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2010/05/14- 雰囲気ゲーの極み


『No More Heroes: 英雄たちの楽園』をやっています。久々の日本のゲームですよ!須田剛一氏率いるGrasshopper Manufactureが2007年にWiiで発売した『No More Heroes』のXbox 360移植作。国内じゃ知名度は決して高くはないスタジオですが、海外では知る人ぞ知るという感じで高く評価されており、実際僕もこの作品の存在を知ったのは海外のニュースサイトの特集記事でした。

しかし僕はWiiを持っていないので当時は已む無く見送るしかなく、最近Xbox 360に移植されてようやく遊ぶ事が出来たのです。しかも僕はこれまで須田氏のゲームは『Killer 7』をちょっと触っただけで、本気で遊ぶのは実はコレが初めて。それでも移植版でしかもGHMは殆ど関わっていない完全な外注らしいので、純粋なGHM作品とは呼べないのかもしれませんが、それを差し引いても作り手特有の個性はひしひしと伝わってくる作品です。

ひょんな事から請け負った殺しの依頼により、主人公トラヴィス・タッチダウンは全米殺し屋協会(UAA)第11位の殺し屋として認定されてしまう。どうせだったらこのままランク1位を目指してみないと、UAAのエージェントを名乗る女性シルヴィア・クリステルに唆されて、トラヴィスの遅咲きの青春物語が始まる。

上記の通りストーリーはハッキリ言ってかなり投げやりな内容で、リアリティは皆無。寧ろ本作にとってストーリーはお膳立てに過ぎず、そこに映画やその他様々なサブカルチャーの要素をパロディしたり引用したりして詰め込み、ほぼそれだけで作品を作ろうとしている。言わば映画で言うところ『Kill Bill』等のタランティーノの作品、アニメで言うところの『サムライチャンプルー』みたいなノリの、極度に様式化された世界観の作品なのです。


当然その様な作品は、『Kill Bill』や『サムライチャンプルー』もそうであったように相当人を選びます。引用してきている元ネタはパンク・ロックだとかプロレスだとか、万人好みではない、少なくともゲーマーにとってはポピュラーとは言えないものばかりだし、しかもそれをかなり独善的に取り入れている。おまけにゴア表現も過激。洋ゲーマーならともかく、普段和製ゲームしかやらない人にとっては特に取っ付き難いに違いありません。しかもこれ当初はWii専用タイトルだったから、本当良く売る気になったなぁとしか言えないです。

但し逆に捉えれば大衆化の名の下に作風の無難化が進行している近年のゲームの中で、ここまで作り手の作家性や趣味性が発揮されている作品は極めて珍しく、僕にとってはそれだけでも評価する根拠になり得ます。それに幾ら取っ付き難いとは言え、GHMの前作『Killer 7』に比べれば日本のアニメ文化への歩み寄りやギャグ性が強くなっている分、まだ入り易い気もします。

また趣味性が強い分それに対する作りこみや拘りは半端なく、日本のそこらのメジャーゲームに匹敵するどころか上回っている部分すらあるのが本作の凄いところ。 例えばグラフィックスは移植版でより美しくなっていますが、オリジナルのWii版の画像や動画を見てみても、モデリングにしろアニメーションにしろ職人的な作りこみが発揮されていてとても見応えがある。カットシーンの演出もセンスがより洋画的、洋ゲー的でレベルが高く、日本のゲームにしばしば見られる拙さや三文臭さを感じさせません。


その中でも特にインターフェイスデザインやタイポグラフィへの拘りは他の作品とは明らかに一線を画していると言えましょう。近年の日本のゲームにとってインターフェイスデザインは、視覚的な洗練さや利便性共に海外に大きく遅れを取っている点の一つだと思うのですが、本作の8bitスタイルはとても簡潔かつスタイリッシュで、遊んでいて分かり易いし、単純に眺めていても楽しいのです。

とりわけこの楽しいインターフェイスって相当珍しい。普通インターフェイスってゲームプレイをサポートするのが本来の使命で、それ自体が個性を主張するのは小門違い。少なくともメジャーゲームはそういう考えで作っているのが大多数だろうし、だからこそFading Hudという物が生まれてくると思うんですね。しかし本作は全く逆で明らかに自らのデザイン性をプレイヤーに主張してくる。それでも決してゴテゴテにはならず、機能性とゲームプレイとのマッチングも考慮されていて、本来の使命から逸脱していない。この辺が非常に絶妙です。

これらのサブカルチャー趣味やゲームのディテールへの拘り方は、いずれも日本のゲームらしからぬもので、寧ろ洋ゲー的感性に近い。須田氏自身大の洋物パンク好き、洋ゲー好きらしいのでそれが色濃くあらわれているのでしょう。しかもインターフェイスデザインを見ても分かる様に、決して洋ゲー的感性にかぶれるだけでなく、その中で独自の強い個性も発揮できているのが、本作の一番の魅力なのではないかと思います。またそうした作品であるから、遊び手も日本のゲームよりも洋ゲーを良く遊ぶ人の方が、本作の優れている所を理解し易いかもしれません。


ところでここまで触れてきた点は世界観やグラフィックデザイン等、主にゲームの装飾部分に関してでした。それが優れている事は十分分かりましたが、一方で本筋のゲームプレイの方はどうなのか。実はこれが装飾部分の特殊さとは裏腹に、かなりオーソドックスなチャンバラアクションなのです。

ゲームの一番の目的は始めのストーリーで触れたとおり、全米殺し屋協会のランキング一位になる事で、その為に各ランカー達と戦っていくのがメインの流れです。ランカーと戦う際には、まずは群がる雑魚敵を倒しながらステージを攻略していって、最深部にボスとしてランカーが待ち構えているという、これまたオーソドックスなもの。

戦闘システムは『Devil May Cry』を大幅に簡素にした様なもの、或いは『Assassin's Creed』を攻め主体にした様な感じで、小難しい事は考えずにボタンを連打しているだけでも敵をバッサバサ斬っていけるお手軽なもの。オリジナルのWii版ではこれにモーションセンサーを使ったジェスチャーによってトドメの一撃やプロレス技等の必殺技が繰り出せませたが、Xbox 360は左右のアナログスティックによる操作がその代わりになっています。

良く出来ているのはボス戦で、毎回個性豊かな相手が登場し、戦闘でもそれが活かされていて面白い。逆にザコ戦は基本的に数種類の敵が毎回見た目だけ変わって出てくるのみ。そのバリエーションもマイナーチェンジみたいで大して幅がなく、レベルデザインも平坦で魅力に欠ける。

そういう訳でゲームプレイに関しては一長一短であるものの、全体的にグラフィックスや演出、インターフェイスデザイン程の魅力はなく、まぁ普通かなという感じです。ただもし仮にゲームプレイが装飾部分の個性と同等かそれ以上にアクの強い内容だったら、本作は更に取っ付きにくくなっていた気もする。だからこれは装飾を楽しむ作品だと割り切って、ゲームプレイはそれの潤滑油だと考えれば、決して悪くはありません。


逆に問題なのはランカー戦の合間に挟まるフリーローミングのパート。本作のメインは間違いなくランカー戦ですが、それに挑む為には挑戦料を払わなければならず、その為の資金をフリーローミングのパートで稼ぐシステムになっています。このパートでは小さな田舎町を自由に動き回る事が出来、アルバイトや殺しの依頼を受けて資金を調達する他、衣装や武器を購入したり、マップ上に散らばるアイテムを収集するといった事も出来ます。

先ほどランカー戦の合間に挟まると書きましたが、実際にはランカー戦よりもこのパートの方が時間的に長く、寧ろ本来メインであるはずのランカー戦がフリーローミングの合間に挟まっているっていう状態。そのフリーローミングも面白ければ別に問題ないのですが、これがまた全然面白くない。まず基本的にフリーローミングとしての作りこみが圧倒的に足りていない。インドアでは美しいグラフィックスもここでは粗が目立ち、入れる建物が無いのは勿論、通行人や車両も非常に少なく、おまけに殆ど一切の干渉が出来ない。

更に金稼ぎの為のサブクエストも単調の極み。サブクエストも大きく分けて二種類あり、アルバイトと呼ばれるものはゴミ拾いだとか芝刈りだとか、聞くとショボーンな内容の割には毎回独自のルールや演出があるのでまだマシです。もう一方の殺しのサブクエストはランカー戦におけるザコ戦を更に単調にした様なものが延々と繰り返されるだけで、これこそ本当に酷い。

何でこんなもの入れようとしたのか分かりませんが、もしボリュームの水増し目的だったらばもっとマシな方法は幾らでもあるでしょう。このパートは面白くないだけでなく技術力の低さも露呈していて、折角他の面で世間の大作と張り合える品質を維持していたのに余計ガッカリです。尚続編ではこれを反省してかフリーローミングの要素は全撤廃し、代わりにランカー戦を大幅にボリュームアップしたみたいで、極めて妥当な判断だと思います。


後もう一つローディングがやたらと長い上に頻度が多いのもとても良くない。これは移植版限定の問題で、場合によってはバックグラウンドローディングが間に合わなくて、カットシーンが突然映像だけ止まり音声が流れ続けるという最悪のバグが発生する事もある。しかし幸いにもXbox 360版はハードディスクインストール機能と最近可能になったUSBメモリ使用の合わせ技で、大幅に改善する事が可能です。以下方法を記載します。

(XBOX360 実績解除スレまとめ @wikiより転載)
1.USBメモリにゲームをインストール
2.ハードディスクからゲーマープ ロフィール・セーブデータなどの必要なデータをUSBメモリに移動
3.本体の電源を落としハードディスクを取り外す ←重要
4.本体再起 動後システム設定でUSBメモリをストレージ機器の整理(キャッシュクリア)
5.ゲーム起動
XBOX対応USBメモリーは下記を参照のこ と
http://www42.atwiki.jp/360nxe/pages/47.html

この方法を用いればローディング時間がおよそ半分以下に短縮され殆どストレスなく遊べるレベルになるので、本作を遊んでいる方やこれから遊ぼうと思っている方は是非試すと良いでしょう。ただ僕はまだ遭遇していませんが、移植版はローディングの他にもフリーズや実績が解除されないなどバグが多数報告されており、移植の質はとてもじゃないけど良いとは言えないみたいです。

まとめると、とにかく一にも二にも世界観やグラフィックデザイン等の装飾の魅力が全ての作品であり、楽しめるかどうかもそれが合うかどうか、ほぼその一点に集約されると思います。この雰囲気が好きな人なら多少のストレスに晒されながらもその抜群の個性に酔いしれられるはずだし、逆に嫌いな人はゲームの殆どの要素がストレス発生装置になるだろうから決定的に向かない。ただこの合う合わないはスクリーンショットや動画から受ける印象でほぼ判断できると思うので、そういう意味ではとても分かり易い作品とも言えます。

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