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Dead Space
開発: EA Redwood Shores 販売: Electronic Arts - 2008
プラットフォーム: PC



■新規性、ゼロ。実績、ゼロ。面白さ、満点。

『Dead Space』はある意味で、とても個性的な作品である。

しかし一般的なゲームの評定基準に基づくなら、本作に個性と言えるような要素は皆無に等しい。それどころか同ジャンルの先人達の特徴を徹底的に模倣した、普通に考えたらこれ以上にないくらい没個性的な作品だ。

この手のゲームは、これまた普通に考えたら並以下の出来で終わるのが業界の常識である。開発元のEA Redwood Shoresのこれまでの実績を見ても、そういう見られ方をして当然だった。

しかし蓋を開けてみたら違った。"面白かった"のである。例え丸パクリであったとしても、新規性が皆無だとしても、実績が無かったとしても、それでもゲームの最も原始的な目標である"面白さ"が、確かなものとしてそこにはあった。

このような条件下で、ここまでの"面白さ"を実現した作品は今まで無かったであろう。故に『Dead Space』は、とても個性的なのだ。

■アイスバーンに直滑降

『Dead Space』はEA Redwood Shoresが開発した、三人称のサバイバル・ホラー・アクションである。

遥か未来。人類は資源の枯渇した地球に見切りを付け、その手を宇宙にまで伸ばしていた。そんな中、惑星採掘艦USG Ishimuraからの救難信号を受けて、主人公のIsaac Clarke達が原因調査にやってきたところから物語は始まる。船内は荒れ果て、死に絶えたクルー達の代わりに闊歩していたのは見るもおぞましい、異形のエイリアン達だった。プレイヤーは何が起きたのかを究明し、そして地獄と化したこの船から無事に脱出しなければならない。

本作は上記の筋書きを読んでも分かるとおり、『遊星からの物体X』や『エイリアン』に類されるような、SFパニック・ホラーの定石を地で行く物語展開を見せる。あまりにもベタ過ぎて、ゲーム中明かされる意外な真実すら、いつも通りのお約束と感じさせるだろう。

物語がベタならゲーム内容はもっとベタだ。本作が特徴としている要素は、全て今までの同一ジャンルからの模倣で成り立っている。ここでざっと取り上げてみよう。

例えば宇宙を舞台にしたサバイバル、エイリアン化した元人間との戦い、オーディオログを中心にしたストーリーテリング、ゲーム全般の造形物のデザインは『System Shock 2』や『Doom 3』。斜め見下ろし形三人称視点、部位破壊等のシューティングシステムは『Resident Evil 4』。変則的な重力の中でのアクションは『Prey』。敵の動きを遅くするStasisや物体を引き寄せるKINESISは、それぞれ『F.E.A.R.』や『Half-Life 2』のSlomoやGravity Gunに該当する。

他にも細かい所でコレはアレが元ネタなのではと思わせるような箇所が幾つもあり、最早使い古された要素も含めて本当に多くのゲームからパクリまくっている。しかもそれを何も臆面もなく使っている所が身も蓋も無さ過ぎる。

まるでゲームマニア度チェックをさせられているような気分になる。

■それでも華麗に滑りぬける

普通だったらこのまま身も蓋も無いだけで終わってしまうのが世の常だが、『Dead Space』が凄いのはそんな踏み固められたジャリジャリのアイスバーンを物ともせずに、見事に滑りぬいた所である。しかも難易度が高かっただけに、なまじバージンスノーを狙って滑るよりも遥かに華麗で美しく見えるのだ。

ゲーム中は終始緊張感が張り詰めており、どこから襲ってくるか分からない敵を恐れつつ、慎重に1歩1歩進んでいく非常にスローな展開だ。しかし敵が出現すると一変してハイテンポで激しい戦闘となり、このサバイバル・ホラーとして重要な、緊張感と爽快感のコントラストが見事に描ききれている。

また、そんな戦闘の面白さを際立たせているのが本作の一番の特徴とされている部位切断システムだ。特定の部位を攻撃していくのに重きを置いたゲームは『Resident Evil 4』に端を発するものであるが、しかし本作は更にそこから頭ではなく手足を急所とし、またそれを切断していくという風にデザインを発展させている。これによって敵の四肢を吹っ飛ばしていくのは非常に爽快なものとなり、それと同時に敵の戦闘力や機動力を奪っていく戦略性をも生んでいるのだ。面白さのベクトルは変わらないものの、この変化によって本作は、元ネタの特徴をより明確なものにしているのである。

また変則的な重力、StasisやKINESISは上記のシステムのスパイスとして位置づけられており、前面に出すぎず、しかし不可欠な物として本作の戦闘に華を添えてくれるだろう。オーディオログやストーリーにしても同じで、意外性こそないが王道として安定した完成度で雰囲気を十二分に盛り上げてくれる。

いずれにせよ、本作の各要素の使い方は的確で狂いが無い。一見丸パクリの様でありながら、その実元ネタの本質を汲み取った上で吟味して組み合わせ、ある面では凌駕していさえする。このさじ加減はセンスというよりも、地道な作品研究の賜物に違いない。開発したEA Redwood Shoresの生い立ちから考えても、本作の裏には血が滲む様な努力があったのかもしれないが、出来上がった物はそれを感じさせない位鮮やかだ。

部位切断は単純な様で奥が深く、そして何より気持ちいいー。

■妥協なき雰囲気描写

サバイバル・ホラーにとってグラフィックスや音響は、単に高品質である以上に没入感や恐怖心を煽る物として重要な役割があるが、その点に関しても『Dead Space』には妥協がない。

本作の船内を始めとした人工物は『Doom 3』を彷彿させるような無骨なデザインで、対するエイリアンは有機的で気持ち悪く描かれている。この描き分けによるギャップはそれだけでも魅力的であるが、しかし最も特筆すべきは、その徹底したゴア表現を差し置いて他に無いだろう。

まず本作のメインが部位切断である時点で推して知るべしである。腕や足が吹っ飛べば血飛沫を撒き散らすし、それでも尚うねうねと這いずり回るエイリアンは気味悪いことこの上ない。船内も血膿で汚染されており、辺りにはぐちゃぐちゃになった死体が散乱している。終いには胎児型エイリアンまで出てきたりと、とことん生理的嫌悪感を煽る作りは、これまた『Doom 3』と『Resident Evil 4』を乗算したかのようなグロテスクさである。

当然我が国を含めて数々の国で発売禁止処分を食らったし、そうでなくとも近年犯罪への影響が叫ばれる肩身狭い中で、ここまで妥協せずにやり抜いたのには潔さすら感じさせて見事と言うしかない。

またグラフィックスと同等かそれ以上に凄いのが音響だ。ホラーにとって音響は、ある意味ビジュアル以上に重要な意味を成す。本作もそれを弁えておどろおどろしいBGMや環境音、効果音を駆使して極上の恐怖を演出する。音の定位感は非常に良く、がらんどうとなった船内に虚しく木霊する機械音や、何処からか聞こえてくるエイリアンの這いずり回る音や叫び声は酷く不気味だ。

本作の先人も含めてゲームというものは、どうしても音よりも見た目の方が重視されがちである。しかしそこから1歩飛躍して、ホラーというジャンルを通じて今までに無い音響空間を作りだしたのは、実に的確で効果的だったと言えるだろう。

グロテスクこそ最高のオシャレだ!

■先進的なHUDデザイン

ある意味本作で最も新しさを感じさせる要素は、HUDデザインにこそあるのかもしれない。確かに探っていけば、これも『Doom 3』のインターフェイス・デザインから影響受けているのかと思わせる部分もある。しかしこの分野はゲーム業界全体の同時代的なテーマとして扱われている分、『Dead Space』の取り組みは尚のこと際立って見えるのだ。

近年業界では、ゲーム画面からHUDを消す試みが成されている。グラフィックスの高度化に伴い更なるリアリティの再現の為、今まで必要な嘘として用いられていた体力ゲージやその他のステータス表示を、現実同様に見えないようにしようというわけだ。

そういった機運の中で、現在ではFading HUDと呼ばれる、ステータスに変化があったときのみその情報を画面上に映すという方法が主流になりつつある。この機能の良い所は前述した通りより高い没入感が得られる所だが、しかし逆にゲーム側が設定した変動がある時のみしか表示されないので、例えば弾薬なら弾切れ間際にならないとそれを教えてくれなかったり、或いは単純に今の状態を再確認したい場合も見ることが出来ない。このように今までは没入感を優先させた余りに、インターフェイスとして不便になってしまう場面も少なくなかった。

『Dead Space』はこの問題に対して、必要な情報は全てゲーム内の空間上に投影された映像として表現するという方法を試みた。例えばプレイヤーの体力ゲージは、操作キャラクターの背中に造形デザインそのものとして組み込まれている。武器の残弾数やインベントリ画面も、全部その場の空間に映像が投射されるような見せ方をしているのだ。

この表現は実際やってみると、想像以上に効果的に働いている。従来と比べて情報の欠落が無いどころか、操作キャラクターだけを見ていれば全ての状態が分かるという親切さ。そして空間に映し出される演出はこの作品のSF世界観をより際立たせており、中途半端にHUDを消すよりも遥かに没入感に貢献しているのである。

勿論この方法は『Dead Space』のような舞台設定で始めて成り立つものであり、全てのゲームに適応するには無理がある。しかし安直なやり方に走らず、作品にとって最も適したインターフェイスを自ら発案して見せた姿勢は、他のゲームも大いに見習うべきだろう。

便利、格好いい、没入感満点と三拍子揃っているんだぞ。

■細かい部分で惜しい所あり

抜群に完成度の高い本作だが、少なかれ惜しい部分もある。

まず武器がそれなりに種類があるにも関わらず、余程意識でもしない限り全てを使えるような機会に恵まれない。

これは武器改造システムとも連動している問題である。改造にはNodeと呼ばれるアイテムが必要なのだが、1つの武器を改造しきるのに必要な量がかなり多く、その為どうしても一極に集中して投資するような使い方になってしまう。そうすると改造した武器とそうでない武器の落差がハッキリ表れてしまい、またゲームを進めて行くほどその差がどんどん広がり、後半になるにつれ変化が少なくなってしまうのだ。

またサバイバル・ホラーにしては全体的に難易度が低い。弾薬や回復アイテムも終始余りがちで、どちらかというと小金稼ぎの為の物と化してしまっている。

本作はコンシューマをメインに開発されていて、コントローラでの操作に最適化されたバランスであるため、PCでマウス+KBで遊ぶとこの問題がより顕著になる。的確にエイミングができて咄嗟の動きにも機敏に反応できるマウス+KBは、このゲームにとっては性能が良すぎるのだ。もたついて正確に狙いをつけ辛いコントローラの方が本作のイメージには合っていて、難しくはなるがそれが面白さにも繋がる。

とは言え上記の点は意地悪く重箱の隅を突付いてみた程度のものであり、本作の完成度はこれらの問題を差し引いても非常に高い。1周する分には殆ど気にならないだろうから安心してほしい。

■これまでのサバイバル・ホラーを"終わらせた"作品

上記までは比較的割り切って作品を批評してみたが、ここでは僕のもっと個人的な意見を書いてみよう。今まで書いてきたように本作は非常に高い完成度の作品である点に異論は無い。しかしそう言いつつも、実は僕はこの作品をあまり心地よくは思っていない。

その理由は一番始めの話に戻る。つまり結局の所新規性、イノベーションが皆無なのだ。本作が完成度が高いからと言って、それは90点だった元ネタを95点にしたようなものだ。今までとは違うベクトルの作品にしてやろうという気概が感じられない。本作の方向性に然して伸び代があるとも思えない。

かと言って僕はこの作品を評価していないわけではない。始めのうちこそ姑息なゲームだと否定的に遊んでいたが、それでも沸いてくる抗いようの無い確実な"面白さ"に観念し、僕は最終的に傑作だと判断した。

思うに本作は何か新しいものを"始めた"作品ではなく、これまでのゲーム、特にサバイバル・ホラーを"終わらせた"作品とは言えないだろうか。従来の作品の成果を計測し、それぞれを抽出した上でベストな結果を打ち出す。正に本作は今までのサバイバル・ホラーゲームの功績の集大成なのだ。本作を遊ぶことで、これまでこのジャンルが歩んできた道を一瞥することができる。

当然これから開発されるゲームにとっては、本作は非常に明確な物差しとなるだろう。本作を超えるもの、本作には無い新しい何かを次代のゲームは目指さなければならない。特に本作に絶大な影響を与えたシリーズの最新作である『Resident Evil 5』は、その点を切に求められるはずだ。

他の大作が前を向こうとしている中で、本作はただ只管に後ろを向いている。しかしそんな立場としての役割を、本作は見事に果たしていると言えるだろう。そういう意味で僕はこのゲームを最大限に評価したい。

■まとめ

最後にグダグダと私感を書いたが、しかしぶちあけて言って本作は小難しい事は考えずに遊ぶのが一番正しいやり方なのではとも思う。頭空っぽにしていてもビジバシ伝わってくる確実な面白さがこの作品にはあるのだ。グロテスクなものが苦手という人以外は、是非とも手にとってみる事をお薦めする。



参考リンク

Dead Space公式サイト
Dead Space @ wiki
GAME LIFE - Dead Space レビュー
4Gamer.net - Dead Space
GAME Watch - Game Dudeの「大人のための海外ゲームレポート」 「Dead Space」


2008/12/23
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