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2009/08/11 - We are still family


『Call of Juarez: Bound in Blood』クリア。うーん、これは良かった。西部劇という世界観はとても独特な上に再現度が高く、シューティングも舞台設定を活かした個性的な要素と、『Call of Duty 4: Modern Warfare』のような王道で今日的な要素を上手く組み合わせられており、こちらも完成度が高い。更にパフォーマンスや安定性もPC向けにしっかりと調整されているので最早文句は無いでしょう。

特に本作は前作でダメ出しされたシューティング部分を練り直して、大作顔負けの質まで向上させられたのが大きい。開発者はインタビューで今日までまともな西部劇のFPSが無い(恐らく自社の前作も含めて)として、今回はそのFPSとしての完成度に特に注力したらしい。その西部劇FPSのスタンダード的な立ち位置を目指した姿勢は正しいし、成功しているとも思います。

また前回は触れませんでしたが、最後まで遊んでみてストーリーも中々良かったですね。南軍の暴走の話だとか武器密輸の話だとか、割と現代のアメリカ情勢を意識しているかのような部分も見受けられますが、大部分はこういう時代劇ものには良くある文法に則っていると思います。兄弟愛とそれに亀裂を走らせるファム・ファタル、そして裏切りと信仰。定番ですね。

ただ面白いのは兄弟の運命や結末を始めに明かした上で話が展開される事。本作は前作の20年前の話ですから、前作を知っている人ならばRayは銃を捨てて牧師として働き、Thomasは何者かに殺害される事を知っている。また前作を知らない人でも、仲の良かった兄弟が完全な敵対関係になってしまうという、本作の物語の結末をゲームの一番初めに明かされる。つまりどちらにせよ結末ありきで話が構成されるように作られているわけです。

そういう結末は明かした上で、何故そうなったのかという問いがストーリーの焦点でもあり魅力にもなっています。特に中盤までの凡そ想定されている結末には繋がり得ないような展開から、後半徐々に伏線が収束していくのは鮮やかで上手い。しかも20年後のもう1つの物語に繋げつつも、本作での物語は完全に決着を付けてある種のハッピーエンドにしているのは、かなり絶妙な終わらせ方だと思います。


ただ残念なのはその良さがあくまでも脚本としての良さで、ゲームプレイとは別枠になってしまっている事。つまりカットシーンだけでストーリーの説明をして、実操作中はドンパチだけという前時代的な手法。ドラマとゲームプレイが融合して、統一された1つの体験としてのストーリーが構築できていません。

本作の場合これは出来ていないんじゃなくて、寧ろ気づいていないと言った方が正しいかもしれません。本作が『Call of Duty 4: Modern Warfare』の影響下にあるのは間違いなく、インゲーム中の演出やキャラクターのモーション制御等は非常にそれらしくて質が良い。しかしその派手な演出やリアルなモーションは、最終的に全ては高い没入感を得るための仕掛けに過ぎないわけで、その本質的な部分に本作は気づけていない気がします。

フェイシャルアニメーションが貧相であったり、戦闘中はあれだけリアルに動くキャラクターが、会話シーンになると途端に棒立ちになってしまうのも同じ理由でしょう。脚本が良いだけにその盲点に気づいて、ドラマをゲームプレイに着地させる事ができれば更に良くなるはず。Techlandの今後の課題の1つはここにありそうです。

後は例のフリーローミングステージについても触れておきましょう。前回のエントリーでは実験的な内容なのではないかと書きましたが、実際にやってみたら本当に実験って感じでした。なので良いとも悪いとも言えない部分があるのですが、実験を抜きにした単純な質で判断すると、内容の充実度は『Far Cry 2』以下のスカスカ具合、但し技術的な条件はクリアしているといった所。

内容は拠点となる武器屋にお尋ね者の張り紙が貼ってあるので、それを選択するとタスクが更新されて、指定された敵のアジトまで出向きタスクを達成する事ができれば報酬金が手に入るというオーソドックスなもの。お尋ね者のチラシからミッションを受け取るというシステムはとても西部劇らしいし、いざ敵と争う場面では元々シューティングが優れているだけあって相変わらず面白い。しかしその良さは正直言ってフリーローミングとしての面白さとは関係がありません。


フリーローミングのフリーローミング足りえる点と言えば、やはりまずは自由度、そしてマップの密度、更にリアルタイム性。最低でもこの三つは一定以上揃っていなければいけないのですが、本作の仕上がりではその殆どが欠けていると言わざるを得ません。

各ミッションはバリエーション自体は単純に敵を殲滅するものから拠点を防衛するもの等ある程度ありますが、どれも解法が決まっていて、自分でアプローチを決める余地がない。つまり単にミッションを行う場所に移動する手間が増えただけで、内容自体は一本道のステージの時と変わりが無いという事です。

しかしそれでも『Grand Theft Auto IV』の様にマップの密度やクエストの物量が圧倒的に多ければ関係なくなってくるのですが、それも本作は全然足りない。マップの地形はある程度考えて作られていますが、要素が少なくて更地に木やサボテンばかりという場所が大半を占め、所どころにある建物もお情けで設置してあるって感じで面白みがありません。

ただ救いと言うか逆に優れているのは広大なマップを処理するエンジンの性能の良さ。マップはかなり大きいですがフレームレートは全然下がらないし、リアルタイムの時間と天候の変化もサポート。風景も一枚絵で見る分には非常に雰囲気が出ていて良い。だから箱庭を作る上での箱は十分上質なものが用意できているので、後は庭をどれだけ充実させるかの問題な気がします。


しかしここでも気になる点が幾つかあって、まず密度量を増やせば良いとは言ったけど、それだとまるっきり『Far Cry 2』になってしまうのではないかという疑念。その『Far Cry 2』自体が褒められた作品ではないので、ああいうスタイルになる事にかなりの危機感を覚えます。そしてもう1つは合計で15あるステージの内で2つしかないこのフリーローミングステージを、それだけ密度量を上げたところで果たして十分な費用対効果が得られるのかという疑問。

フリーローミングというスタイルはそれをやる時点で、規模の大小関係なしにある一定量の密度は絶対必要になってくると思います。本作のフリーローミングステージもそこで出来るクエストはそれぞれ三つずつ程度。たったそれだけでもやはりリアリティを感じられるレベルまでは作りこまなければならないわけで、ただそれってリソースの使い方がとても贅沢というかハッキリ言って無駄。ならばそのステージで出来るクエストの量をもっと増やせば良いという話にもなるかもしれませんが、そうすると今度はそのステージの重量が他と比べて重くなりすぎて、ゲームの総体としての主客が逆転してしまう。

結局本作のようにレールライドを基調としたゲームデザインの中に、イレギュラー的にフリーローミングの要素が介入するのは、その時点で不合理という結論になるのでしょうか。しかしそう断罪するにも要素が足りなさ過ぎるのが正直な所で、やはり実験としての色が濃くて判断し難い。その証拠にこの2つのフリーローミングステージは、実はクエストを一切受けることなく次の通常のステージへさっさと移行する事が出来てしまうのですね。そもそもこういう場で実験して良いのかどうかという気もしますが、ともあれこれは実験に付き合いたくない人に対する配慮だと思います。

Techlandが今回このような実験の場を設けた理由は明白で、現在開発中である『Chrome 2』、『Dead Island』、および『Warhound』の三つのタイトルの内、後者の2つがフリーローミングだからなのでしょう。これらは本作の様なおまけ扱いではなく、正真正銘フリーローミングがメインの作品になるらしい。しかしだとしてもそれらに求める課題は本作と同じで、まずは前述した通り箱は十分なので庭をとにかく充実させる事。後はなるべく『Far Cry 2』にはならないようにして欲しい。

以上、前回良いところばかり挙げてしまったので今回は不満点への指摘が多くなってしまいましたが、総合的にはかなり満足できました。日本では殆ど知名度がありませんが、もっと評価されても良いと思っています。またTechlandは今後もタイトルが連続して控えていますが、今回これだけの成長を見せてくれたのですから、次回作にも期待しています。

尚本作は後日改めてレビューを書くつもりです。最近はもっぱら日記で書きたい事全部書いてしまってネタがなくなるパターンばかりだったのですが、今回は敢えてセーブした上に元々わかり易い作品なので何とか書けそう。頑張ります。

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