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2009/09/09 - 昔気質のジレンマ


『Wolfenstein』が相変わらずクラッシュするし、Forumであちこち報告されていてもパッチは出ないしでどうしようもありません。どうしようもないので『Uber Soldier 2』に浮気です。ロシアのBurut Creative Teamの『Uber Soldier』の続編で、ナチスのユーベルメンシュをテーマにした、『Return to Catsle Wolfenstein』のクローン作品。

ロシア、そして超人を題材にしたゲームとくれば中身はB級ですっとこどっこいというのは昔の話で、最近では徐々にではありますが質が上がってきています。勿論グラフィックスだとか演出面は欧米に大きく溝を開けられたままですが、しかし逆に言えば市場としてグラフィックスや演出に対する欲求が少ないからこそ、オールドライクのシューターは今日の欧米よりも活気がある様に思えます。

舞台は終戦も間近に控えた1945年。前作で主人公Karlの活躍によってナチスの超人計画は打ち砕かれたかに見えたが、しかし秘密裏にまた 別の場所で実験が続けられている事をKarlとそのレジスタンスは察知する。ここまできたら後はもう一回潰すしかあるめぇとKarlが再び立ち上がる!と いうあまりにもベタで捻りの無い展開。

ストーリーがベタならゲーム内容はもっとベタで、基本は極々普通のFPS。同じロシアなら『Time Shift』や『You are Empty』、欧米だと最近のなら『F.E.A.R. 2: Project Origin』や『Wolfenstein』に近いかな。要するに何も捻りがないって事です。一応特殊能力として敵の攻撃を弾くバリアを展開できたり、戦闘中に条件を満たす事で無敵モードを発動する事もできますが、そういう特徴付けの仕方も含めてトコトン捻りが無い。しかしそんな無い無い尽くしの本作でも、結論を言うと実は本作の様なクローンのオリジナルに当たる本家『Wolfenstein』よりもよっぽど面白い。


理由は明白で、それはオールドライクシューターに求められているニーズに実直に応えられているからでしょう。適度な難易度に程良く練れたレベルデザイン、狙って撃つ事の心地よさ。これらはもう既に20年近いFPSの歴史の中で完成された文法であり、その意味で難しい事ではない。しかし今までのロシアゲーはその基本条件すらままならないものが多かった。

しかし本作をやるとそれはもう過去の話になりつつあるという事が分かります。レベルデザインや難易度は理不尽さはなく、かといって簡単過ぎない程よいバランスに調整できているし、銃撃感も上々。また本作は特に前述した無敵モードが、FPSにおける狙って撃つという最も原初的な快楽に応えられているのが良い。

この無敵モードは本作からの新要素で、敵をヘッドショットで三人連続で倒すか或いはナイフで同じく三人連続で倒す事で、それぞれ微妙に異なった無敵モードを発動する事が出来ます。この状態では無敵の他にバレットタイムにもなって弾薬も無限、武器の命中率も最大に上昇。そして更にこの無敵モードを発動する度に経験値が溜まっていき、ステージ終了後にHPの最大値や無敵モードの持続時間等を向上させる事も可能に。

通常の状態では武器の威力はやや低いし弾もバラけるし移動もスローな分、一度無敵になった時のギャップが心地良いし、経験値というボーナスもつくので積極的に狙っていきたい欲求も駆り立てられる。しかも本作が特に優れているのは、その無敵モードは発動すればするほどそのステージ内では発動条件がシビアになっていくという点にあります。

ゲームをより有利に進め、より多くの経験値を得ていく為には、より素早く尚且つ確実に敵を倒せるようにならなければならなくなる。またその為には敵や武器やレベルに対する理解もより深めていかなければならない。このチャレンジがオールドライクなFPSの要素を楽しむ上でこの上ないスパイスとして働いているのです。


何度も言いますが一つ一つのシステム自体はオリジナリティや新鮮味があるわけではありません。しかし質は間違いなく向上しているし、またそれを全面的に受け入れられる市場がロシアにはある。そういう意味でロシアでは所謂"昔気質のFPS"というジャンルがとても活き活きしていて油がのっているように感じられます。

一方欧米の市場の中での昔気質のFPSは、最近はめっきり振るっていません。『F.E.A.R. 2: Project Origin』然り、『Wolfenstein』然り全然評価が良くないですよね。実際遊んでみても総合的なクオリティは確かに未だにロシア製のものを凌駕しているものの、何と言うか活きが良くない。油がのっていないように感じてしまう。

理由は色々あると思いますが、やはり市場の変化とずれてしまっているという点が大きいかもしれません。全体的にオールドライクのシューターは求められなくなってきているし、また開発費高騰に伴いカジュアル層をターゲットにして作らざるを得ない。具体的には難易度を下げるという事ですが、演出志向の今時のFPSならともかく、昔気質のFPSでそれをやるという事は面白さを無くす事に等しい。

MonolithもRavenも歴史あるスタジオですから、自分達が本当にやりたい事は何で、最近の自社の作品の問題点が何処にあるのかも理解しているはず。しかしそれをやると売れない。だからどうしても売れ線を狙わざるを得ない。しかしそこでどうしても昔気質のFPSを作りたいという拘りがバッティングして、結果毒にも薬にもならない中途半端なものが出来上がってしまう。それで結局評価も散々でメディアからも叩かれる。ここ数年の昔気質のスタジオは皆このジレンマに苛まれているように見えます。

しかも最近はレイオフの嵐で、Grin等中堅所も一度コケれば一気に閉鎖で血も涙もない。Ravenだって『Wolfenstein』の開発終了と共にレイオフを行っているし、ますます欧米の市場は下手な事が出来なくなってきている。こうなってくると最早選択肢は限られていて、まずは拘りを捨てて今の時流に乗っかりきる事。成功した例としてはTechlandの『Call of Juarez: Bound in Blood』。しかし今はそれすら難しいわけで、現にGrinは三本同時開発で必死に今風の作ったけど最終的に潰れてしまいました。

次に考えるられるのは、昔ながらの拘りを貫きつつ今の時代でも受ける新たなゲームデザインを発明する事。これが一番難しく、未だ実現できた例はありません。それにそういう事が出来る位の企画力と開発力があるのなら、『Wolfenstein』シリーズという超一流のフランチャイズを無駄にするような、そんなアホな事はしません。

となると現実に残されている道は、大作・成長路線を捨てて小作・安定路線で行くしかない。具体的にはダウンロード販売市場に集中するとか、とにかく今の欧米小売市場での売り方は大きく改めないといけないと思う。それにこの時代で本気で昔気質のFPSを求めている人はグラフィックスだとか最新テクノロジーなんか期待していないし、そもそも演出重視でもない昔気質のFPSではグラフィックスの高度化は本当に宝の持ち腐れ。そういう無駄な事をやっている位なら開発費を小規模の販売でもペイ出来る位に削って妥協する代わりに、少ないながらも本気で昔気質のFPSを求めている人の期待に応えられる作品作りをするべきです。昔ながらに拘り続けるのであればね。

それに小作・安定路線とは言いましたが、ありきたりのロシアゲームでも中には『NecroVisioN』の様に、昔ながらの文脈を今も保有し続けているからこそ成せる、欧米とは別次元のFPSの進化の可能性を感じさせる物もあります。ダウンロード販売の普及によって東欧のゲームを触れられる機会も増えたし、欧米との距離感も縮まっている。こうした新しい機会の中で異文化交流が進んで、所謂大作とは別路線のFPSが確立されれば、それはそれで面白い。

どちらにせよ欧米の昔気質のゲームを作っているスタジオは、中途半端な事は止めてそろそろ決断をすべきです。

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