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2010/05/02- 詰めが甘い!


先月は二回しか更新できませんでした。今回紹介する『Metro 2033』もクリア自体は大分前にしたのだけれど、ダラダラしていたらタイミング逃してこんなに日にちが空いてしまった。いかんいかん。このHPの趣旨というか自分の好みから言えば、本来ならこの作品は真っ先に紹介するべきだったのに。

そういうわけで『Metro 2033』です。一般的な知名度はそこまで高くないと思いますが、一部のコアゲーマーからはかなり期待されていた作品。まずあの『S.T.A.L.K.E.R.』シリーズのコアメンバーが中心となって開発された新作であるという点。そして純ロシアFPSとしては恐らく初めてコンソールに向けて発売される作品とくれば、ロシアゲー界隈の事情を知っている人ならば期待しないわけがありません。

ところが実際に遊んでみると、やや肩透かしに感じたのが正直なところです。まぁ他のロシアゲーと比べると大健闘しているはずなのですが、期待値が高すぎたんだよな。ロシアの作品らしい独特の感性は感じられるし、主観視点による体験性の追求という時代のトレンドも捉えようともしている。傑作になるだけのポテンシャルは十分に備えていたはずなのに、その割にはあらゆる要素において詰めが甘すぎた。本当そう言うに尽きる作品だと思います。

『Metro 2033』はロシアの同名のベストセラー小説が原作のFPSで、物語の舞台となるのは近未来のモスクワ。2013年の核戦争により世界は壊滅し、モスクワで生き残った僅かの人々は放射能の汚染から逃れる為、メトロに身を潜めて生きる様になった。それから20年経ち地表は放射能により変異した怪物達が徘徊し、更にはDark Onesと呼ばれる未知のミュータントが人々を襲い始めていた。主人公のArtyomは義父の友人Hunterの跡を継ぎ、Dark Onesからメトロを守る為に奮闘する事になるというストーリー。


ストーリーやスクリーンショットを見るだけでも『S.T.A.L.K.E.R.』シリーズととても近い印象を受ける本作ですが、しかしゲーム性は『S.T.A.L.K.E.R.』シリーズの様なフリーローミングとは180度違い、一本道のストーリーラインを辿って行くオーソドックスな内容になっています。更に言えばロシア産ゲームとしては異例な程、欧米の流行の技法をふんだんに取り入れているのが最大の特徴と言えましょう。

特に意識している思われるのが『Call of Duty 4: Modern Warfare』で、上官が道を先導してくれるシステムや、スクリプトイベントが多数盛り込まれているところからは、強い影響を感じます。またガスマスクをつけると視界が狭まり息遣いがこもったり、オブジェクティブを確認する時はそれが書き込まれたクリップボードを手元に広げたりだとかいった、『Far Cry 2』的な主観視点の表現も多々見られて、その他の要素も含めてもうバカ正直と言っていいくらい徹底的に欧米式の真似をしています。


小説を原作にしているだけあり物語性に拘って作られており、その一環としてゲームで物語を記述する方法、感情移入を促進させる為の手段として、『Call of Duty 4: Modern Warfare』や『Far Cry 2』等の技法を持ち込んできたのだと思います。僕としてもこの二作は思い入れがあるし、本作の様な方向性の作品は好みなので、この体験性や没入感をどれだけ表現できているのか期待していたのですが、残念ながら良く出来ているとは言えませんでした。

欧米式を取り入れている部分に対しては共通して言える事ですが、特に良くないのがスクリプトイベントで、まず元ネタの真似留まりな為オリジナリティが無い。ただこれは真似のクオリティ次第でどうにでもなったりするのですが、肝心のその質も表面的な類似性は確かにあるものの、演出のセンスが悪い上にレールライド感が乏しくて、とてもじゃないけどオリジナルの没入感とは比較にならない。

例えばNPCがプレイヤーを先導するような状況では、後ろから敵が追ってきているだとか、あの手この手でプレイヤーがNPCについていかざるを得ない様に作るものです。絶えずプレイヤーのお尻を叩き行動を制御するのがレールライドシューターの作法であり、良くも悪くもそれによって没入感が生まれる。

ところが本作の場合脇道が結構あってそちらを探索していると仲間はずっと棒立ちで待ち続け、その間話も途切れてしまうという事が良く起きる。レールライド的にはこういう事が起きるのは不味く、しかもこれはほんの一例で他にもレールライドとは相性の悪い作りがあちこちに見られます。別に『Call of Duty 4: Modern Warfare』の文法が絶対だとは思わないしアレンジ出来るならどんどんやって構わないと思うのですが、それがお互いの魅力を打ち消してしまうのでは意味が無い。


寧ろ本作は『Call of Duty 4: Modern Warfare』の猿真似レールライドシューターとしてよりかは、よりロシア産FPSに良く見られる伝統的なFPSとして捉えた方が正解かもしれません。前述した問題点は見方を変えると、『You are Empty』の様なオールドライクシューターに、レールライドな演出をそのまま当て嵌めようとして失敗してしまったという気がするのですね。前半と後半はその傾向が殊更強い為良い印象を抱けなかったのですが、しかし中盤は単独行動の機会が多く、シューティングはそこそこ個性的で面白いし、作りこまれたアーキテクチャを眺める余裕も出てきて結構楽しめました。

中でもガスマスクの扱いや弾薬マネージメントが特徴的で良いですね。前者は過酷な環境を表現する為の演出的側面が強いですが、フィルターが切れるまでに安全地帯に辿りつかなければいけない時間制限の役割も備えていて、それによってより過酷さが強調されて面白い。一方の弾薬マネージメントは『S.T.A.L.K.E.R.』以上にシビアで、絶対的な弾薬数が少ないにも関わらず敵は硬く、必然的にアサルトライフルでありながら殆どスナイパーライフル同然の一発必中の戦い方が求められてきます。またこれに伴って威力の低い通常弾と敵の装甲を貫通してダメージを与えられる軍用弾の使い分けや、弾薬節約の為のナイフの使用も意味あるものになっている。

トップに貼ったプレイ動画は本作の面白さが一番凝縮されているステージで、冴えないスクリプトイベントなんか使わなくても環境の苛酷さをゲームプレイと連動して表現できれば十分没入感は得られるし、その方がロシアゲーの伝統から考えてもよっぽど安定しているはずです。


ただこの様にオールドライクシューターとして捉えても、完璧ではなく欠点も多く抱えているのが本当に惜しい。まずミュータント戦は全然ダメ。どの敵もこっちに突っ込んでくるしか能が無く、しかも足元狙ってくるので撃ち抜き辛い。またレベルデザインも捻りが無く、ある地点を通過すると四方八方から敵がわらわら湧いてくるというパターンばかりで面白みがありません。

対人戦も動画の様に視界が比較的確保できる状況ならば良いのですが、そんなの本作では寧ろ例外的で、殆どは室内の薄暗い中での戦闘になります。この室内での戦闘は時にはその作りこまれた環境描写が仇となり、ただでさえ暗いのに煙等で視界が悪くなって敵を捕捉する事すら出来ずに、一方的に攻撃されるみたいな状況になると楽しさも不快感で相殺されてしまいます。


更にはもっとも基礎的な体力の自動回復システムもあまり良く出来ていなくて、体力値自体は他のゲームと同等か寧ろ高いくらいなのに、一発攻撃が当たっただけで画面が赤く点滅したり血が流れる効果音がして、不必要にプレッシャーを掛けてくる。更に更に通常弾と軍用弾の使い分けは戦闘時には機能していますが、もう一つの通貨として使えるシステムは、お店に売ってるものがどれもステージ中で手に入るものばかりで上手く行ってない・・・

ってこれじゃ例外的に面白い部分があるだけで、基本的には欠点ばかりって事になってしまうじゃないですか!いや、ここまであれこれネガティブな事ばかり書き連ねてきてしまいましたが、ロシアゲーとして見たら遥かに良く出来ている方だしチャレンジャブルなのは間違いありません。しかしコンソールでも発売されたという事と、露骨なまでに『Call of Duty 4: Modern Warfare』を意識して同じ土俵で戦おうとしたから、どうしても厳しい目で見ざるを得ないわけです。

最初にも書いた様にロシア的感性は魅力的に感じられるし、欧米のトレンドを追っている部分も全く見込みなしというわけでは無く、そこそこ良い線行っているんです。行っているんだけど凡作と傑作を分けるツボを悉く外してしまっている。だから詰めが甘い。ボスが居る扉を開ける為のアイテムは全て手に入れたのに、直前のザコ戦で油断してゲームオーバーになってしまった。そんな感じなのです。

だから本作に必要なのは洗練。新たに何か加える必要はない。ただ個々の要素の関係性を吟味して整理し、お互い衝突せずに高めあえる様なデザインに再構築すればガラッとイメージは変わるはず。そういう意味で是非続編が欲しい作品ではありますね。

問題はこの本作自体にやる価値があるのかという事です。『You are Empty』や『Stalin Subway』も全然イケるという、生粋のロシアゲー好きにとっては欧米化されているところに物足りなさを感じるかもしれないし、逆にそれこそ『Call of Duty 4: Modern Warfare』の様な大作しかやりませんという人にとっては、本作の歪さは耐えられないはず。

逆にオススメできそうなのは基本的に欧米のメジャーゲームばかり遊び、ロシアゲーも興味あるんだけど、敷居が高そうで手が付けられないってタイプ。そういう人にとっては欧米的な要素はロシアゲー特有のクセの強さを薄めてくれて、ゲームに入り込む為のきっかけとして作用するのではないでしょうか。

本作はロシアゲーの良さも悪さもマイルドに味わえる作品。もし本作に全然ピンと来なければ恐らくロシアゲーは向いていない。もし楽しむ事が出来たのなら、特に荒廃した世界観やシビアなゲームバランスを気に入ったのであれば『S.T.A.L.K.E.R.』シリーズを、閉鎖的な雰囲気や物語性に惹かれたのであれば『Cryostasis: Sleep of Reason』をそれぞれ手にとって見れば良いと思います。

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