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2009/03/14 - 怨念もまとめて冷凍パック


引き続き『Cryostasis: Sleep of Reason』をプレイ中。独特の美意識に裏打ちされた世界観が魅力的で、非常に楽しんでおります。

しかし展開自体は『Condemned: Criminal Origins』も真っ青なくらい平坦・単調であり、しかも『Condemned: Criminal Origins』のように戦闘が面白いわけではないので相当人を選ぶゲームであるのは間違いない。本作は云わば遭難船North Wind号という廃墟を探検するゲームであり、廃墟には当然ながらワクワクドキドキのアトラクションは無いわけで、そういうものを期待すると肩透かしを食らうでしょう。

ゲームは前の日記に書いたとおり時折敵と戦闘しつつ、Mental Echoによって過去と現在が入り乱れながら進んでいきます。Mental Echoで綴られる物語は、チュートリアルのそれと違って中長期的な視野にて構成されており、相当先に進めてみない事にはそれぞれの出来事の関係性は見えてきません。

またMental Echoはゲーム的にはパズルとしての役割があり、本作のパズル的要素の多くは死体の生前を体験している時に起き、プレイヤーは死の原因を取り払い、その死体の魂を救済していかなければならなりません。その行為が今後どういった話と結びついてくるかは未だ不明。

戦闘は副次的なものですが、それでも中盤以降は結構な頻度で戦う事になります。銃器は非常に扱い辛く、照準は表示されないのでアイアンサイト必須で、それでも少し動いただけで視界は大きくブレるわ狙ったとおりに飛んでくれないわで、近年のゲームの中ではダントツで扱い辛い。世界観を優先して考えれば本作は極寒の地で素早い身動きができるような状況ではない事、主人公は単なる気象学者であるという事から考えてリアルではあります。

そもそもGordon Freemanのように一般人のくせに突然驚異的な戦闘力を発揮する方がおかしいわけで。但しそこは突っ込んではならないゲームとしてのお約束で、それを無視している本作の操作性を容認するには、やはり上に書いたとおり本作は廃墟を探検するゲーム、ADVであるという事を理解しておかなければなりません。

ただそれでも本作をゲーム史の文脈で語るなら、幾らADV色が強くてもあくまでもFPSという事になるのかな。私感に過ぎませんが、本作は『System Shock 2』、『DOOM 3』、『Condemned: Criminal Origins』、『BioShock』辺りから相当影響を受けていると思う。それぞれのFPS作品の中にあるADV要素を抽出し、それを東欧独特の感性で纏め上げたのが本作と言えるのでは。

特にMental Echoというストーリーの伝達手段は原理的には『System Shock 2』、『DOOM 3』、『BioShock』のオーディオログと殆ど一緒。全てが終わった後の世界を歩き、その中で得られる過去の断片を統計して1つの大きなストーリーを導き出す帰納法的手法。しかし『Cryostasis: Sleep of Reason』が他と違うのは、今まで音声或いは文章という形態を用いていたこの手法を大胆にも実体化させた事でしょう。

そもそもオーディオログとは極端に言えば手抜きの手法です。本来ならきちんと映像化した方が説得力が出るものを、それをしないのは技術と労力がいるからです。反面オーディオログは基本的に脚本を読み上げるだけで良いわけですからずっと簡単。別の言い方をすればこの手法を発明した『System Shock 2』の開発当時の技術力では、作品が想定していたシナリオを律儀に映像化するのはとてもじゃないが不可能だった。その為止むを得ず、全てが終わった静的な空間をオーディオログで補完していくという手法を作ったとも考えられるのではないでしょうか。

ところが『System Shock 2』が発売されてから10年以上も経った今はもう状況は違う。当時はやりたくても出来なかった事も、今は手間隙を惜しまなければ実現出来るほどの技術力があります。『Crysis』や『Gears of War』がその良い例であり、あれらの作品は当時の人々が夢見たものをそのままの形で実現した映画型ゲームの1つの極みです。

そんな中『Cryostasis: Sleep of Reason』は帰納法的構造はそのままに、現代のリッチな表現力を宛がった作品と言えるでしょう。ここでの帰納法は最早苦肉の策ではなく、敢えて選んだ贅沢な選択肢です。事実Mental Echoの最中の出来事は、他の多くのゲームと同様にキャラクターが多彩な演技をしてみせる。

これにより本作は、従来のオーディオログでは得られなかった圧倒的な説得力を獲得しています。勿論そう感じるのは本作の個々の表現が非常に高いレベルで仕上がっている為でもあるのですが、それでもやはりただ音や文章だけのものと実際それが動いてみえるのでは訳が違う。

また状況説明に言語を介す必要が無くなったという事は、より直感で感じ取りやすくなったという事をも意味しています。これは要するに英語が分からない僕でも何が起きているのか理解できるというわけですが、これは僕に限らず誰にとっても分かりやすいものになっているはず。何せ今までのオーディログでは一旦言語としてインプットしたものを、脳内でイメージに変換し直して状況を想定しなきゃいけなかったわけですから。ここには小説を映画化したがる人々の欲求と同一のものがあります。

しかしそうでありながらも本作は帰納法が持っている想像の余地を損なっておらず、イメージの断片を自分なりに組み合わせて解釈していくのが面白い。

何だか良いとこ取りのようにも聞こえてきますが、当然これらは何度も言ってきているように、本作の抜きん出た表現力の裏打ちによって実現されているものです。こういうオタク臭い検証抜きにして本作を単独で見ても十分魅力的。

その一方でやはり過去作品からの影響を感じさせる部分も強く、幾ら東欧出身だからとは言え、いや寧ろ東欧だからこそ彼等が東西の垣根を越えてゲームを研究し開発しているという点を注目すべきです。どうも欧米市場・メディアは東欧ゲームを冷遇しがちですが、気づかない内に彼等の作品の水準は驚くほど向上している。西側も彼等の作品に真剣に目を向けるべきです。

最後に今回も動画を撮ったので暇と興味がある方はどうぞ。1本でも良かったのですが、複数撮っていたので折角だから2本掲載。1本目はMental Echoだけで進む船内病院のステージ。2本目はその直後の牢獄のステージで、こちらは敵との戦闘もあります。





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