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2009/08/29 - ファースト・パーソン・ギャルゲーを目指して


『Dream Club』が届いたのでプレイ開始。日本産のゲームを遊ぶのは『ビューティフル塊魂』以来で久しぶりですね。最近の日本のゲームはコアで尚且つメジャーである程欧米の後追いが目立ち、そんな単純比較で端から敵いっこないものには僕は興味が感じられない。かといってそうでない作品となると一気にカジュアルに傾いてしまってこれはまたあまり趣味じゃない。

そんな中バンダイナムコは『THE iDOLM@STER』や『塊魂』、『Tales of Vesperia』等のコアゲーム中で一貫してアニメ的表現を含めた日本らしさを意識していて、作品の出来はともかくその姿勢に対しては結構好印象を抱いています。本作『Dream Club』も名義上D3 Publisherからのリリースですが、D3はバンダイナムコの子会社だし、また『THE iDOLM@STER』のスタッフが関わっている事も公言されている。その繋がりから注目していたわけですが実際に内容もとても近似しており、殆ど『THE iDOLM@STER』の異母兄弟な作品と言えるでしょう。

本作の内容を一言で言い表すとキャバクラシュミレーション。開発者達はインタビュー等の場で徹底してキャバクラでない事を強調していますが、誰がどう見たってこりゃキャバクラでしょう。主人公はひょんな事からドリームクラブの会員となり通う事になるわけですが、如何せんフリーターなので平日はバイトに勤しみ、休日はキャバ嬢に貢ぐという、現実ならば間違いなく破滅コース一直線の道を歩んでいきます。

都合の良いきっかけから破滅的方法で快楽を求め続ける展開は正に『笑ゥせぇるすまん』そのもので、いつか店の奥から黒服の男が出てきて「ドーン!!」されるんじゃないかと思うと恐ろしい。という冗談は抜きにしても、現実オタク商売なんてものは二次元か三次元かの違いだけで本質はキャバクラと大して変わらないとも言えます。そんな出来る事なら目を背けたい現実をそのままの形で表している本作は、それそのものがブラックジョークになっている点で中々面白いですね。

また別の見方をすると本作は『THE iDOLM@STER』ではやらなかった海外展開も意識しているらしいので、アイドルという日本特有の文化から、より大人な雰囲気で日本のオタク文化と照合させて理解がし易いキャバクラという設定にしたのかなとも思います(キャバクラも十分に日本特有ではありますが)。


ゲームの流れは『THE iDOLM@STER』に相当近く、より普通のギャルゲー寄りの内容になっているとはいえ、具体的に進めていく手順は殆ど同じ。1年以内に目当ての女の子と出来る限り仲良くなる事が目標で、一週間を1ターンとして出来る事はバイトによる資金調達、嬢へのプレゼントの購入、そしてもちろん店に通って嬢とのお付き合い。これらを行っていく中で資金とスケジュールのマネージメント、嬢との会話による情報収集、ひいてはそれらを基にして効果的に好感度を上げていく事が本作のゲームプレイの核になっています。このようなルール設定やステータス管理を主軸にしたデザインは、やはり何度も言っている通り『THE iDOLM@STER』にとても近い。

しかし『THE iDOLM@STER』に比べると難易度はかなり緩くなっており、シビアな一発勝負の連続ではなければ膨大なステータスに溺れる事もなく、ギリギリのスケジュールに追われる事もない。その意味ではゆとりをもって遊べるようになっていますが、反面練り上げられたバランス調整や自由度等、難しいながらも作品を奥深く面白いものにしていた魅力もなくなってしまっています。行えることは限られている上難易度も低いので研究する必要がなく、またゲームの目標設定が曖昧で今自分がどの地点に居るのかも分かりづらい為、ゲームプレイに変化が付けられないまま同じ行動パターンの繰り返しになってしまいがち。このような意匠の完成度は雲泥の差があり、シミュレーションゲームとしての品格は大きく劣っているとしか言えません。


ただ『THE iDOLM@STER』の面白さというのはギャルゲー本来のあり方から考えると相当異質で、それ故にあの作品を評価している部分もあるわけですが、他の作品にまでそれを求めるべきかと思うと疑問。本作もそういった特質は減退している代わりに女の子の会話シーンはよりボリュームが増しており、ギャルゲーとして本来の鞘に収まったのかなという気もします。

またそもそもな話をしてしまえば、こうなる事は事前のプロモーションの段階から容易に察しがついたので、ハッキリ言って僕はゲームとしての面白さは端から求めていなかった。それよりかはよりギャルゲーのあり方に近い部分、または最初に書いたバンダイナムコの方向性の成果への関心の方が強い。つまり3Dによる2Dアニメ風表現と、没入感を高める為の演出。僕の本作への興味はおよそこの二点に集約されています。

そういう観点で見ると、本作の最も優れている点はやはり2Dアニメ的なトゥーンレンダリング。『THE iDOLM@STER』も含めてバンダイナムコがこれまで継続的に取り組んできたこの表現技法の中では一番見た目が自然で、恐らく国内ではトップクラス。アニメーションも綺麗だし、この技術と拘りと進歩性は評価できます。

一方の没入感を高める為の演出云々については食い足りない。店内でのシークエンスに関しては今までのギャルゲーに見られた、腰までの立ち絵に書き割りの背景という様式から多少脱却し、背景はフルポリゴンで尚且つ主観視点でお互い着席して向かい合って喋っているという、より自然で嘘のないカメラワークが意識されています。しかしそれでも依然ギャルゲーの様式を引き摺っている部分は多く、また店外のイベントは結局従来通りの書き割りに戻ってしまう。本作に限った話ではありませんが、こういう前時代的な様式と言うか嘘がまかり通っているのはとても不満。


僕がこういう事に固執するのは本作が海外展開を目指している話と被ってきますが、日本が国際市場でゲームを売り出し評価を得ていく為には何処かに必ず日本らしさが必要で、その中でもアニメ的表現やギャルゲーのメカニズムを追求していく事は、日本的という意味でも海外の文脈と接点が持てるという意味でも有望な方法だと考えているからです。

ゲーム市場が今世代機に突入してから海外ではFPSが大ブームとなり、以前から高い人気がありましたがそれ以上に躍進し、質量共に現行世代の代表格となりました。しかしこうしてブームになったのは根拠がないわけではなく、その一つにグラフィックスの高度化によってゲーム上の体験がよりリアルに肉薄し、仮想体験性が増したという点が挙げられるでしょう。そしてその特性をより活かしていく為にはゲーム上の状況を出来る限りリアルに近づけていく必要があり、結果として主人公の視界がそのままプレイヤーの視界になるFPSの表現方法が選ばれていった。

日本国内でもこのムーブメントに乗っかろうとした動きは無かったわけではなく、それこそ今世代機の登場当初は『CODED ARMS ASSAULT』の様に日本産FPSの登場も噂されましたが、結局事実上キャンセルされてしまった。それはやはり作り手にノウハウが無かったというのもあるだろうし、当時も今も日本では依然として海外ゲーム及びそういう様式は受け入れられ難く、特にFPSは鬼門として誰も触れたがらないまま今の今まで来てしまっています。

一方海外のこうした動向とは全く無縁のところで、その実本質的に同じ方向性を持っているのがギャルゲーやエロゲーなのではないかと思っています。まずギャルゲーやエロゲーはジャンルにもよりますが、メジャーで王道なものほど通常の立ち絵状態での会話はある意味完全に主観視点と言えるし、CGシーン、特にHシーンも主観視点を意識したものが多かったり、若しくは主人公が映るとしてもなるべく前面に出さず特に顔は隠して見えないようにしている場合が多い。

理由はもう完全に海外でFPSがブームになったのと一緒で、要するに対象が戦争なのか恋愛なのかの違いだけで、どっちにしろその仮想体験性を追求していくと、その果てにはプレイヤーと主人公の視界を一致させるという表現方法に行き着く、そんな当然の帰結です。ギャルゲーとFPSは一緒である。これが僕の持論ですが、そこを意識すれば日本人には当然として馴染みやすく、海外に対してもその文脈に合致しつつ同時に日本らしい作品が作れるのではないか。『Dream Club』に話を戻すと、本作や『THE iDOLM@STER』シリーズ、ひいてはバンダイナムコに僕が求めているのはそこなんです。

しかしだからこそ『Dream Club』は食い足りない。高度なトゥーンレンダリング、素晴らしい。綺麗なアニメーション、素晴らしい。フルポリゴンで作られた店内の空間、まあまあ良い。店内での主観視点を意識したカメラワーク、まあまあ良い。しかし視点が殆ど固定、良くない。キャラのアニメーションのパターンが画一的でそれぞれへの移行も不自然、良くない。背景のグラフィックスが雑、良くない。移動が出来ない、良くない。店以外の背景は全て書き割り、最悪。

この良くないと取り上げたのが従来のギャルゲーでまかり通っていたゲーム的な嘘。でもそれってギャルゲーが根源的に追求している、リアルな恋愛体験を真摯に突き詰めていけば取り払われていく要素だと思います。例えば背景は全て3Dで統一されるだろうし、それもキャラクターの見栄えに引けを取らない品質になるでしょう。お店に来るにしてもロビーの画面からいきなり女の子と飲んでいる場面になるんではなくて、まず入り口のドアを開けて、受付まで歩いて行って手続きをして、指定された座席へ歩いて移動して、そしたら指名した女の子が席に座って待っててくれていて、自分も隣に座る。帰る時もいきなり決算画面が出て次はもうローディングじゃなくて、伝票持って受付まで歩いて行って、それに女の子が着いてきてくれて、出口まで見送ってくれて、店から出た後も後ろを振り向けば女の子が手を振ってくれている。そんな現実では当たり前の出来事をゲーム的な嘘でうっちゃるのではなく、当たり前のように表現する。それが高度な仮想体験に必要な事です。

幸か不幸かその実例と効果の程は、既に海外のゲームでは証明されています。以前『Mass Effect』の時に紹介した『The Darkness』の彼女と一緒にテレビを見るシーン。横で彼女が呟いたり手を握り合ったりキスをしたり。これを『Dream Club』のグラフィックスで再現してみれば、それだけで見えてくる世界は圧倒的に変わるはず。他ならばFPSではありませんが、『Grand Theft Auto IV』で友人を飲みに誘って車で迎えに行って、バーまで行って飲んで、友人を自宅まで送る、一連のシークエンスでも良い。このような一見面倒くさそうで今までのゲームでは飛ばしてきた事を描ききる事で得られるものは何なのか。もしくは本来面倒くさい行為にプレイヤーが価値を感じられるようになっているのは何故なのか。学べるものはとても多いはずです。


多分本作のようなゲームは例に挙げたゲームは当然として国内のゲームの中でも低予算で作られている事が想像できるし、単に志以外の点でも実現するのは難しい事なのかもしれない。でもここまで書いてきた事に対して何らかのアプローチをする作品が出てきたら、僕は本気で評価する。しかし『Dream Club』の現状では、そこに至るまでのきっかけのそのまたきっかけが見えてきた程度です。

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