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2009/10/02 - 下着がきゅうきゅうで・・・今にもはみ出しそう


他の作品と平行して『THE IDOLM@STER DearlyStars』もプレイ中。『THE IDOLM@STER』シリーズの公式スピンオフ的な作品で、前々作のXbox 360、前作のPSPから今度はNintendo DSに登場。初代のアーケードからXbox 360の無印までは完全にマイナーなゲームでしたが、今では今回の初秋のギャルゲーラッシュの中でも一番の実力派、安全牌と目されていたのですから時代は進んだものです。

ただ僕自身は安全牌であるが故のシリーズ物特有の閉塞感や、DSというプラットフォームで出す事の不信感があって当初はノーマークだったのですが、その後『ラブプラス』の方をDSiごと購入したのでついでにという事で結局購入。やはり当初予想した通り、シリーズ物の貫禄って言うか安定感は高いのですが、その反面問題に感じる部分も多々あります。

本作は今までのシリーズ同様アイドルを育ててトップアイドルを目指すという設定は変わっていませんが、それまでの育成シミュレーター色は弱まり、逆に王道のギャルゲーと言うかビジュアルノベル的な作風に転換しているのが特徴的。舞台は前作までの765プロから新たに876プロに代わり、またこれまでの様にプロデューサー視点で進めていくのではなく、合計三名のアイドル候補生自身の視点で話が展開していきます。

ざっと概要を説明したところで早速本作を批評していくと、一番良よかったのはシナリオの質が飛躍的に上がったという点に限るでしょう。これまでのシリーズでも「営業」という、従来のギャルゲーの様に物語を読んでいくパートがなかったわけではありませんが、殆どその場限りのショートストーリーにも満たないお話の断片集ってレベル。また本編がそうである分、今まではDLCの方でもう少し踏み入ったショートーストーリー集がそれぞれ販売されてもいましたが、こちらもヤマなしオチなしイミなしって具合でアイドルとじゃれ合うだけの陳腐な物。総じてこれまでのシリーズはシナリオがとても弱いという印象がありました。

しかし本作ではそうした弱点に大幅にメスが入れられ質が大きく向上。従来通り主に営業パートで話が進んでいく点は変化ありませんが、一言にして点が線になったって感じで、それぞれが話の連続性があるものになり、総体として一貫した大きな物語を感じられるようになりました。物語は主人公三人に応じて大きく三種類に分けられ、それぞれ独自の話が展開されます。話の傾向は例えば秋月涼ならコメディ、水谷絵理ならシリアスといった具合で描きわけがされていますが、どれも笑いあり涙ありの展開で、そういった内容の好き嫌いは別として、少なくともギャルゲーの基準で考えればとてもよく出来ていて不足ない構成なのは確か。もうすぐにでもこのままアニメ化できそうです。

また物語性が強くなった事で、キャラクターの描き方に変化が生じた点も見逃せません。これまでのシリーズの物語は先ほども書いたようにショートストーリーにも満たない物の断片集でしかなかった為、各キャラクターの設定はそんな点の物語でも映えるようにと、性格設定は極めて極端、喋り方もあざといぐらい特徴付けがされ、パッと見表面上の印象を最重視されていました。しかしこれだとあまりにも非現実的過ぎる感が否めず、DLCのショートストーリーが物語として上手く回転しなかった遠因になっていたようにも思います。

一方本作もプロフィール上の設定は女装男子だとか元引きこもりアイドルだとか、今まで以上に飛ばしている印象をうけますが、実際やってみるとそのキャラクター像は今までよりも遥かに複雑で現実的。これはやはり物語が点から線へといった感じで連なりあるものとして描けるようになった事で、各キャラクターの葛藤や成長等の内面性をより彫りこせるようになったからでしょう。

以上の様にシナリオに関しては飛躍的な向上が見られ、その点では素晴らしい本作ですが、しかし実はこの向上は一番このシリーズらしくないとも言えます。と言うのも僕はこれまでのシリーズを見てきて一貫してシナリオの弱さを感じてはいたけど、敢えて問題点として挙げる事はなかった。それはシナリオの弱さを以ってしてもそれを打ち消す位の魅力が別の部分にあったからで、それとシナリオとの力点のトレードオフも含めて『THE IDOLM@STER』らしいと思っていたからです。しかし本作ではこのシリーズならではの強みが悉く減退してしまっているのが非常に痛い。

まず一つがシミュレーションゲームとしての魅力の減退。基本的な進め方は個別のミニゲームが設けられたレッスンをこなして三つのパラメータを上げていき、その章での成長限界に達したらオーディションを受けて次の章へ移行するという一連の流れの繰り返し。従来までの行動できるターン数の制限や、それに応じたレッスンとオーディションの実行時期の見極め等などの複雑難解なルールは8割方なくなり、殆ど形式だけが残っていて実際はダラダラやっているだけでクリアできる状態です。

しかし元々このシリーズのシミュレーションゲームとしての面白さというのは、この複雑難解さを上手く操ってパラメータを制御していく行為性にあったわけで、それを全てとっぱらってミニゲームそれ自体だけを残したって何も面白くないわけですよ。寧ろ従来のシリーズはパラメータ制御の面白さや、経過ターンに応じた展開のメリハリで何とかミニゲーム自体のつまらなさを克服できていたようなもので、それが無くなって最初から最後まで同じ行為をやり続けなければいけないのは最早拷問に等しい。

さてここで考えなければいけないのは高難度のシミュレーションゲームとしての側面が、このシリーズの本当の魅力なのかという点です。僕なんかは特にXbox 360版の無印は硬派なシミュレーションゲームとして評価していますが、しかし一般的にはライブシーンの美しさが魅力の観賞ゲームという評価が定説なはず。シリーズ自体もそうした評判を受けて無印に続く『THE iDOLM@STER Live For You!』では完全にライブのみに特化させた内容になっていたし、PSP移植版である『THE iDOLM@STER SP』もプレイヤーへの救済措置をシステムに盛り込む等、シミュレーションゲーム部分の低難易度化を推し進めて来ました。そしてその流れを汲んだ上で更にDSというプラットフォームのユーザー層を考慮して、本作はこのようなデザインになったのだと考えられます。

先にシミュレーションゲームとして評価していると書いた僕だけれども、このシリーズのこうした転換自体は賛成だし、そちらの方がこのシリーズの商業的、作品的将来性もあると思う。しかしここで問題になるのは、特に本作で問題なのはシミュレーションゲームとしての形式だけが残っていて、それが作品全体の害悪になってしまっているという事。難易度の低いシミュレーションゲームの要素に面白みは何もない。ここは割り切って成長要素そのものをバッサリ無くしてしまうか、或いは難易度の高低に関わらず楽しめるシステムへ、抜本的に転換する必要があるでしょう。

しかし仮にそれが出来ていたとしても本作に救いがないのは、本来引き立てるべき観賞ゲームとしての側面すら立っていないという事。 特にライブシーンのクオリティがとても低くなってしまっているのは致命的。一応3Dで描画されるものの解像度はとても低くてドットが丸見えだし、ステージやキャラクターのモデリングも質素。これはもう完全にDSというハードの性能上の制約が原因で、確かにDSのゲームの中で見たら頑張っている方なのかもしれませんが、見た目が全てのこの領域においては絶対的に綺麗じゃないと意味が無い。また主役と765プロアイドル達以外はボイスがついてないのも相当厳しく、特に本作は顔出しで魅力的な脇役が多いだけに尚の事残念。ここでもやはりDSとしての制限を感じてしまいます。

恐らく開発者達もそれを分かっていて、だからこそDSというハードでも十分拡充できる要素として、今までは一番軽視していたシナリオを重視せざるをえなかったのでしょう。またここまで書き忘れていましたが本作はライブエディット機能がこれまでのシリーズの中で一番充実しているのですが、これもライブそのものがそのままでは見るに耐えないから、自分で作ってもらって何とか付加価値を付けようとしているとしか思えない。しかしこれってデザインの仕方としてはとても消極的。魅力を何とかして失わないよう完全に守りの体制に入ってしまっています。

こうなってしまった最大の原因は、やはりDSというプラットフォームで出そうとした事。これにはどうやら女性を中心にした新規ユーザー層を獲得したいという狙いが絡んでいたようですが、どうにもそういう経営判断ありきで作品が完全に振り回されてしまっている様に見えますね。このシリーズはシミュレーションゲームとしては難易度高くないと意味ないし、観賞ゲームとしてはグラフィックスが綺麗じゃないと話にならない。どっちに振ったとしてもDSには絶対的に合いません。

まぁそれでも結果としてターゲットとした女性ユーザーがちゃんと食いついてくれれば、犠牲を払った甲斐はあったのかもしれませんが、初日の売り上げがシリーズ中最低の2万本というデータを見る限り、本懐の女性層からは完全スルーを決め込まれ、購入しているのは従来のファンの中でも諸々の問題点を許容できる熱心な人達のみ、と考えるのが妥当でしょうか。本末転倒ですね。

僕自身の総合的な評価はシナリオ一点張りの内容とはいえ、これまでのシリーズの歴史による下支えもあって、一定の水準を満たした内容になっているとは思います。しかし最初の企画の時点で迷走している感があるのも確かであり、もう少しゲームにあったハード選びをしてもらいたい。そうした上でより深いレベルで問題になってくるのは、観賞ゲームとしての側面とシミュレーションゲームとしての側面という、二つの歪な関係をどう改善していくか。多分これを解決するにはこれまでのような、マイナーチェンジな作り方では対応できない。将来的に出るであろう『THE IDOLM@STER 2』には、是非ともその辺を中心にもう一皮剥けてもらいたいものです。

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