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2009/06/13 - アイデンティティーは駄々っ子パンチ
『NecroVisioN』をプレイ開始。開発はポーランドのThe Farm 51というスタジオ。ここの前身は『Painkiller』を開発したPeople
Can Flyで、本作もその『Painkiller』の精神を引き継いでいるとされる作品。
本作はデモが結構前に出ていたのですが、その時触った印象では実の所殆どピンと来ませんでした。その後製品版が発売されてレビューがひとしきり出揃い、そこで要点を掴まえてから改めて遊んでみる事で、やっと面白さが分かってきました。事前に聞いていた通りユニークな作品ですが、寧ろあまりにもユニークすぎて相当人を選ぶゲームです。
『NecroVisioN』の先祖にあたる『Painkiller』といえば、『Doom』や『Quake』、『Serious Sam』に直結するオールドスクールな撃ちまくりゲームでしたが、本作は大勢の敵と激しく戦うという根本的な精神は受け継いでいるものの、その具体的な実践方法は大分違う。
先ず『Painkiller』のようなスポーツ性を重視した単純な操作体系とは異なり、本作はより今時のセミリアルに近いバランスで、特に舞台設定が第一次世界大戦という事も相まって武器の取り回しは相当悪い。どうやっても激しく動き回りながら撃つという事は出来ない仕様。
その分本作では近接戦闘に重きが置かれており、威力の高さや周囲を巻き込んで攻撃できる点から、銃器を使うよりも近づいて殴る方が遥かに効果的。攻撃手段も銃器によるMelee
Attack、キック、ナイフやシャベル等の得物を使った打撃と複数用意されています。
但し接近戦重視と言えども、『Condemned: Criminal Origins』や『The Chronicle of Riddick: Escape
from Butcher Bay』のように厳密な駆け引きを欲求される作りではなく、ただ手を振り回しているような、FPSに良くある典型的なMelee
Attackの感覚に限りなく近い。ハッキリ言ってかなり大雑把な触り心地です。
その上で敵はやたら大量に登場するので、その点が本作をやり始めて真っ先に戸惑う点になるはず。敵は沢山やってくる。しかし銃では太刀打ちできない。その代わり大軍に突っ込んで手を振り回せば敵が吹っ飛んで何となく倒せてしまう。しかしそれって面白いのか?
ここでそれらの行為を正当化するのが、本作独自のコンボシステムです。これは上記の多様な攻撃手段を複数組み合わせて相手を倒す事でコンボが発生し、一定時間攻撃力を増幅させる事が可能なシステム。発生条件は例えばキックと銃剣攻撃の組み合わせだとか、Melee
Attackでダウンさせた後にショットガンを食らわせるとか多種多様。そしてコンボが成立するとゲージが表示され、それがなくなるまでに更なるコンボを成立させていくと、Double、Tripleと攻撃力補正もどんんどん強化されていきます。また高連鎖状態では電撃を発生させて自分の周囲の敵をスタンさせる事までも可能。
これを利用して敵を加速度的に倒していくのが本作の醍醐味といえるでしょう。個々の戦闘は大雑把で面白くありませんが、コンボを紡いでいって次第に大軍を圧倒できるようになっていく所が、まるで落ちゲーで高連鎖をしている時と同じような快感を味わう事ができます。またこの辺が分かってくると一見セミリアルなバランスも、コンボによって瞬間的にスポーツFPSに変貌するような感覚がユニークに思えてくるし、大軍を圧倒するところは『Painkiller』に通ずるものもある。
しかしこれはこれで問題がある部分も少なくなく、まずコンボの発生させる為にはほぼ確実に近接戦闘を取り入れる必要がある。一応ヘッドショットを連続する事で銃器それ単体でもコンボを発生させる事は可能ですが、それよりかは近づいて殴った方が遥かに楽なので、必然的に使える武器とそうでないものとが偏ってきてしまいます。
またコンボの連続によってテンションが加速度的に上がってくると、元々大雑把な戦闘がそれを通り越して混沌とした状況となり、敵一人に対して手応えのある確かな戦闘をしているって感覚が薄くなってきます。この点についてはPCゲーム道場の「敵の群れの中に突っ込んで行って駄々っ子の様に手足をバタバタさせて暴れる」という表現が実に的を射ていて、総体として大軍と立ち向かっているという感覚を味わえればいいのか、いやそうではなく個々の戦闘にしっかりした手応えが欲しいのかという所で、好みが別れそうという気がします。
PCゲーム道場 - 『NecroVisioN』 First Impressions
問題点は他にもあります。コンボの上限となるFury Levelはマップに点在するArtifactを手に入れることで上げる事が出来のですが、このArtifactはSecret扱いで普通に進めていては決して手に入らない。『Painkiller』をやった事ある方ならご存知のはずですが、本作のSecretもそれと同様に難易度の高いものが多い。
ただ難易度が高いだけならやりこみ要素という事で別に構わないのですが、本作の場合上記のFury Levelの事があって、見つけていく事が殆ど必須条件になってしまっています。逆に全く見つけずに進めて行ったとして何らかのフォローがあるようでもないので、最悪の場合詰まってしまう恐れもある。Secretは本作や『Painkiller』が敬う、オールドスクールのFPSにとって慣習だったとは言え、それを強制するのはかなりの疑問を感じます。
またこれらをひっくるめて、要素がやたら雑然としているのが一番の欠点ではないでしょうか。上記の他にもバレットタイムとそれを発動させるアドレナリンだとか、半分だけ自動回復する体力ゲージ、2丁拳銃等様々な要素があり、それはセミリアルなバランスのものやスポーツ性の高いものがまだらに混在している。そしてそれらを制御するインターフェイスもまた雑然としていて扱い辛く、そしてゲーム中のそれらの導入や解説も不十分。つまり遊ぶ前に予備知識がないと訳が分からず、そんな不親切さがただでさえ偏屈なゲーム性を輪をかけて近寄りがたいものにしている気がするのです。
話が少し横道にそれますが、やはり東欧圏のゲームはインターフェイスへの意識が甘いですね。『Cryostais』くらいシンプルな内容なら気にならないのですが、『S.T.A.L.K.E.R.:
Shadow of Chernobyl』も本作と同じように一見様お断り状態だったし、要素が多くなった時にそれを取りまとめるスキルがない。
対する欧米はマルチプラットフォームでコントローラーを基準に作らなければならなくなったので、PCゲームにおけるそれも必然的に洗練されてきている(移植をしっかりやっていればの話ですが)。インターフェイスというかゲームにおける入出力の相関性は現代のゲームにおける大きな課題の1つで、同時に欧米と東欧や和製ゲームの間で大きく開きが出来てしまっている部分でもある。
そう考えると『Painkiller』は、実は東欧のFPSの中では相当考えられたインターフェイス設計をされていたんですよね。武器の大量化を防ぐために、2つの武器をプライマリとセカンダリという形で1つの武器に統合し、武器の交換作業を簡略化する。様々な特殊能力はタロットカードというスタイルを用いて、ステージに入る前に自分で組み合わせを弄る事が可能。代わりにステージ中ではその能力は完全自動化されるか、もしくはボタン1つで発動できる。というように極力複雑な操作を省こうという姿勢があった。
それが本作でここまでヘタクソになったのは何ででしょうね。聞くところによるとPeople Can Flyは『Painkiller』以後分裂して、一部はThe
Farm 51という新スタジオを設立して本作を開発しましたが、もう一方はMicrosoft Gamesに吸収されて、PC版『Gears of
War』の開発に携わっていたはず。だとすると能のある人無い人でバラバラになっちゃったのかな。確かに本作はどちらかというと『Painkiller』の劣勢遺伝子を多く受け継いでいる気がします。
しかし良い悪いは別にして、個人的には本作は決して嫌いではありません。ここまで厳しく書いてきたのは、このゲームのデザインに対して趣味が合う人が一体どれだけ居るのか、またその良さを広く伝える気があるのかどうかという点に苦言を呈していたわけで、逆に言うとそれだけエキゾチックで個性的なゲームでもあるし、ツボに嵌れる人にとってはたまらない味わいの作品なのではないかとも思います。
実際僕も本作のセミリアルとスポーツ性の混在したバランスは新鮮だと思うし、コンボシステムやSecretも楽しめている。グラフィックスも『Doom
3』や『Quake 4』のようにメタリックな質感を強調した絵作りで魅力的だと思うし、第一次世界大戦にオカルト・ファンタジーを加えたストーリーも風変わりで面白い。やはり曲がりなりにも『Painkiller』を作ったところですから、世界観はしっかりとしています。
ただ分かり辛く癖の強い内容なのはもうどうしようもない事なので、だからその分レビューが必ず必要なゲームだとも思いますね。僕も他人の話聞くまでどこを面白がれば良いのか分からなかったし。何も知らずに手を出すと間違いなく火傷するので、興味ある方はそこは必ず注意しなければいけないところ。
まぁまだ前半だし、後半はまた内容がガラッと変わるみたいなので、期待半分不安半分で引き続き進めていくことにしましょう。
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