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2009/09/23 - 水と油


ちょっと前ですが、『Uber Soldier 2』クリア。全体的な質はやはり欧米のA級作品とは劣りますが、逆に最後までB級道を貫いたという点では潔いゲームでもありました。グラフィックスは大した事は無いしストーリーはへっぽこだし、挿絵も拙いし、だけどシューティングは良く出来ているかなぁーと言う、B級ゲーマーのツボを程よく捉えた構成であると言えましょう。

また本作は僕が支持している他のオールドライクシューター同様、一部がやたらと癖の強い作品でもあります。そしてその癖の強さ故に、本来想定された遊び方以外の遊び方が見えてくるようなゲーム。それは単に開発者の能力の無さとして片付けられてしまったらそれまでなのですが、しかし実はこういった不協和音こそオールドライクシューターのオールドライクシューター足りえる重要な要素と言えるかもしれません。今回はB級ゲーと言うかオールドライクシューターと、現代のメジャータイトルの違いについて前回とは違う切り口で考えてみたいと思います。

まず本作についてから話していくとすると、本作における強い癖になっているのが前回も説明した経験値システム。ヘッドショットを三回連続、ナイフキルを三回連続で、HPやMPの上限値等を上昇させられる経験値が得られる仕様で、このチャレンジが平凡なゲームプレイを一転して面白いものに変えている。ここでミソなのが経験値獲得の上限が定められていない点で、スペシャルキルを達成するほどそのステージ内の達成条件は難しくなっていくけれど、それさえクリアできれば理論上はステージの敵全員をスペシャルキルで倒して破格の経験値を稼ぎ出す事も出来るわけです。

ゲームとしては執拗に経験値だけを追い求めるような遊び方は推奨しておらず、まぁ普通に遊んでいて達成出来ればラッキー程度の扱いのはず。実際ある程度達成すると条件が相当難しくなって普通のやり方ではとてもじゃないけど達成出来ない。しかし逆に言うとそれでも達成していこうとするとマップの構造や敵の登場タイミング等のレベルデザインの習熟、リロードや回復薬を使うタイミング等の要素を厳密に管理した上でトライ&エラーを繰り返す必要性が出てくるわけで、それが結果としてオールドライクシューターの面白さの核に繋がってくるのです。当然努力した分だけ報酬も高くなるので、それが尚上を目指そうとするモチベーションにもなる。


こうした遊び方や面白さはゲーム側が上限を定めていないからこそ出来る事であり、それは言い換えるとある意味ゲームの要素を上手く自立制御出来ていないからこそ生じる面白さです。本来ゲームデザインというものはバグやバランス崩壊は出来る限り是正して、プレイヤーを上手く制御しつつもそれを当人には感じさせない作りであるべきなのですが、時にはその未熟故に生じたデザイン上の亀裂がかえって作品をより深みのあるものにし、更には後続の作品にも大きな影響を与えてしまう事がある。

その最も極端で最も有名な例が『Quake』のストレイフジャンプでしょう。左右に身体を振りながらジャンプを続ける事で際限なく加速する事が出来る同シリーズでは代名詞的な技術ですが、元々これは単なるバグで作り手は全く想定していない事でした。しかしこれが特にマルチプレイにおいて作品をより面白くするとして『Quake II』以降も仕様として残されたという経緯があります。また直接採用はされずとも、このストレイフジャンプが生むスピード感は他のゲームにも影響を与えて、以降ハイスピードなアクションFPSが栄華を極める間接的な要因の一つにもなった。

今我々がオールドライクシューターと呼んでいるジャンルの全盛期には、このストレイフジャンプ程極端ではないにせよ似た性質の要素が多くのゲームにあったと思います。仕様なんだがバグなんだか良く分からないその作品独特の癖の強さを習熟していく事が、面白さにも深く繋がっていた。

しかし面白さに貢献する癖の強さというのは中々バランスが難しいもので、全く無いとそれは単なる優等生ゲームになって面白くないし、逆に強すぎてもそれは単なるバランス崩壊になってしまう。本作の前作である『Uber Soldier』が正しくその後者に当たり、前作にもスペシャルキル達成によるボーナスがあったのですが、本作と違い体力値が数ポイントアップというもっと直接的な報酬だった為、やりすぎるとゲーム終盤では体力が初期値の四倍以上にも膨れ上がり、何されても死ぬ事が無くなるという、完全なゲーム破綻を引き起こしてしまっていました。

その点本作は報酬を経験値にして上昇させられる項目を複数にすることで、一極的に強くなってしまうリスクを拡散し、更に各能力毎の上限値も設ける事で、例え一極的に強くなっても極端なバランス破綻は避けられるようにしています。恐らく前作の破綻は完全に想定外の事だったのでしょうが、本作はそれを踏まえて破綻している部分は修正しつつも、魅力になっていた部分はしっかり残している。このバランス感覚が本作の一番の長所と言っても過言ではありません。

話が『Uber Soldier 2』からずれますが、これは本作に限らずロシア産のゲーム全般にも言え、徐々にではあるけどここ数年で全体的にバランス感覚が良くなってきている気がします。『You are Empty』や『Cryostasis』の様な雰囲気で魅せるゲームの場合は、シューティング部分は無難なレベルにまで仕上げられる様になってきているし、またシューティングそれ自体で勝負する本作や『NecroVisioN』の様なゲームだと一昔前なら破綻して当然だったのが、今ではギリギリの所で踏みとどまりつつ、それがかえって魅力になるレベルにまでなってきている。

一方欧米のゲームはオールドライクシューターの基準で見ると、バランス感覚が良すぎるのが逆に問題になっているように思います。率直に言ってそういうゲームを作るのはとっくに慣れてしまっているんじゃないでしょうか。バグを潰したり癖の強さを制御する品質管理能力は抜群に良くなってきているけど、それ故に最早出来て当然の黄金比を当然の様に繰り返す、試行錯誤の欠けた縮小再生産に成り下がってしまっている。加えてその制御能力が難易度を低く抑えたり癖を無くしていく無味化に注力されているものだから尚の事面白みがないわけですよ。あくまでもオールドライクシューターの枠組みの中から見れば。

しかし見方を変えるとこうした旧来のデザイン文法は一通りやり尽くし、ある種の行き詰まりが出てきたからこそ、その次なるステップとして出てきたのが演出重視、映画への歩み寄りという方向性なのかもしれません。これまで培われたゲームバランスの制御能力は如何に多量な演出の中でゲーム的な整合性を失わないか、或いはゲーム的な部分が見えてこないようにするかという点に注がれるようになる。そしてその最右翼が『Call of Duty 4: Modern Warfare』なのでしょう。

まあ『Call of Duty 4: Modern Warfare』は最も極端な例ですが、最近のFPSがメジャー級であるほどこの方向性に転換しているのは明らかで、だからこそオールドライクシューターを愛する古参ゲーマーを中心に展開されている、最近のゲームはつまらないという意見は当然の事だと思います。

旧来のゲームの面白さとは詰まるところ非常にゲーム言語に近づいていく事であって、ストレイフジャンプだとかトライ&エラーの猛烈な繰り返しだとか、およそゲームでしか起こりえないような事象が先鋭化していく事にある。対する最近の流れではこれまでのゲームらしさ、ゲーム言語とみなしていたものは削いでいき、より現実の生き写しになるようなバーチャルリアリティの方向性にシフトして行っている。だからもうそもそも目指している方向性が相反しているので、それぞれ同じ基準で判断しようとする事自体がナンセンス。

これに加えて前回で書いたお金の都合も複合的に絡まった最終的な結果として今こういう流れになってきているのでしょうが、ただ先ほども触れた通りここ数年でロシア勢も大分力をつけて来たので、それぞれニーズに応じた棲み分けが出来てきているって事で、現状はそれで良いんじゃないかと思っています。本作も何度も言う様に、そういった意味で良く出来ている作品です。

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