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2009/08/18 - ハンサムでも中身が・・・


『Prince of Persia』をプレイ開始。アクションアドベンチャーの古典で歴史あるシリーズですが、本作は新章という事で今までの舞台設定やゲーム性を刷新し、大きな転換を図っています。しかし開発のUbi Montrealは最近は決まって見栄えと企画、つまりファーストインプレッションは良いんだけど、そこからの応用だとか実用化が決まって頓挫するという印象があり、実際『Assassin's Creed』や『Far Cry 2』ではそれで嫌という程苦しめられたので、本作もどうしても発売してすぐ買う気にはなれませんでした。

それで『Far Cry 2』の無限地獄の悪夢から半年が経って、そろそろ傷も癒えてきたので覚悟を決めて今回手にとってみましたが、予めハードルをかなり下げて挑んだため、思っていたよりも悪くは無い。しかしやはり程度の差はあれ「大丈夫?Ubi Montrealのゲームだよ?」って感じで、相変わらず色々疑問に感じてしまう部分があります。

ストーリーはやたらと勿体ぶった説明があって、一々書いていると長くなるのでここでは割愛しますが、要約すると太古に封印された闇の神が解き放たれて世界を暗黒で覆ってしまったので、代々それを浄化する勤めを担ってきた一族の末裔のヒロインElikaと、そんな彼女に道中で出会った主人公Princeが、行きずり式に世界を救っちゃうよというお話。

前シリーズまでは名実共に王子という設定だったPrinceですが、新章では彼が王子になるまでを描いた話ということで、本作では単なる浮浪者として登場。そしてそれと関係があるのかどうかは分からないままに、今まで髪の毛の生えたクレイトスって感じだった強面も、本作では腐女子歓喜のイケメンに大変身。パートナーとなるElikaも、スレンダーで現代的な美人って感じで、前作までのFarahの様な野暮ったさは微塵もありません。


また変化したのはキャラクターに限らず、その他あらゆる造形が前作までの比較的史実に忠実なリアリズムから、一転して非現実的でファンタジー色がとても強いものへと変貌。グラフィックスもセルシェーダーを多用した、さながら動く絵画とでも呼べそうな、とても特徴的な表現になっています。

多分このビジュアルはUbisoftの本拠地フランスのバンドデシネやディズニー、そして『Final Fantasy』を始めとした所謂スクエニ系がルーツにあるんじゃないかと思います。またこのような転換をしたのは、昨今のゲームグラフィックスのリアル化一辺倒へのアンチテーゼというのは当然あるだろうし、また本作と兄弟関係にある『Assassin's Creed』の方が、リアリズムも含めた従来の『Prince of Persia』シリーズの方向性の順当な進化・発展作という位置づけにあるので、それとの差別化を図るという意図もあるのかもしれない。

ただこうした憶測の真偽はどうであれ、事実として3Dゲームというメディアでこのような表現は非常に斬新であり、またアイディア止まりではなく完成度の方も申し分がない。ましてやこうした文脈を極めて多く保有している日本の感覚から見ても、それに匹敵しある意味凌駕すらしているのは脅威でもあります。

そう言えば去年Grasshopper Manufacture主催の『洋ゲー不法集会2K8』に参加したんですが、そこで桜井政博氏や須田剛一氏らを交えたトークの中で、『Mirror's Edge』と共に本作を引き合いに出して「(日本から)それを盗られたらヤバイ!」って言ってたっけ。分かる気がするなぁ。


続いてゲームプレイの方に話を移すと、このシリーズ伝統のアクロバティックアクションは今回も健在で、道なき道を人間離れした身体能力を駆使して進んでいく、その基本コンセプトは揺るいでいません。但し前述した様に『Assassn's Creed』が従来のシリーズの方向性の順当な進化・発展、それも複雑・多様化の道へシフトしていたので、対する本作は限りなくシンプルになっており、どちらかと言うと『スーパーマリオブラザーズ』や『ソニックザヘッジホッグ』みたいな横スクロールアクションの古典に近いと言えるでしょう。

本作ではゲーム進行において簡易的なノンリニアを導入しており、各ステージは蜘蛛の巣状に連結しあっていて、隣り合わせのステージは連絡通路みたいなのを伝って相互に移動が可能。その各ステージは攻略済みか否かに関係なく基本的に敵キャラは一切登場せず(稀に中ボス格の敵が出る)、ただひたすら目の前のダンジョンを解いていく事に専念していく。

その上でステージの最深部に辿り着くとボス戦となり、それを倒すと一応ステージクリア。隣のステージへの連絡通路を含めたクリア前まで通れなかったルートが開通し、同時にステージ上に光のオーブみたいなものが現われる。これはマリオやソニックで言うところのコインやリングに該当し、取る取らないは任意ですが規定数集める事がより深部のステージへアクセスする事の条件になっている為、大抵の場合そのステージをもう一巡してある程度オーブを収集し、きりの良いところで次の未開ステージへ移動する。この一連の流れの繰り返してゲームを進めていく事になるわけです。


こうしたゲームプレイの中で真っ先に目に付くのは、前述した見た目の良さについての話とも被りますが、とにかくアクションのアニメーションの格好よさ。またモーションとモーションの間の補完制御も上手く、繋ぎ目が全く気になることなくシームレスに動きが連動してくのは職人技的な凄みすら感じてしまいます。この辺Ubi Montrealは初代『Splinter Cell』の頃からモーションキャプチャーに頼らない手書きのアニメーションに非常に長けたスタジオでしたし、今回は特に直近の『Assassin's Creed』のノウハウがそのまま活かされていますね。というかエンジンが『Assassin's Creed』と一緒なので、内部の処理レベルで両者は殆ど同一なんだと思う。

また複雑で高度なアクションを、極めて簡単な操作で実行できるインターフェイスも優れている点。これも設計は『Assassin's Creed』と共有していて、アクロバティックアクションの行為そのものが面白さの主眼に置かれているためそれよりかは複数のボタンを組み合わせた操作を欲求されますが、それでもジャンプする時の踏み切りの間合いだとか着地点への軌道の修正だとかいった、この手のゲームで最もデリケートで厄介な部分は全てゲームが自動で補正してくれます。だからプレイヤーはジャンプするのであれば、それが求められる場所でそれに対応したボタンを押すだけで良い。

更にゲームには必ずと言って良い程の付きものであるゲームオーバーも、本作ではそうなりそうになるとお供のElikaが助けてくれるので見かけ上無くなっているのが特徴的。アクションに失敗して転落した時は引き戻してくれるし、ボス戦でやられそうになったときも助けてくれる。ただ転落した場合は直前の足場からのやり直しになるし、ボス戦では助けてもらった分ボスの体力が回復してしまうので、結局実質はゲームーオーバーと大差ありません。しかしトライアンドエラーの間隔は所謂本物のゲームオーバーよりも短くて済むし、ゲームの流れも中断されないのでモチベーション維持に役立っています。


このような見た目の引きの強さや親切さは如何にもUbi Montrealらしく、相変わらず素晴らしい。ところがここでいつも問題になるのが、付随する要素は完璧なのに、ゲームとして最も重要な要素が抜け落ちているという事なんです。要するに面白くない。見た目の引きの強さや親切さは人一倍、だけど面白くない。そして本作もやっぱり面白くない。

その面白くない理由ってのは例えばカジュアル過ぎる点という点であったり単調過ぎるという点であったり、また本作に限って言うと差別化を図りつつも何だかんだ言って多くの部分で『Assassin's Creed』と被ってしまっているというのもあると思う。特に『Assassin's Creed』の方が革新性を謳っていたのに対しこちらはどちらかと言うと古典への回帰ですから、やはり何処か見劣りしてしまいます。

とは言えやはり根本的な原因は前者の二点、カジュアルさと単調さの方でしょう。ただこれを語っていくとなると本作のみならず、最近のUbi Montrealのゲームを包括して批判していく事になるので一筋縄ではいかない。少なくとも文章がまたもや長々としたものになりそうなのは目に見えているので、一応今回はここまでして、次回に改めてその点について書いていきたいと思います。

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