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2009/08/06 - ズキューンバキューン


『Call of Juarez: Bound in Blood』をプレイ開始。前作『Call of Juarez』の続編で、ゲームでは珍しい西部劇がテーマの作品です。ただその前作や開発スタジオのTechland自体が二流でマイナーというイメージがあったので本作にもあまり期待はしていなかったのですが、ところがこれが中々良く出来ていて、意外な掘り出し物になるかもしれません。

ゲームのスタイルは『Call of Duty 4: Modern Warfare』に代表されるレールライドシューター。当然本家程良く出来ているわけではないし、作品の質自体は中堅より上だけど大作クラスにはもう一歩足りないというレベル。しかし元々辺境のゲームスタジオという出生にも関わらず、それに挫けず現代のトレンドを熱心に勉強、研究している様子が伺え、そして何よりも作り手自身が西部劇をこよなく愛して楽しみながら作っている感じがとても良く伝わってくる。こうした努力と愛情によって今までの冴えないマイナーな立ち位置から、一気にメジャー格までのし上がったその成長性が、作品の単なる品質以上に面白く感じる所です。

本作は前作の20年程前、主人公だったReverend Rayの若かりし頃の物語。時代は南北戦争後期、Rayともう1人の主人公で弟のThomasは南部同盟の兵士として北軍と戦っていた。しかし上官との仲違いや、戦場近くの我が家と家族を守るため、二人は脱走する。しかしその我が家や農園は北軍に荒らしつくされ、更に彼らの母親も殺害されていた。唯一生き残った三男のWilliamを連れ、兄弟はいつしか農場を再建する事を夢見つつ西部を放浪する事になる。その後RayとThomasはどんどん堕落し、脱走兵として追われる傍ら保安官の娘に手を出し、あまつさえその保安官をも殺めてしまう。神学校に通っていたWilliamはそんな兄達を何とかいさめようとするが相手にされず、そのまま流れ流れてメキシコへ。そこには"ファレスの呪い(Call of Juarez)"と呼ばれる、アステカの財宝が隠されているという伝説があった・・・

スタジオに西部劇のファンが多いからという理由から開発された本作ですが、本作はその西部劇でもとりわけマカロニ・ウェスタンからの影響が色濃い。と言っても僕は西部劇は詳しくないし前作もデモ以外はやっていないので、細かい特徴や元ネタとの相似点は分かりません。しかしそういう事を抜きにして単純なFPSとして見ても、見た目や効果音、シューティング等の表現への拘りは強く感じられ、それだけでも十分魅力的です。

やり始めて真っ先に目に付くのはやはりグラフィックスの美しさ。前作もDirectX10に積極的に対応するなどグラフィックスに定評がありましたが、本作は当時の地方特有の野暮ったさも完全に抜けきって、メジャー級と同等か一部はそれ以上の品質に昇華出来ています。

特に気に入ったのは環境現象に対する気配りのきめ細かさ。環境現象と言うのは例えば光とか、風とか、雨だとかいった物体としては表せない事象の事。グラフィックス技術が飛躍的に向上した現代でも、特に大作クラスから少しでも外れた作品はこういった部分に対する配慮が貧しく、またUnreal Engine 3のような汎用ミドルウェアを使って作っていると、例えモデリングは十人十色でも環境現象の表現までは殆どの作品が手を加えない為、皆似たり寄ったりで画一的な画面になってしまう。

しかし本作はそのA級作品とその他大勢を分け隔てる違いを鋭く見抜いているか、或いはただ単に西部劇の雰囲気を限りなく再現しようと努めた事による賜物なのか、若しくはその両方なのかは分かりませんが、結果としてかなり同時代的なセンスを感じさせるグラフィックスになっているのは間違いない。メキシコの強い日差しと乾いた空気、遠景の霞みがかった山々、雨と跳ね飛ぶ泥水等など具体例を挙げたらキリがないですが、幾つかSSを貼るのでその実力を直接確かめて頂きたい。


そしてもう1つ忘れてはならない重要な点にパフォーマンスの問題がありますが、これも本作は本当に良く出来ている。僕はいつも大体解像度は1920x1200、画質設定は最大、AAは無しで遊びますが、今回もその設定でマシンスペックはCPUがCore2Duo 6600、GPUがGeforce 8800 GTX、メモリが3Gという組み合わせで、fpsは常時40以上で滅多にそれ以下には下回らない快適さ。

正直な話単にグラフィックスの見栄えだけならば本作よりも優れた作品は幾つもありますが、コストパフォーマンスという点では『Call of Duty: World at War』以来、2009年に発売された作品の中では現時点で間違いなくトップクラス。恐らくPCに合わせて本気でちゃんと調整してくれたんだと思う。近年はコンソール偏重でPC版のパフォーマンス調整は出来るのにやらないというケースが非常に多いですが、その中で手を抜かずしっかりと仕事を果たしてくれたのはPCゲーマーとしてとても有難く思います。

他にもアニメーション、効果音、音楽等の演出要素は総じて質が高く妥協が無い。それはやはり西部劇への拘りが強いのは勿論ですが、それがマニアックな内容に終始せず、西部劇を知らない人でも十分格好良いと思える所が大きい。所謂今風の演出というものを研究していて、それと自身の拘りをと上手く両立出来ているのだと思います。

一方前作ではイマイチの評価だったシューティングも今回は中々良い。僕は前作はデモ版しかやっていないので、それと後は各所のレビューからの判断ですが、基本的な部分は前作から変わらないものの、前作で指摘された問題点を地道に潰して全体的な品質改良を施したという印象。2人の主人公の両者を操作するシステムや、西部劇的な見せ場がゲームとして組み込まれている等など前作の特徴も健在ですが、どれも勝手が少しずつ異なっている。

一番大きいのは銃の性能が上がってより直感的で撃ちやすくなった点でしょう。前作と違って狙った所へはほぼ真っ直ぐ飛んでくれるし、銃器の効果音も前述した通り良く出来ている。加えて武器選択を『Crysis』のNano Suitの様にサークルメニュー形式を採用したり、敵に攻撃が当たった時の照準の変化や、残弾数の表示等のインターフェイス設計も良く出来ていて、爽快感や遊びやすさは格段に上がっています。


とは言え舞台が舞台なので武器と言えばリボルバーの2丁拳銃に単発式のライフルがせいぜいで、プレイ感は普通のFPSとは大分違う。メインの武器となるリボルバーは装弾数が6発と少ない上にリロードも長いし、武器はどれもセミオートなので連射する時も全て手動で撃たなければならない。そういう意味で他のFPSより難しくてとっつき辛い部分もあるだろうし、好みも分かれそうな気がする。しかし僕は寧ろこれはPCゲーマーに薦められそうな内容でもあると思います。

装弾数も少なければリロードも長いので、必然的に1発1発が慎重にならざるを得ない。が、近年の大雑把なシューターが多い中、このようなデリケートさ、シャープさを求められるのが逆に新鮮で、一発に賭ける緊張感が心地良い。

しかしだからと言ってとてもストイックな内容というわけでもなく、上達次第で激しい撃ち合いも可能になるのが尚の事面白い。2丁拳銃使いのRayならばそれぞれ異なるタイプのリボルバーの有効的な扱い方や、前線でのリロードタイミングと引き際が肝心になってくるし、精密射撃のThomasならばRayを援護する様に敵を側面から攻撃していくのが効果的。

前作からあった早撃ちを再現したコンセントレーションモードも改良されていて、戦闘の程よいスパイスとして作用しています。一度これを発動するとほぼオートで目前の敵を全滅させられる高い威力を発揮しますが、発動条件がメーター式の上に時間制限ありで結構難しく、そのタイミングを見計らってより多くの敵が視野に入っている中で発動する戦術性が面白い。


但しここまでは褒めちぎってきましたが、決して良いところばかりというわけでもありません。前作程偏屈で致命的な点はないものの、それでも幾つかは気になるところがあります。

まずオートエイムの切り替えが出来ない。これはもう論外。武器が普通のFPSより扱いにくいのをフォローするための配慮なのかもしれませんが完全に大きなお世話。これさえなければシューティングは手放しで褒めたかったのに、切り替え機能を付ければ良いだけの問題で大きく減点してしまっているのは馬鹿馬鹿しいと言う以外に言葉が見つかりません。

それともう1つは主人公が2人というシステムがあまり効果的に働いていないのも気になります。本作では各ステージの始めにRayとThomasどちらを操作するか決められるのですが、現状では2人はいつも一緒に行動していてステージ構成も丸っきり一緒なので、せいぜい戦闘スタイルが変わる程度では変化が貧しい。

そもそもの原点である前作も2人の主人公が居ましたが、本作とは違ってシナリオもプレイスタイルも完全に別物になっていて、それぞれのステージが交互に切り替わっていって進んでいく構成でした。これはストーリーテリングという観点から見ると面白かったものの、余りにもプレイスタイルがかけ離れていた上にまた片方の出来が良くなかったので、ゲームとして見るとまとまりに欠けると批判されていたのです。

その反省を受けて今回はこのようになったらしいのですが、確かに前作は極端すぎて問題だったとは言え、本作は逆に没個性すぎる。ザッピング形式のストーリーテリングでは近年だと『Call of Duty 4: Modern Warfare』が成功していますし、要はプレイスタイルに極端な変化がなければ、ストーリー上の繋がりは一見バラバラでもさほど問題なさそうな気がします。

そして最後に金と店の概念が完全に余計。これは本作から加わった要素で、敵を倒したりステージ中にあるお金を拾い集める事で、これまた各ステージに一軒ほどある店で武器等を購入する事が出来るというもの。しかし始めは両者共に影が薄くて全く存在に気がつかないまま素通りしてしまっていたし、気づいた所で店がストーリーに割り入る感じで出現するので、レールライドシューターの本作では流れが中断されて興が削がれる。

せめてステージ開始時か若しくは終了時に似たようなシステムがあれば少しはマシになると思うのですが、どうやらこのシステムはゲーム後半のフリーローミング的なステージで結構重要な要素になってくるらしい。そのステージでは大きな都市を中心に据えた広大なマップの中で、仕事を請け負ったり武器を売買するさながら『Far Cry 2』的なプレイ感になるんだとか。そうなると金や店は今以上には必要になってくる気がします。

このレールライド式の展開とフリーローミングが混ざっているというのは、ちょっと今までに見たことがないのですが、開発スタジオのTechlandからすると今後に向けてこの作品で幾つか実験をしてみる魂胆なのかもしれない。だとするならば少なくともゲーム前半の金と店のシステムは場違いで完全に失敗している事はまず理解して欲しい。

しかし勉強熱心さがあるのはやはり良い事だしそこは支持したいですね。と言ってもまだそのステージまで進んでいないので何も言えないのですが、現状の感触は何だかんだ言って多少の問題点があってもかなり良いので、その分後半の展開に不安もあるけどそれ以上に期待してしまう。この熱意や努力が最終的により大きな実を結んでくれたらと思います。

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