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2009/09/28 - 秀才バットマン
『Batman: Arkham Asylum』始めました。Christopher Nolan監督の一連の新生映画版の歴史的大成功で今をときめく『Batman』シリーズですが、このゲーム版も想定外の大ヒットでキャラゲーの歴史を変えるとまで言われんばかりの勢い。先に発売されたコンソール版だけでも既に販売本数が250万本を超えたという話ですから、キャラゲー抜きにしても大成功とみなして間違いないでしょう。
さてその肝心な中身ですが一言で表そうとすると中々難しく、色々なジャンルから個々の要素を拝借してきて、それらが組み合わさって一つの作品になっているとでも言いましょうか。ただ全体的にとても丁寧に作られているという点は確かであり、また現代のゲームのトレンドを敏感に察知した、"分かっている"作品だとも感じさせます。
舞台は『Batman』シリーズではお馴染みの、Gotham CityにあるArkham精神病院。BatmanはThe Jokerを捕らえこの病院へ送ったが、実はこれはThe
Jokerの策略で逆に乗っ取られてしまう。Gotham City中の犯罪者が一堂に会す中、Batmanは一人果敢に立ち向かっていく・・・という超ベタな展開から始まる本作。いきなりダメ出しから入って恐縮ですが、ストーリーはまずArkham精神病院で歴代悪役と戦うというコンセプトありきって感じで、ご都合主義も良いとこ。この辺はもうちょっと自然に出来なかったのかと悔やまれます。
但しその分世界観と言うか絵作りに力を入れる事で説得力を持たせているのは好印象。デザインの方向性はChristopher Nolan監督版のようなシリアス路線ではなく、古典的なアメコミ路線なのが個人的に残念ではありますが、しかしアメコミなりにも各々のデザインは現代的にアレンジされており、元ネタから直移植するだけの凡百の版権物とは一線を画しています。加えてUnreal
Engine 3を使ったグラフィックスもアーキテクチャからアニメーションに至るまで良く作りこまれており、これまた版権物の場合低質になりがちである技術的な部分も隙がない。総じて絵作りに関しては高品質であると言えるでしょう。
続いてゲームプレイの方は最初に触れたように複合的で、主に格闘パートとステルスパート、そして謎解きパートに分けられ、また時々ボス戦や横スクロール画面の特殊なイベントパートも登場します。更には経験値システムと能力のアップグレード要素や、シークレット探しの要素もあったりと盛り込まれている内容は本当に多彩。なので作品のイメージをこれと言って何かに断定付けるのは難しいのですが、ただ作品のメインである格闘、スニーク、探索等のそれぞれのシーンのシステム的な部分だけを取り上げれば、『Splinter
Cell』シリーズや『The Chronicle of Riddick: Escape from Butcher Bay』に近い。
恐らくゲームの大半を占めるであろうこのパートは元々のBatmanの設定に準じており、闇夜に隠れながら自らの超人的な身体能力と様々なガジェットを駆使して敵と戦っていきつつ、時には大勢を相手に乱闘もする内容になっています。この辺の絵作りやシステムは如何にも上記二作品に通ずるものがあり、特にステルスと同等以上の割合を格闘戦に割く配分は後者のイメージによりダブる。
但し本作はこれらよりもプレイヤーがかなり強い存在として作られているのが特徴的。『Splinter Cell』も『The Chronicle of
Riddick: Escape from Butcher Bay』も従来のステルスゲームの基準からすれば十分強く描かれていましたが、本作はそれよりも更に上を行く。何せ近接戦闘なら何人に囲まれようが屁じゃないし、機動力も手すりに掴まれるとか三角跳びが出来るとかそういうレベルではなく、瞬時に大広間の端から端まで移動できる位飛びぬけている。なのでスニーキングも最早スニークというよりハンティングって感じの方が強く、とにかく主人公の超人性が強調されているのです。ただこの表現こそが本作の、とりわけキャラゲーとしての重要性があるのではないかと思います。
近年のゲームは没入感に対する意識が強いというのは度々触れてきている通りですが、その中の一つに如何に主人公になりきれるかという課題があります。またそのなりきる対象は殆どの場合"強い主人公"であるわけで、それが本作の様なスーパーヒーロー物ならばより一層求められる事になる。しかしゲームである以上、ゲーム的な手応えと"強い主人公"へのなりきりを両立させなければならず、強さを演出するために難易度を下げてしまっては戦っているという手応えそれ自体が無くなってしまうし、かといって難しすぎて死にまくる様な難易度だと"強い主人公"のイメージは丸つぶれで、なりきりもへったくれもなくなってしまいます。つまり裏を返すと戦っているという実感や手応えを感じさせつつも、"強い"主人公としての威厳を保ち続けるのが、なりきりを成立させる上で必要なポイントとなる。
ただこれを成立させるのは至難の業で中々上手くいっている作品は少ないし、中には『Prince of Persia』の様にゲームオーバーを無くすという荒業に出る作品までありますが、本作の場合はプレイヤーの"やり時"と"やられ時"を何度も切り替えながらゲームが展開していくことでバランスを取っているのが上手い。例えば格闘パートはスーパーヒーローとしてのBatmanが一番輝く瞬間で、迫り来る敵をタコ殴りに出来る爽快感重視の場面となっており、またここでは余程の事がない限りやられてしまう事はない。
しかしステルスパートとなるとそこでの敵は大概銃火器で武装しているので、格闘パート程の無双を繰り広げる事は出来なくなり、戦い方も空中からのダイビングやトラップを使った奇襲がメインになってきます。難易度も上がり下手したら死ぬバランスになっており、ここでは演出も然ることながらよりゲーム的な駆け引きに重点が置かれています。
更にボス戦になると難易度はますます上がり、何度も死にながら憶えるかなり手応えのあるバランス。このようにそれぞれ傾向の違うパートを本作は小刻みに分配してゲームを構成しており、そうする事で総体としてなりきりと手応えを両立させる事に成功しています。恐らくこれが格闘パートのみだったらそれこそ『Prince
of Persia』の二の舞になってしまうし、逆にステルスパートだけだと地味な作品になってしまっていたと思うので、見事間を抜け切ったという感じですね。
またもう一つ注目したいのはアーキテクチャやアニメーション、戦闘時の演出等などの強固な雰囲気表現が、それぞれのパートの接着剤として作用している点です。個々の要素は先ほど述べたように毛色が違うのですが、どちらもBatmanが格好良い事をするという点では一貫している。
或いは逆説的な話をすると、本作ではQTEを一切活用していないという所が興味深い。QTEは絵的にはどんな場面も等しくゲームに組み込めて手っ取り早く没入感モドキみたいなものを表現できるので、近年のゲーム、特に版権物では常套手段になっているのですが、本作はその生い立ちに反して潔い位に使っていない。
恐らく本作はQTEがゲームデザインの最前線では最早避けるべき、行儀の悪いデザインとみなされているという事を敏感に察知しているのでしょう。QTEって結局ムービーの所々でタイミング良くボタンを押すだけの事なので、先ほども言ったようにプレイヤーがキャラクターを操っている、なりきっているという実感がわき辛い。どうせならムービーでやっている様な事を実際のプレイで再現できるようにしてくれよって事になるわけです。
この課題に対して本作はあくまでも格闘なら格闘、ステルスならステルスといった独立性のあるゲームシステムに劇的な演出を共存させる道を選んでいます。ある意味正攻法ですが、その分最も難しい。しかし本作はかなり良い線行っているんじゃないかと思う。これはそれぞれの演出の客観的作りこみが長けているって言うのも勿論なんですが、やはり何よりもBatmanブランドという元から圧倒的な存在感のある題材をモチーフにしているのが大きいのでしょう。
つまりBatmanがどういうキャラでどういう事をして戦うのかは既に多くの人が知っているわけで、その時点で既に作品を理解し感情移入する素養があるって事なのです。向こうからしたら外国人である僕ですらそうなのだから、母国人にしてみればBatmanがマントを広げて空を飛んだり、敵の頭上から逆さで現われるのを見た時の没入度や興奮度は、そこらのオリジナル作品の比ではない。
そしてそれを殆どの版権物に見受けられる、ネームバリューに寄っ掛るだけの消極的理由で利用するのではなく、本作のように積極的にゲームの没入感を高めるための素材として用いれば、これほど強い物はありません。これによりQTEの問題点を克服し、個々の要素の接着剤としても作用しているのですから、キャラゲーとしても、もしくはそれ抜きにしてゲームにおけるグラフィックスや世界観の役どころとして見ても、とても理想的な状況を構築できていると思います。
但し最後に嫌味な事を言わせてもらうと、本作はとても優等生な所が逆に弱点とも言えるかもしれない。ここまで述べたゲーム的な手応えとなりきり要素とのバランス感覚だとか、反QTE的な意思表示だとか、従来のキャラゲーの閉塞感の打開だとか、とても現代的な問題意識持っているのはありありと感じ取れます。その意味ではとても09年の作品らしい、07年以降のムーブメントの総まとめ的な作品として完成度は高い。
しかしだからこそ別の見方をすると全て対処策留まりっていう気もするんですよ。それこそ先代の作品が示したモデルを高い完成度で証明してはいるんだけど、先代の作品のように新しいモデルそのものを示しているわけではない。その先代は『BioShock』でも『Crysis』でも何でも良いのですが、それらの作品から感じた何か新しさってのは本作からは嗅ぎ取れないのです。
これはもう完全に感覚論で尚且つ無いものねだりなのですが、そこが僕がこのゲームをやっていて最後の最後で引っかかる部分かな。まあ歴史の浅いスタジオ二発目の作品でここまでの物を仕上げたのですから、ここは寧ろ前向きに次の作品に期待するって事にしておきましょう。
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