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2010/11/24- バーチャル世代のLEGOブロック


Twitterの方でチマチマ呟いていましたが、先月から『Minecraft』をやっています。まだ開発途中のα版にも関わらず、その中毒的な面白さが口コミで話題になり、一般公開開始の昨年の5月からジワジワ売れ続け、遂に60万本以上の販売を達成した、今最も熱いインディーズゲーム。国内でも今年の夏ごろから話題になり始めていて、僕もこの期に及んでやっとやり始めた次第。

正直やり始める前は「またいつもの8bit懐古的なゲームでしょ~」と高を括っていたのですが、実際にプレイすると五分もしないでその考えを改めさせられました。これはスゴイ。所謂UGC的なゲームな訳ですが、単に自由度が滅茶苦茶高いとかイマジネーションを喚起させられるとか以外にも、昨今のDLCビジネスだとかソーシャルゲームだとか、果てはPCゲームビジネスの構造欠陥とそれに対する新たな解答をも内包している気がしてきて、兎に角やればやるほど色々な事を考えさせられる奥深くてイレギュラーなゲームです。

まぁ語れる要素は枚挙に暇がないのですが、とりあえず本作を一言で表すと"LEGO meets RPG"って具合かな。現行バージョンではクエストだとか何らかの目標は一切存在せず、ゲームを始めると何も無い大自然に放り出されて、後は好きにやれって感じ。『S.T.A.L.K.E.R.: Shadow of Chernobyl』も真っ青の突き放し具合であり、懇切丁寧にプレイヤーを誘導してくれる最近のメジャーゲームとは完全に逆行する作りです。


ただこれでいじけていても埒が明かないので、とりあえず地面を殴ってみましょう。すると一ブロック削れて代わりに土ブロックが一つ手に入る。同じ要領で木を殴ってみると、木ブロックが一つ手に入る。今度は手に入ったブロックを持って地面に向かってインタラクトしてみましょう。すると指定した地面の一つ上に手に持っていたブロックが設置されます。以上が本作の基本であり本質です。『Minecraft』というタイトルの様に掘って素材を収集し、それを使って好きなように構造物を組み立てていく。そういうゲームなのです。

この様なプレイヤー自身に創作させる事をテーマとしたゲームは、有名どころでは『RPGツクール』だとか最近だと『Little Big Planet』等など多数存在しますが、本作がそれらと違うのは創作するための素材の収集から始めなければいけない点。『Minecraft』の世界はスクリーンショットの様に全てが大きいブロック単位で構成されており、土や木、鉄やダイアモンドなど様々な種類が存在します。そしてそれらは単純に集める以外に加工する事も可能で、木であればそこから木材を取り出せるし、木材からは木の棒が取り出せる。丸石からは釜戸を作る事が出来るし、釜戸に鉄鉱石と木の棒をくべれば、そこから鉄を練成させる事が出来る。そして鉄と木の棒を組み合わせれば斧だとかピッケルだとか、素材収集をより便利にする道具を生み出せる。こうして手に入った素材で構造物を組み立てつつ身の回りを豊かにしていき、更に採掘に励む。こういうプレイサイクルが正に"LEGO meets RPG"なのですね。


本作は見た目は勿論システムの方も現実世界の事象を上手く抽象化出来ていて、先程挙げた資源の採掘、加工、組み立ての一連の行為にしても、どれも現実と同様のプロセスを強いながらも、本来面倒くさい部分は省略し、面白い部分のみを抽出出来ているのがとても上手い。その意味で本作は現実の第一次産業から第二次産業までを極端にデフォルメした、自給自足シミュレーターとも言えるでしょう。別にファンタジーだとかSFだとか戦争だとかいった劇的な舞台を用意しなくてもいい。人が生きる様を再現するだけで、ゲームは立派に成立し得る。この誰でも分かる間口の広い世界観と、極度に抽象化されているが故の取っ付き易さが、本作が大ヒットした要因の一つなのではないかと思います。

但し取っ付き易いと言ってもそれは創作好きな人に対しての話であって、そもそも物作りに興味が無い人にとっては、プレイの動機や目的を全てプレイヤーの創作欲求に一任する本作のデザインは、一転して退屈なだけかもしれません。その意味で本作はMOD文化が根底にあるPCゲーム、しかもインディーズという形態だからこそ成功したのだと思います。

とは言えたかがインディーズされどインディーズというやつで、最初はほぼ一人で開発し60万本を売り上げ大成功した本作は、一方で大規模なチームを動員し100万本を売り上げても赤字という昨今のメジャーゲームに対して、多くの示唆を与えています。特にこういう創作欲求に応えていくスタイルは、かつてPCゲームがMODという形で実現してきた事であり、開発の大規模化とコンシューマ重視化の過程で多くが切り捨てていったもの。そういったメジャーゲームの進化に本作は逆行し、それがかつてのニーズや市場が未だ健在である事を証明しているのが、何とも皮肉めいています。

実際本作はMODフレンドリーで多数のMODが作られており、そのうちカスタムテクスチャは公式HPやクライアントから直接変更する事が可能。またグラフィックスとシステム共にシンプルなので、自らMODを制作する敷居も低い。僕も自キャラのスキンはツールを使って自分で作りました。メジャーゲームのMODとなるとここまで手軽には行かないわけで、この懐かしい楽しみのニーズを本作はガッチリおさえています。


勿論本作がメジャーゲームが切り捨てた過去を復刻する懐古趣味だけではないのは明らかで、同時代的な試みを数々しているのが尚のこと面白い。何故Xbox LiveやSteam等インディーズ作品の発表の場が充実しつつある中で、それらに頼らず独自の販売方法を展開したのか。何故完成したパッケージではなく開発途中の物を先行公開した上で、絶え間なくアップデートし追加コンテンツを投入し続けるのか。プレイヤーデータをクラウドで管理しようとしていたり、クライアントをダウンロードせずともブラウザからも遊べるようになっているのは何故なのか。

これらの前例が無く、かつインディーズらしからぬ充実したサービス見ると、計算高さというかMMOとかDLCだとかいった、様々なビジネススタイルへの意識を感じずにはいられません。特にプレイヤーデータのクラウド管理と、ブラウザから遊べる点は本作なりのソーシャルゲームの解釈なんじゃないかと思う。現状はクラウド管理できるのはプレイヤースキンだけですが、これがセーブデータにも対応すると、PCとネット環境さえあれば、何時でも何処でもゲームを続行できるようになります。ソーシャルゲームの定義は色々とありますが、その一つが高い携帯性、五分でも暇があればプレイできてしまう容易さとクラウドベースのデータ管理による手軽さだとすれば、『Minecraft』はその特性をPCゲームという立場から取り入れようとしているのかもしれません。

最近はApp Storeで『Minecraft』のパクリ版がリリースされて速攻削除されたのですが、その開発者は本物の方の開発者とコンタクトを取って、iPhoneやiPad版の開発を打診しているのだとか。もし上記のセーブデータのクラウド管理に加えてiPhoneでも公式に遊べるようになったらとんでもない事になりそうです。

こういう身軽さこそが『Minecraft』の最大の武器であり、進化の過程で必然的にヘビーになっていったメジャーゲームには出来ない芸当です。恐ろしいのは本作は未だβにも移行していない開発版ですから、iPhone版の話の様に今後更に化ける可能性があるということ。寧ろそうなって、これからも業界に対して問題提起をし続けて欲しいですね。

という訳でこの『Minecraft』、個人的には久しぶりのヒット作です。簡単な内容だし創作欲求をビンビン刺激してくれるので、寧ろ普段洋ゲーはやらないであろう、絵描き界隈の人達にもやってもらいたいなぁ。現在最新のα版は有料ですが、Classic版は無料でブラウザからも遊べます。気になった人は先ずは公式HPにアクセスしてやってみましょう。

Minecraft公式HP

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