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2009/10/04 - とてもおいしい二番煎じ


『Batman: Arkham Asylum』クリア。一貫して丁寧に作られていて粗らしい粗も無い、とても完成度の高い作品でした。ゲーム全体で見てもこれ程までのものは中々無いし、キャラゲーなら尚更です。

しかしそれにしては自分の中ではあまり盛り上がらなかった。とは言っても世間の盛り上がり方に比較したらの話で、前のエントリーで書いた事も含めて完成度の高さや現代的な意識の高さってのは十分感じ取れるのですが、それにしては冷めている自分もまた感じる。これについて明確に言い表すのは難しいのですが、強いて言うなら折衷主義的なデザインが気に食わないって事になるのかなぁ。

前のエントリーでは『Splinter Cell』や『The Chronicle of Riddick: Escape from Butcher Bay』から影響を受けていると書きましたが、それはどちらかと言うとシステム面に対するもので、もっとマクロに"面白さ"のベクトルから判断すると寧ろ『BioShock』や『Crysis』に近いんじゃないかと思います。つまり基本的にプレイヤー優位のデザインで、色々なやり方で"俺TUEEEEE"を体感していく事を面白みとするような方向性。

しかも"俺TUEEEEE"感は失わせずとも、後半になるに従って難易度は上げていき、ゲーム的な手応えをも両立させているのが本作の強みで、その点は前述した二作を上回っているとも思います。しかしここで僕が問題にしたいのは、でもその面白さの方向性自体は本作のオリジナルではないよねって事。勿論その二作にも元ネタになる作品が無いわけではないのですが、しかし一般的にそれを初めて明確な形として結実させたって所に、作品的価値と言うか評価される所以があると思うわけです。

しかし本作にはそういうものが無い。個々の要素の質は確かに高いけど、それ自体は既に前の作品が示した物の延長上。本作をやっているとこんな調子で上記した作品群以外にも色々なタイトルが頭をよぎって、しかもそのイメージが明確過ぎる。B級ゲームならまだしもA級ゲームでこうだと、余程規格外に面白くない限りは、ちょっと僕は本気で評価する事は出来ない。

ちなみに僕が大作に求める要素って総合的な完成度も考慮には入れるんですが、それ以上にゲーム(業界)の進化に新たな道標を示せているかって点を重視していて、しかも年々そっちの割合の方が強くなっている。だから極端な話完成度は低くても、上記の意義が達成できていれば、完成度が高いだけのゲームよりも遥かに良いわけです。

僕にとってはその典型的な例が『Far Cry 2』。この作品は出来上がった品それのみで判断すると、だだっ広いだけのマップの中を延々とルーチンワークでこなしていくデザインが途方も無く退屈で、とてもじゃないけど完成度が高いとは言えない内容だったかもしれません。しかし現行のゲームの中で最もフリーローミング性を突き詰めたものを作ろうとしていた点や、ゲームの要素の多くの部分を仕込みではなくプロシージャル技術でシミュレーションしようとし、しかもそれをゲームの開発現場の作業の簡略・効率化にまで活かそうとしていた点においては、他に前例が無い上に同時代的な業界全体の課題も汲んだ、とても意識の高い取り組みだったと思っています。

特にプロシージャル関連は業界全体が抱えている開発費高騰や開発期間の増大に対する対策の側面もあるわけで、こういうクリティカルな問題に対してその解決策を作品によって示していくのは、ある意味今ある方法論で出来の良いものを手堅くまとめる事よりもよっぽど大事。他の例だとValveの『Half-Life 2: Episode One』や『Half-Life 2: Episode Two』で提唱したエピソード形式や、『Left 4 Dead』のAI Directorに関しても同じ事が言えますね。まぁこういう取り組みって道半ばで頓挫してしまうのが殆どなんですが、中にはAI Directorの様にかなり上手く行った例もあるし、エピソード形式にしてもそれ自体は失敗してしまったけど、間接的にDLCに繋がってくる方法論を示していたし、決して無駄には終わっていない。今の面白さよりも5年後の業界を見据えた行動をとる。それが長期的に見た場合、より多くの面白いゲームが栄える礎になる。

『Batman: Arkham Asylum』に話を戻しますが、つまりはそういったものが本作にはありますかって事です。まぁ大抵の作品にはそんなものありっこないのですが、だからこそメディアの大絶賛ぶりに行き過ぎを感じるというか。もしくはこの評価は"キャラゲーでここまでのものを作った"という点を加味した上でのものなのかもしれませんが、でもそれなら『The Chronicle of Riddick: Escape from Butcher Bay』と言うかStarbreezeの作品が既に達成して来た事なので、別に本作がエポックメイキングなわけではないし。

しかし本作と同じ傾向でしかもより露骨な『Dead Space』は僕は評価しているし、『Far Cry 2』とやはり同じ傾向を持つ『Assassin's Creed』は全く評価していない点を考えると、上記してきた事と矛盾した事言うようだけど、やはり最後の最後は作品それ自体の面白さも大切って事になるのでしょうか。でも『Dead Space』も僕は当初は卑しい作品だと厳しく見ていて、だけど最終的にはその完成度に屈服して良作って評価をした経緯があるので、やはりこの傾向の作品は好きにはなれない。ましてや本作は後発ですから、二匹目のドジョウはいないのですよ。幾ら完成度が高いといは言え、『Dead Sapce』と比べるとやはり幾分鮮やかさに欠けるし。

とまぁ、今回はかなり辛辣に書いてしまいましたが、今回のはじめや前回のエントリーでも書いたとおり、折衷主義ながらもそれぞれの要素のツボを押さえていて、水準を優に超えている作品であるのは確かで、Batmanファンであるなし関係なく広く薦められる作品だと思います。またRocksteadyも有望なスタジオとして今後の活動に期待できるでしょう。ただそれに対するメディアの評価があまりに加熱し過ぎていて、それと実物との温度差で少し肩透かし食らってしまったな、という話でした。

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