセプトに近づいた、魅力のある作品であることは確かだ。

Zoneの地へ再びようこそ。

■Factions Warという回答

本作における改良点は多岐に渡るが、その中でも真っ先に取り上げるべきはFactions Warという新システムだ。

前作『Shadow of Chernobyl』を思い出して頂きたい。Zoneの中のStalker達は何をしていたか。自らの目的の為にZoneを闊歩していただろうか。対立する派閥と争いあう事はあっただろうか。いやいや、そんなことは無かった。Stalker達は基本的にその場で立ちすくんでいるのみだったし、派閥間の闘争も極々限られた領域で描かれているに過ぎなかった。

Factions Warとは、前作のそんなA-Lifeとの乖離を正すためのシステムである。本作におけるStalker達は、対立する組織同士で陣取り合戦を繰り広げるようになっている。マップには無数の陣地が設定されており、そこを自らの本拠地から出発して取り合い、その獲得量によってZone内の勢力図が変動していくという按配だ。

構造は意外と単純なものの、陣地が沢山設定されている為あちこちで同時多発的に戦闘が起きていく様が面白い。次の陣地へと向かうStalker一向とすれ違ったり、またはプレイヤーが知らないうちに戦闘が起きていて、辺りに死体が転がっているという状況もあり得る。Stalker同士の争いの現場も、元々AIが優秀な為観察しているだけでも面白いし、勿論自ら加勢する事だって可能だ。戦闘という側面においてのみではあるが、それでもA-Lifeの当初の理想に近づいたのは本作で最大限評価できる点ではないだろうか。

また前作の何処で何が起きているのか知りようが無いという問題点も、PDAのマップ上に全Stalkerの位置情報を載せるという方法で対策をしているのが良い。これによって例え自身がそこに居なくても、PDAを見れば何処で何の闘争が起きているのかが確認できるし、それによって自らの行動も決めていける等、ゲームとプレイヤーとの呼吸の関係が上手く出来上がっているのだ。

尚このFactions Warを十分堪能したいのならば、是非とも何処かの派閥に加入してゲームを進める事をお薦めする。終始無所属だと殆どのStalkerと中立の関係を維持することはできるものの、逆に殆ど勢力図が静止したままになってしまう。それでは『Shadow of Chernobyl』とあまり変わりが無い事になってしまうし、当然面白くも感じないだろう。

ここまでAIを能動的に動けるようにしたのは見事。

■よりシビアに、よりシャープに、そしてよりディープに

Factions War以外の改良点も見逃せない。PDAやインターフェイスの使い勝手の向上という基本的な所から始まり、従来の様々なシステムが見直され再構築されている。

例えば武器や防具は前作と違い金を払うことで修理が利くようになり、またアップグレードの幅も格段に広がった。そしてそれにより、ゲーム内の市場経済の概念、金のやりくりが前作以上の明確な意味を持つようになった。

また前作では辺りに転がっているだけだったArtifactも、本作では視認する事が出来なくなっており、特別な探知機を使って探していく楽しみが増えた。敵AIもカバーに身を預けたり、障害物を乗り越えてきたりと取れる行動が増えており、視覚的にもゲーム的にもより楽しませてくれる。モンスターもよりタフで強くなっており、前作以上の脅威となるだろう。

これらは全てゲームをよりシビアにするという方向性で調整されており、必ずしも『Shadow of Chernobyl』と同じノリは通用しない。武器や防具は修理とアップグレードが可能になった分初期性能は前作より低く抑えられ、また劣化速度も目に見えて早くなった。ArtifactはAnomalyの密集している地帯でしかみつからないようになり、手に入れるには視認出来ないまま、探知機のみを頼りにAnomalyの中へ飛び込まなければならない。

この調整は前作からの"生きる"というテーマが、尚一貫されている事の表れであろう。本作ではそれがより拡張され、Zoneを生活空間そのものとしていくかのようなリアリティを感じさせてくれる。前作でZoneでのサバイバル術を物に出来た人でも、そこから更に1歩先を行った体験を味わえるに違いない。

慣れてるからといって舐めてかかると、痛い目に合います。

■やっぱりZoneは一見様お断り

前項ではよりシビアなバランスになったのを肯定的に捉えたが、しかしそれは初めてこのシリーズを手に取る人にとっては、更に高いハードルとなる事を意味する。本作では始めに一応チュートリアル的な場面は登場するものの、前作以上のしょぼい武装であちこちで戦闘が多発する中に放り込まれるので、初心者のみならず前作の経験者ですら混乱するに違いない。

また前作をプレイしているのが前提なのか、本作だけでは世界観の十分な説明がなされていないのも問題だ。前作のPDA内の項目にあった辞典のような要素が本作でも欲しかった。

後バグが多いのもやっぱり変わらず。そのどれもがゲーム進行に支障がでる致命的なものであるのも最早必然。初心者は門前払いも同義のこの作品、どうしてもやりたいって人は順当に『Shadow of Chernobyl』からクリアすることをお薦めする。

■バージョンアップの限界

全体的に確実な進歩が見られ、その点では評価できる本作だが、しかし始めの方に書いた通り、やはりベースは前作のままという既視感が大きなマイナス点となっている。

恐らくそう感じてしまう最大の要因は、マップがほぼ完全に使いまわしだからなのだろう。発売前情報では、既存のマップも天変地異で大きく地形が変化しているという話が出ていたが、実際はそんなことは無かった。

確かにこの密度のマップを新しくこしらえるのは相当な労力が要るのは容易に想像できる。それどころか、本作は一応新規のマップも幾つか取り揃えてたし、その作りこみも申し分ない。また既存のマップでさえ、グラフィックスエンジンのバージョンアップによってより美しく描画されて、前作以上の神秘的な魅力を感じさせるのも良い。

しかしそれでも前作にあって本作には無いものを求めてしまう心境、例えば地下の研究所に潜るパートが無いだとか、または単純に新鮮さを欲してしまうのは、本作が名目上は完全新作として宣伝されていたからというのも大きいのではないか。

これがもし拡張パックであるとか、或いは前作の完全版と言ったような扱いをされていれば大分印象も違ったかもしれないが、しかし新作、或いは続編と呼ぶにはコンテンツの性質がかみ合わないのではないか。それどころか前作の存在感が絶大である分、見方によっては蛇足とも捉えられかねないのだ。

かく言う僕自身が、前作に他の者が侵犯できないある種の神聖さを感じていた部分があったので、よりそう思うのだろう。それを開発者自身が犯すのかよと興ざめした部分も少なかれあったのだ。その一方で前作のおかわりが欲しいという気持ちも同時にあった為結局手を出したし、そして相応の満足感が得られたのも今まで書いてきた通りである。

要するにこのようなゲームを販売する場合は、そのアプローチの仕方は熟考の余地があると言いたいのだ。本作の場合どれだけ前作を改良できていようとも、その改良するという性質上、拡張パックかスピンオフ程度の扱いが妥当だったのではないだろうか。

朝焼けが美しくもあるが、しかし既視感には敵わない。

■まとめ

より味わい深くなった『Shadow of Chernobyl』のバージョンアップ的作品。特にFactions Warの出来は一見の価値あり。しかし取っ付きにくさも面白さも健在なものの、基本が前作の使いまわしで尚且つ前作のプレイを前提とした作りである為、より初心者には薦め辛い作品となっている。前作をクリアして、それでも足りないという人にはピッタリだが、そうでない人は前作から遊ぶのが無難である。



参考リンク


S.T.A.L.K.E.R.: Clear Sky 公式サイト
S.T.A.L.K.E.R.: Clear Sky on Steam
S.T.A.L.K.E.R.: Clear Sky @ ウィキ
PCゲーム道場 - S.T.A.L.K.E.R.: Clear Sky レビュー
GAME LIFE - S.T.A.L.K.E.R.: Clear Sky レビュー
FPS Unknown - S.T.A.L.K.E.R.: Clear Sky レビュー
4Gamer.net - S.T.A.L.K.E.R.: Clear Sky レビュー
4Gamer.net - [E3 2007#46]発売日が妙に気になる「S.T.A.L.K.E.R.」の続編はグラフィックスの圧倒的進歩が魅力
4Gamer.net - [GC 2007#058]前作での反省点を生かして飛躍を遂げられるか? 「S.T.A.L.K.E.R.:Clear Sky」
Game*Spark - : さらに自由度は高くハードコアに!『S.T.A.L.K.E.R.: Clear Sky』インタビュー


2008/12/16
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