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2010/03/31- "見せる事"と"やらせる事"


のんびりしていたら更新ネタが溜まってきてしまいました。『Uncharted 2: Among Thieves』と『Heavy Rain』はクリア。『S.T.A.L.K.E.R.: Call of Pripyat』はもうすぐクリアしそう。更にその後には『Metro 2033』が控えています。ピッチを上げていかなければいけません。

そういう事でまずは『Uncharted 2: Among Thieves』の感想から。古くは『クラッシュバンディクー』の開発元で知られるNaughty Dogの最新作で、GDCをはじめ09年度のGOTYを総なめした、正に09年を代表する作品と言えるでしょう。僕も前々から気になっていて、PlayStation 3購入の動機の一つだったのですが、いざやってみると・・・ うーん、うーん、と唸ってしまう。

まぁ一言で言うならハリウッド的演出をてんこ盛りにしたためた折衷主義的作品といったところでしょうか。本作をサードパーソン・アクションとして見た場合、何ら新しい事、或いは奇抜な事をしているわけではありません。『Gears of War』そのままのカバーシューティングを中心要素に据えて、『Assassin's Creed』的なクライミング、『Tomb Raider』的なパズル、『Splinter Cell』的なステルスをブレンドし、それらが随時切り替わりながら進行していく。破綻無く全ての要素を混ぜ合わせた手腕は大したものですが、しかし元ネタを全て遊んできた身としてはどうしても既視感がつきまとう。


そんな本作の見所となるのは多くのレビューでも言われている通り、その世界観やビジュアル表現にあるでしょう。まずゲーム界では長らく枯れていた冒険活劇ものを復活させた功績は大きい。冒険活劇と言えば従来は『Tomb Raider』シリーズの専売特許でしたが、あちらはもう完全に迷走していて先行きが危ういし、かといって同シリーズに匹敵する程の他のタイトルもこれまで登場してこなかった。そこにこの『Uncharted』シリーズが収まったって感じで、前作からその兆しはありましたが本作の成功が決定打になりましたね。

またこのような設定を活かした舞台選びも大変上手く、定番のジャングルに始まりネパールの市街、ヒマラヤ山脈、チベットの寺院等など冒険ものならではのロケが盛りだくさんで、他の競合作との差別化という意味でも効果的に働いています。更にその作り込みも素晴らしく、アーキテクチャやモデルがとても精細なのは勿論ですが、何よりも際立っているのはライティングと色使い。グローバルイルミネーションを大胆に使っていて、カラフルで尚且つ空間性のある画面を作り出せています。

コントラストの強い色を沢山使うのは、半端なセンスでは安い海外製品のパッケージみたいに、とんでもなく品の無いものになってしまいがち。一方最近の傾向として、特にUnreal Engine 3の使用作品に顕著な、基調色を中心に画面全体をモノトーンで染め上げる手法は、画面を整え易い反面安易で見飽き易い。僕なんかは絵描いている身だから、多くの作品がモノトーンに走る心情は何となく理解できるのだけれども、それにしても食傷過ぎると最近は嫌気がさしてきていた。だから本作がハイデフに見合った色彩センスを見せてくれたのは素直に嬉しかったですね。


しかしこうした美点を差し置いてやはり本作の最大の魅力となるのは、開発者が言うところの"アクティブ・シネマ"という演出技法でしょう。プレイヤーの自由操作を損なわせずに如何にしてそこに映画的な演出を盛り込むかという、要するにTPS版『Call of Duty 4: Modern Warfare』の様なもので、実際そう言いきって良い位際立っている。今世代の最重要課題の一つであるゲームの体験性に対して言及しているこの技法が、GOTYの決め手になっているのは間違いない。

特に本作の場合三人称視点ですから、FPSとは異なりカメラアングルも工夫の対象になっていて、基本は他のTPSの様に後方視点でありつつも、場面によってはアングルを大きく変えたり固定したりといった操作を積極的に行っているのが面白い。例えば壁を登ったりだとかアスレチックアクションをしている時は行き先が分かる様な構図になったり、或いは周囲の環境が良く映るように大きく引いた視点になったり、時には周りを眺め回す様に操作キャラクターを中心にグルーっと一周する場面もある。何か派手なイベントが起きている時も同様で、兎に角カメラが良く動く。

素晴らしいのはそんなにカメラが良く動くのに、操作に殆ど支障をきたさないという事です。プレイヤーの誘導や操作性の統率がとても良く出来ており、寧ろそれぞれのイベントの把握・解決のみに最適化された視点に随時切り替わるお陰で、普段より事が運び易くなっている場面すらある。ゲーム中派手なイベントを起こす場合、その視線誘導とプレイヤーの操作の自由度の確保は難しい課題ですが、本作はそれを上手く両立出来ていますね。言うのは簡単だけど、これ相当テストしたんだろうなぁ。


さて、ビジュアル表現や体験性が際立っているこの作品ですが、じゃあ僕的にアリかナシかと問われると、やはり最初に書いた通りうーん、うーんと唸ってしまう。その理由は単に言えば、"見せる事"が誇大化し過ぎている一方"やらせる事"に無頓着なのが気に食わない、って事になるのかな。

本作に限った話ではありませんが、最近の作品は体験性と言ってもそれを"プレイヤーに何を見せるか、その為の障害をどうやって取り除くか"と解釈しているものが多すぎる。しかしゲームは双方向性のメディアであり、"何を見せるか"と同等に"何をやらせるか"も重要な要素のはず。しかしそこに対する言及が貧しすぎる。

本作にしたって"見せる事"に関してはここまで注力していながら、一方"やらせる事"は『Gears of War』を中心とした過去作の功績の寄せ集めでしかない。そこからは"やらせる事"は今まで程度の面白さをキープしつつ、"見せる事"をどこまで飛躍させるかという、チャレンジ精神の裏に隠れた極めて怠慢な姿勢が伺い知れる。

例えば"見せる事"のみに注力したいのであれば、いっそのこと次回紹介する予定の『Heavy Rain』の様に、本気で見せるだけのゲームにすれば良い。しかしそういう思い切りすらせず、流行で且つほぼ完成しきった要素を折衷するだけで"やらせる事"を済ませてしまうのは、例えそのバランス調整だとかがよく出来ていたとしても、その姿勢それ自体がゲームに対する冒涜である。

まぁ冒涜は流石に言いすぎにしても、しかし近年の"見せる事"の誇大化に対する"やらせる事"の軽視は問題だと個人的に感じています。特にこういう作品がGOTYをとってしまうんだからねぇ。他ならまだしもGDCですらそうってのは理解に苦しむ。もしハリウッドを見習っているのであれば、それは"見せる事"とそれを用いた収益確保のノウハウとしては完成されている、ある意味確かなお手本かもしれないけれど、しかしそれだけに頼っていてはかえってゲームの独自性を見失う事にもなってしまう、という事をもっと深刻に考えて欲しい。

僕が今求めているのは"やらせる事"に軸を置いて体験性を追求したゲーム。例えば『Mirror's Edge』はその典型と言える。一人称で出来る事の拡張に挑戦したあの作品は、『Uncharted 2: Among Thieves』を始めとした所謂映画的ゲームとは対極にあり、故に僕は高く評価しています。

後はソフトのみならずハードウェア、つまりゲームに対する入力装置の進化も急務かもしれない。今回書いた問題の一因となっているのは、"見せる事"、言い換えれば画面の出力が複雑化しているのに、それに対しプレイヤーが"やれる事"、つまり入力が未だ単純なボタン操作でしかない、という所にもあると思う。

これを克服し出力と入力を一致させるには、より体感的なデバイスに乗り換えるのが最も現実的な解決策でしょう。残念ながらWiiはそのポテンシャルを秘めていながら、逆に出力に力を入れなかったりコアゲームと決別したせいで、新たな何かが花開く事はなかった。しかしWiiに遅れること数年、Xbox 360の『Project Natal』やPlayStation 3の『PlayStation Move』の登場によって、この状況は変わるはずです。両者とも本体のスペックアップはせずにこの新入力装置を投入するのは、恐らく今のゲームに足りていないのは出力の進化よりも入力の進化の方だと理解しているからでしょう。

『Uncharted 2: Among Thieves』の様なゲームはもう沢山。新デバイス登場によって、今の"見せる事"と"やらせる事"のアンバランスが是正され、僕の求める新時代のゲームが登場する事を願って止みません。

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