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2010/04/17- みんなみんな生きているんだ


結構前ですが、『S.T.A.L.K.E.R.: Call of Pripyat』クリアしました。マンネリ気味な内容、相次ぐクラッシュで一時はプレイを断念していましたが、後者が解決したので再開してみると、いやはや面白い。前作も前々作もそうでしたが、このシリーズは普通のゲームならば既にクリアしている位の時間遊びこまないと、その良さが見えてきません。

前に書いた通り作品から受ける印象は、よりフォーマルな箱庭FPSになったという感じ。広大なマップの中で気ままにクエストを引き受けていくスタイルである事も前回書いた通りですが、これがやればやる程良く出来ている。気ままといいつつもそこにはシリーズ特有のシビアさは健在で、また各クエストが物語的にもゲームプレイ的にもバリエーション豊かで、さながらオフラインMMOの再現か、或いは良く出来た『Far Cry 2』とでも言うべきプレイフィーリングになっています。

まず前回書いたTexture Detailを最大にする方法に起因したクラッシュの問題ですが、自分の場合Nvidia Control PanelのManage 3D Settingsの項にある、Maximum pre-rendered framesをデフォルトの3から0に変える事で直りました。今更って情報ですが、もし同様の症状に悩まされている方は試してみると良いでしょう。

内容の感想の方に話を移すと、新鮮味だとかパンチという意味ではやはり本作は過去作に比べて弱い、という気持ちに関しては結局最後まで遊んでも変わりませんでした。メインクエストはPripyatまで行って立ち往生している軍隊を撤退させるという地味な内容で、前々作は勿論前作と比べても華が無い。サブタイトルにもあるPripyat突入の場面がそこそこ盛り上がった位か。またマップも広大になったのは良いとしてもその分密度は薄く、またテクスチャ類の素材も使いまわしな為これもまた新鮮味に乏しい。


これらはパッと見ですぐ判る事なので、前回の僕のように序盤を遊んだだけでは、シリーズの出涸らしという印象を受けてしまうのも仕方が無い。しかしそこですぐ投げ出さず、暫く遊びこむと段々と良さの方も見えてくる。全くスルメゲーですねぇ、このシリーズは。

そもそも一番の誤解は、本作はメインクエストが中心的要素となる作品ではないという事です。今までのシリーズやFPSというジャンル自体の慣例から言うと作品の中核をなすのはメインクエストの体験で、サブクエストは良くておまけ、悪い時では単なる水増し要素でしかありませんでした。

しかし本作では全く逆なのですね。メインがしょぼい代わりに、サブクエストがとても充実している。これまでの定型的なおつかいクエストは無くなり、どれも複数名の固有のキャラクターが登場する一種のショートストーリーの様な密度や完成度があります。しかしここまでは他の作品でも見られるものなのですが、本作の更に凄いところはサブクエスト同士に連動性がある所にあります。

例えばある裏切り者Stalkerを探すクエストで、周りに聞き込みして回るわけですが、一向に尻尾を掴めない。辛うじて隣のマップに行ったのではという情報が手に入るものの、そのマップでも依然として見つからないし、次第にそのクエスト自体忘れていってしまうわけですね。

それで暫くゲームを進めて、別のクエストで復讐を依頼されてターゲットを探していたら、実はそいつが昔探していた奴だった!しかもあろう事かそいつはマップの拠点という、一番人目の付く所に堂々と居た!しかしそいつは偽名を使っていて、悪事を働いては姿をくらまして別人になるという事を繰り返していたのだ!という展開になってくるのです。

多分プレイ時間で言うと10時間以上という長い時間を掛けて、全く別物だと思っていた二つのクエストがリンクする。しかもそうしてリンクするに相応しいストーリーと言うか人間模様がしっかり仕込まれている。本作のサブクエストはこのような複雑な絡み合いをする場面が多々あり、場合によってそれはメインクエストにも及んできます。これに広大なマップによる連続性のあるゲームプレイが加わると、まるでZoneという一つ繋がりの世界の中で、単なるStalker Aではない固有の人物達が各々の目標や思惑に従って人生を送っている、そんな生活空間が画面の向こうに広がっているのではという気持ちになってきます。


ここで思い出すのが本シリーズが初期から一貫して掲げてきたA-Lifeの理念について。ゲーム内で生態系を再現するというこの理念は、より具体的にはMMOのプレイ体験をAIで再現するというものでした。しかしシリーズ一作目の『S.T.A.L.K.E.R.: Shadow of Chernobyl』はほぼ失敗、続く『S.T.A.L.K.E.R.: Clear Sky』ではFactions Warsという各AI勢力がマップをまたがって陣取り合戦を繰り広げるシステムを導入して一歩理想に近づきました。しかし今回の『S.T.A.L.K.E.R.: Call of Pripyat』はそれらとは全く違う方法でオフラインMMOの雰囲気を作り出そうとしている。それがこのサブクエストの作りこみなのでしょう。

またこれを別の観点で捉えると『Far Cry 2』に必要で、しかし全く足りてなかったものなのではないかという気もしてきます。それにそもそも本作は意識しているのかどうかは分かりませんが、少なくともプレイフィーリングは『Far Cry 2』にかなり近い部分がある。巨大なマップの中に一箇所拠点となる中立地帯があって、そこで物資を揃えたりサブクエストを引き受けてマップの要所へ遠征しに行き、用事が済んだり物資が足りなくなったりしたら中立地帯へ引き返す。こういう箱庭の中で行っては帰ってを繰り返すスタイルがまんま『Far Cry 2』なのですよ。

しかし『Far Cry 2』はまるで永遠に続く地獄の拷問と感じられる程途方も無く単調だったのに、本作ではそういうのを一切感じないのは、やはり各クエストが良く作りこまれているからだと思います。テンプレートに当て嵌めずに舞台となるロケーションや登場人物に応じたドラマやゲームプレイを用意する。それがピタリとはまれば、行っては帰ってのスタイルでもここまで作品の世界観が広がるのだ!単調に感じないのだ!


まぁ本作は前シリーズを遊びこんでいなければ手が付けられない初心者お断りなげームバランスな為、"『Far Cry 2』やるくらいだったら『S.T.A.L.K.E.R.: Call of Pripyat』を遊びなさい!"とは言えないのが現実なのですが、少なくとも僕の中では『Far Cry 2』の固有価値は殆ど吹っ飛んでしまいました。

このオススメしたくてもとてもじゃないけどしきれないゲームバランスはやはり本作の大きな問題点の一つです。それにじゃあ前シリーズ経験者は骨太な内容を楽しめるかというと、逆に今まで培ったノウハウが序盤から発揮されてしまい、前半からやたら高性能な武器が手に入ってしまって逆に簡単に感じてしまう面もある。全体的にバランスは前シリーズ程研ぎ澄まされたものは感じませんでしたね。

そういうわけで本作は前作を遊んで、その上でもっとこのシリーズを楽しみたいという人にはかなり満足のいく作品だと思います。ただそういう下積みが無い人にとってはどんなに面白い要素があってもそれを楽しむ事が出来ない状態になっているので、現在開発中と思われる『S.T.A.L.K.E.R. 2』は一度その辺はリセットしてもらいたい。その上で前々作と前作と本作の要素を一つに纏めて、そこに更に新規の要素をプラス出来れば、相当濃いゲームが出来るんじゃないでしょうかね。ちょっと無茶振り過ぎるかな?でも期待しています。

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