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2009/06/09 - 何も残らない
『Silent Hill: Homecoming』クリア。プレイ時間はSteam統計で11.7時間。近年のゲームの中では平均的と言えるでしょう。
また平均的なのはプレイ時間に限らず、あらゆる点において"そこそこ"という、実に没個性的なゲームでもありました。目だった欠点は無いが引き込ませられるような魅力も無い。別の言い方をするならば、現世代のゲームの基礎的なセオリーや『Silent
Hill』シリーズの様式をトレースする事には一定の成果は挙げていますが、逆にそれに終始してばかりで主体性が無い。まるでサイレントヒルにかかった霧が如く掴み所がまるで無いゲームである、というのが通してやってみた感想です。
この際『Dead Space』と比較すると分かりやすいかと思います。既存の作品のパッチワークという点では両者は一見似ていますが、『Dead Space』は自身が模倣する対象の面白さを吟味した上で、余計な要素を省いたり他の要素と組み合わせる事で面白みを増幅させたりと知恵が利いていました。
ところが本作にはそれがない。模倣する対象としているのは1から4までの本家『Silent Hill』シリーズと、後は『Condemned: Criminal Origins』だろうと察しがつきますが、そこからの良いとこ取り仕舞いなのですね。特に本作は一応『Silent Hill』というブランド作品ですから、過去作の様式に従っていれば良いという驕りがあったのかもしれませんし、『Condemned』にしても元々非常に近い内容の作品でしたから組み合わせるのも容易だろうと胡坐をかいていたのかもしれません。
しかし対象が面白いのはそれを裏打ちする高度な技術や、またそれが発表された当時の時代背景を加味しての事ですから、それを度外視して見てくれだけ真似ても不完全なモドキか、或いは模倣対象の当時の様式しか浮かび上がってきません。本作の場合前者が『Condemned』から盗った戦闘、後者が従来の『Silent Hill』シリーズから盗ったストーリーや美術、世界観という事になるでしょう。
具体的にそれぞれの要素を見ていくと、戦闘は以前の日記で書いてきた通り、相手の攻撃を読んで隙を突く近接戦闘が主体。中盤まではテンポ良く新たな敵が登場してきていたので、そのたびに新たな戦略を練る必要が出てきて緊張感が持続していましたが、敵が出尽くした後半以降もそれを保たせる事は出来なかった。
『Condemned』でもそうですが、この手の戦闘は一度相手の動きを見切ってしまえば殆ど無傷で倒せてしまいますから、多少敵の出現頻度を上げた所で難易度は上昇するどころか簡単になってしまう。本作もご多分に漏れず、中盤の山場を過ぎてからは回復薬も余り気味になり作業プレイに近いものになってしまいました。
また終盤に登場する普通の人間の敵が更に印象を悪くした。こいつらは鉄パイプを持って殴ってくるのでいよいよ三人称版『Condemned』の様相を呈してくるのですが、『Condemned』と違いズンズンやってくるだけで、しかもナイフを適当に振り回していれば簡単にハメ殺せるという呆気なさ。ストーリー的に一応の説明はあるものの、それまでずっとクリーチャーと戦ってきた事を考えるとイメージぶち壊しにも程があるの。個人的にこいつらの存在は完全な蛇足。
一方美術や世界観は中盤以降はこなれてきた感があり、同じ廃墟にしても作りこみやライティングが気の利いたものになってきていました。少なくとも全部灰色でディテールの観察もままならない状況ではなくなった。
裏世界も中盤以降はそこそこの頻度で出現するようになって、超自然的な造形やゲームが進行する程おぞましい形態になっていく様は、本作の一番のハイライトと言って間違いないでしょう。欲を言えばもっと1つ1つのステージの滞在時間が長ければと思いましたが。
しかし上記の様に持ち直してきたとは言え、総合的に見ると非常に淡白で味気ないのは変わらない。同じ暗闇、廃墟という条件でもっと引きのある見た目を作れている作品は幾らでもあるので弁解の余地はありません。勿論それらの作品の中には従来のシリーズも含まれます。この点の作りこみのしつこさの欠如を見ても、シリーズの様式をなぞってはいるが、それそのものにはなりきれていないという印象。
ストーリーについてもまた同様。本作もシリーズの伝統であるカルト教団の暗躍とヒューマンドラマを掛け合わせた内容ですが、弟の失踪、精神病、主人公自身が事件の核心というネタは、まんま1から3のストーリーの良いとこ取り。
しかし元が5年以上前の作品ですから、今更それを猿真似されても時代遅れが過ぎます。技法的にもカットシーンだけでダラダラ説明されるのはとても退屈だし、プロット自体カルト教団だ神のお怒りだ何だと言われても、ひたすらダサくて寒くて白けるしかない。当時こそ許されていたかもしれませんが、この分野の表現が大分発達した今同じ事やっても陳腐なB級ドラマにしかなりません。
これら諸々の問題は、実の話3の時点で既に限界が見えていたと思うんですよね。ゲーム性やアートワーク、ストーリーが様式化してしまっているという限界。それを打破すべく4で大きく方向転換を図ったのだと思います。結果的にそれは大成功とはいかなかったわけですが、だからといって新しい要素がないまま従来の様式に退行するのは進歩的ではない。
まぁ本作を委託開発したDouble Helix Gamesにとっては、既に殆ど完成されたシリーズの続編を作れと言われても出来る事は限られてくるだろうし、そもそもこのスタジオ自体作っているものは版権ものかつ時代のトレンドを後追いしてお手軽に仕立てたようなゲームばかりだし、そこに開発依頼したという事は、版権ものを作るときのようにお手軽に元ネタを再現してお手軽に売り捌こうという魂胆だったのかもしれない。
もしそうだとしたら目論見は成功しているだろうね。"それっぽい"と言わしめる程度のクオリティは十分あるわけですから。またそういう意味で凡百のゲームと同じく、これもまた取るに足らない作品の1つであり、そういう物はこうやってうじうじ文句付ける労力すら勿体無いと思って、ただ静かに積んで忘れてしまえばいいのでしょう。ただ勿体無い事した作品だなぁという落胆が大きくて、文句の1つや2つは垂れたい気分。
まとめると最初に戻りますが、決して不出来ではないが魅力もないので敢えてやるべき作品ではないでしょう。もしアートワークに興味があるなら2から4を、ゲーム性に興味があるなら『Condemned:
Criminal Origins』をやった方が良いです。
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