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2009/10/08 - 後一歩


『Zeno Clash』をプレイ開始。今年の4月にACE Team softwareからリリースされたインディーズ作品で、南米チリ発のゲームという出自と相まって、そのアートワークの奇抜さ等から洋ゲーマニアの間で密かに話題になった作品です。

近年従来のPCゲームやその市場はコンソールに取って代わられる形で年々縮小傾向にあるのですが、反面独立系デベロッパによるインディーズゲームはオンライン販売等のインフラが整ってきた事もあって盛り上がりが拡大中。しかしそれは言い換えると雨後の筍の様なもので、絶対量は増えても本当に良い作品はそうそうあるものではありません。そんな中本作はインディーズでありながら、その手の作品では珍しいFPSであるという所が目を引く作品です。

本作の舞台はZenozoikというファンタジー世界。主人公のGhatはFhather-Matherという生物から産み落とされた子供だったが、ある事をきっかけにその親を殺してしまう。Ghatはそれまでの経緯を回想しつつ、兄弟や雇われた殺し屋等の追っ手から逃れる為、ガールフレンドのDeadraと共に逃避行を続けるというストーリー。

舞台設定が奇異な上に、ゲームのスタート直後は状況説明が全く無い為、この時点で相当人を選ぶは間違いない。特に『Call of Duty』シリーズの様に、お膳立てを全部やってくれないと僕ちゃん遊べなぁいな人は端からお呼びじゃない。しかしその分商業作品とは別の魅力があるのも確かで、まぁ美術という大枠で捉えたらこういう様式って一定割合あるものなんだけど、少なくともFPSというジャンルの中では非常に珍しい。こうした方向性こそが正にインディーズと言えるでしょうね。

また本作はそうでありながら技術面においても秀でたものを持っており、モデリングやアニメーション等所謂技術と労力を必要とする部分はどれもインディーズとは思えないくらい質が高い。またそもそもFPSというジャンル自体が作りこみに欲求するレベルがシビアで、だからこそインディーズはこのジャンルは敬遠しがちなのですが、それでもそれを成立させているのだからこれは中々凄い事です。この辺はValveによる技術協力の影響も大きいのかもしれません。


しかし見た目のみならず、ゲームデザインというもっと大きな枠組みで捉えて見ると、やはり粗と言うか垢抜けなさが目立ちますね。ストーリーテリングは拙いし、FPSの要である銃撃感やレベルデザインもダメダメで、総合的な完成度という点では大手の作品との差は依然として大きい。ただその中で唯一メインの要素である格闘戦のみは光る部分を感じさせます。

ここまで申し遅れてしまいましたが、本作はFPSと言ってもただのFPSではなく、『Condemned: Criminal Origins』の様に敵とプレイヤーが互いに接近し合っての格闘戦に重きが置かれています。大体ゲームの七割くらいが格闘戦で、その中でも殆どが素手による殴り合い。内容も凝っていて組み合わせで多彩な技やコンボが繰り出せるし、敵も同様の攻撃や回避行動を取ってくる。しかも敵は大体二、三人同時に攻めて来る上に一人一人の体力値も高いのでゴリ押しは利かず、戦局を見極めて考えながら戦っていく必要があります。こうした駆け引きが面白く、またアニメーションも良く出来ているので、戦っている時の臨場感も高い。


前述した通り他の要素がダメダメなので、本作の面白さは正直殆どこの格闘戦のみで成り立っている状態。ただインディーズの作品に限ってはこういうのはアリだと僕は思います。と言うのも予算も人員も少ないインディーズにおいて総合的な完成度を高めるのはとても難しいわけで、端からそういうものは求められない。それよりかは例え他の要素を切り詰めてでも、作り手が一番見せたい所それのみを作りこんでくれれば、そっちの方が面白いしまた将来的な可能性も感じられる、と言うのが僕の考え。

本作の場合それは"特異な世界観"と"格闘戦"だったようで、元よりハードルが高いFPSというジャンルでその二点のみでもここまで見せられたのであれば、それでもう及第点は与えられるのではないでしょうか。実際予想以上に売れたらしく、もう早速次回作に取り掛かれているみたいだしね。どの分野でも言える事だけど、とりわけインディーズでは次回に繋がる事ほど光栄な事は無いわけで、本作はその求められる分際を弁えているという強かさも含めて、インディーズゲームとしてはかなり模範解答的な作品だと思います。

しかし欲を言うとこれはこれで改善すべき点を感じないわけではありません。まずはレベルデザイン。それも特に異世界を冒険していく作品として、レベルデザインがその役割を十分に果たせていない事に不満を感じます。現状ではまるでリングの様に大きく開けた道が平面的に続くだけで、折角の異世界の風景もプレイヤーが干渉できない遠方に描かれているのみ。勿論現状のレベルデザインはそれ以外に格闘FPSとしても単調でダメダメなんだけど、そっちの面での面白さは後回しでも良いから、せめてもっと異世界を探検しているかのような気分を味わえるものにはして欲しい。

そして次に格闘戦のオリジナリティの問題。先では良く出来ていると書きましたが、実はこれ『Condemned 2: Blood Shot』と丸被りなんですよね、内容が。確かに良く出来ているし細かい所で違いもあるのだけれど、総体としての印象は影響受けたの一言では済まされないくらい似通っている。当然向こうの方が一日の長があるのですからクオリティは断然高く、そんな真正面からやりあって到底敵わない相手とこんなに被ってしまっていて良いのでしょうか。

インディーズの作品が良く陥りがちなのが、見た目が奇抜なだけで中身は既存の作品の焼き増しってパターンで、本作も見せるべきところのクオリティのそれなりの高さと、元ネタになっているジャンル自体大して作品数が無い事によって、何とかうやむやになっていますが、本質的にはそのジンクスに嵌ってしまっている感は否めません。若しくはもっと見た目が今以上に奇抜で本気で我を忘れるくらい魅力的であれば、格闘戦の既視感なんて気にならなくなるかもしれませんが、インディーズ作品はこのどっちかが突き抜けてないとやはり一流と言うのは厳しいかな。『Braid』や『Darwinia』等僕が本気で評価している作品は必ずそのどっちかを満たしているので。『Zeno Clash』は確かに良く出来ていたのですが後一歩が足りません。

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