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2009/01/28 - イデオロギーが塊魂


『Call of Duty: World at War』クリア。最後は日本への原爆投下の映像で終わり、その後出てくる「60 MILLION LIVES WERE LOST AS A RESULT OF WORLD WAR II 」のテロップの白々しい事。ここまで舐めきった事やるのなら原爆投下の場面もプレイヤーに操作させれば良いのに。それが「正義」というのなら何を躊躇う必要がある?「正義」の為ならいかなる残虐な行為も許されると今までしつこいくらい言ってきたくせに!

いやーいつになくイデオロギー色の強いゲームでした。戦争物のゲームには須らくそれがあるとは言え、本作は他にも増してドギツイ。それは日本兵が敵として出てくるから、と言う訳では個人的にはありません。確かに神風特攻隊の場面ではオエッとなる事もありましたが、それは本作以外でも共通してある事だし、本作の日本兵像もまた良くも悪くも今まで通りで、本作のみの突出したものは無い。寧ろ作品全体での復讐や残酷さを際立たせた演出そのものがイデオロギー臭さと直結しているように感じられます。


その意味ではロシア編の方が鼻に付きましたね。表現に不慣れでファンタジーになってしまっている日本兵と違って、ロシア編の敵のナチスや舞台のベルリンは扱いに慣れた物。日本像よりも圧倒的に貫禄やリアリティが感じられる。だがそのリアリティが曲者だ。

ロシア編では復讐が大きなテーマとなっており、メインキャラのReznov軍曹主導の下、十倍返しと言わんばかりにナチスに残酷な報復を繰り広げていきます。時には命乞いする敵兵を容赦なく撃ち殺したり、降伏した敵集団を焼き殺したり。しかし復讐と言うけどゲーム中ロシアが劣勢だったのは全7エピソードの中で最初の1章のみなんですよね。後は一方的にナチスを叩き潰していくのみ。歴史上の事実はともかくゲーム中ではこの配分では弱いものいじめしているようにしか見えん。


正義と復讐の名の下に、一度でも殴ってきた相手は命乞いをしよーが何しよーが、問答無用で抹殺、粛清!最後の最期、ハーケンクロイツの前に立ちふさがり抵抗したドイツ兵もめった刺しにし、そこにどかっとロシア国旗を掲げて「We won the victory !!」。これを作り、及び遊ぶアメリカ人は一切の自責の念にかられること無く、心の底から爽快な達成感を享受できるのだろうか。


多分できないのでしょう。それはChernovというキャラクターの存在によって、作品自らが証明している。Chernovはロシア編唯一の穏健派で独自に戦争を日記に記録しており、また降伏した敵兵を殺すことに躊躇する場面もあります。それをReznov軍曹は「祖国の為に殺すことが出来ない奴」と愚弄し、戦場日記を書いてることもまた「誰がこんなものを読む」と一蹴する。だけど僕は彼にこそ一番感情移入できる。彼のみが怨恨渦巻く戦場の中でただ一人冷静になれている人物、という風に僕には見える。また戦争を記録していくことも、出来事を歴史に定着させ後の子孫に還元するためにも不可欠な行為。決して邪険にはできまい。


Chernovの日記の一節は最終章の冒頭で読み上げられ、そこでは皆が英雄と慕うDimitri(主人公)の残酷な行為が私には理解できないが、英雄とはそういう行為に疑いを抱かぬものなのだろうと綴られている。分かってるじゃん。同じ行為でも正義は許されて、悪は許されない、その発想の破綻に気が付いているじゃん。作り手自身分かってるからChernovというキャラクターを登場させたのだろう。なら何故それでも残酷な復讐を続ける?何故そう考えるChernovを邪険にし、何も臆する事無く感動のフィナーレを飾る?

だから説得力無いんですよ。だからストーリーもテーマも空中分解してしまっている。これを思い切ってゲームの外の話まで拡大すると、僕はブッシュ元大統領の退任演説とクロスオーバーして見えた。そこではお決まりの善悪二原論が全快でしたが、今更何も説得力ありませんよね。本人達も分かっているはずだけどそれを認めちまったら最後の薄皮一枚のプライドすら無くなってしまうので、正義だとか英雄だとかいった括りで強引に納得しようとしている。そんな体裁だけになってしまっているからイデオロギーが浮いて見える、鼻に付く。両者はとても似ています。

つまり『Call of Duty: World at War』は実は現代アメリカの対テロ戦争の天邪鬼的な自己反省ゲームだった! ・・・と破綻したストーリーを無理やり深読みしたらこうなりました。まぁでも作った所が違うとは言え、同じシリーズが1年でここまで戦争に対する思考が変わったのはちょっと驚き。前作の方が現代戦で中東での戦争を舞台にしているのでよっぽどピンポイントだったのに、あの作品からは自己反省的なニュアンスは一切感じ取れなかった。そうなると次回作の『Modern Warfare 2』はどういったスタンスで作るのかは気になります。

無茶苦茶なストーリーについてばかり書いてしまいましたが、ゲーム部分は最後まで面白かったです。全編通して広い空間の中での集団戦が多く、それは戦場の迫力の再現、シューティングの快楽、戦術の多様性が全部イコールで繋がっており素晴らしい。『Call of Duty』シリーズでは一番楽しめました。ストーリー下の中、ゲーム部分は上の下といった感じが最終的な感想です。これは純粋に2周目もやりたいな。

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