Top Diary Review Text Gallery Link

2009/02/20 - ロストワールド


運良く手に入ったので『Jurassic Park: Trespasser』をやっています。海外の極一部のゲーマーや開発者達から伝説扱いされているゲーム。

基本的にこの作品、完成度で言ったら明らかにクソゲー。無駄に広くて全く変わり栄えのしないロケーションやシチュエーションが延々と続いていくのは、かつての『Soldier of Fortune II: Double Helix』のRandom Mission Generatorを彷彿させるクソ加減。しかしそれにも関わらず本作が一部で評価されているのは、今日のFPSにおけるトレンドの多くを98年の段階で先取りしていたからに他なりません。

本作を開発したDreamWorks Interactiveこと現EA LosAngelesは、Command & Conquerシリーズで有名な所で、FPSでは気になる物では『Clive Barker's Undying』や『Medal of Honor: Airborne』等、通常のFPSとは少し軸足のずれた作品を作っている。そんなスタジオが本作でやらかしたわけですね。

本作の要素は今から見ると驚かされるものが実に多い。No HUD、主観視点と人体の挙動のシミュレーション、自動回復、独立した操作体系を備えた右腕を使ったインタラクション、物を掴んで運んだり投げたりできる物理エンジンと、それを取り入れたパズル、ノンリニア、AI Ecology等など。何というか『Far Cry 2』も真っ青の欲しがり屋さんで、現代でそれぞれ独立して突き詰められている要素が、98年の時点で一堂に会していると言えましょう。

一切のHUDの排除。その代わりに体の一部を表示させ、
胸のタトゥーが体力ゲージに見立てられている。操作性も現実の人間のように鈍い。

腕は身体とは別に自在に動かせ、それで物を掴んで振り回したり投げたり。
またそれを実現している物理エンジン。物理エンジンの効いたものならなんでも掴める。

ゴールは決まっているが、その間のルートには自由度があるノンリニアなレベルデザイン。
肉食と草食のパワーバランスを再現したAI Ecology。或いはA-Life。

当然この無謀な試みは『Far Cry 2』以上に無惨な結果に終わってしまっていますが、完成度は別としてそのアイディアは後のFPSの進化を予見しているようですらある。寧ろ後の開発者達に再発見され影響を与えたという意味で、現代FPS史の下支えになっているとさえ言えるのではないか。

特に『Half-Life 2』への影響は露骨なまでに凄い。物理を活かしたシーソーのようなパズルはオマージュの域にあるし、Gravity Gunはまんま本作の右腕の取り回しを改良した物。これはValve自身が認めている事で、『Half-Life 2』開発当時のインタビューでGabe Newellが度々本作を引き合いに出しています。ベンチャーや学生等の埋もれた才能を引き抜いてきて、自慢の徹底したテストプレイでA級のクオリティに仕立てあげるValveの開発スタイルは、『Half-Life 2』初代の時点で確立していたわけですね。

残念ながら『Jurassic Park: Trespasser』自体はクソなので、後続の作品への影響位しか今のところ書ける事がないんだけれども、それでもまだ他の作品で真似されきれていない部分もある事には注目し続けるべきでしょう。

例えば主観視点で表示される体の部位がそのままステータス表示の代わりになる事は今の作品にも活かせる要素でしょう。TPSでは『Dead Space』が実用化しましたが、FPSでもそれは出来るはず。他にも武器の残弾数を主人公が「Much more」「Three, Two, One, Empty」といった具合に喋って伝える方法も中々良い。

主観視点の没入感への拘りがより重視されてきている今、まだまだ学べるものはあるかもね。

All trademarks and trade names are the properties of their respective owners.
Copyright (C) BaNaNaBoNa 2008-2009 All rights reserved.