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2009/10/30 - 余りにも不思議ちゃん


『The Void』をプレイ開始です。ロシアのIce-Pick Lodge開発で、本国での発売から凡そ一年半を経て英国でも発売されました。このスタジオの前作の『Pathologic』がカルト的な評価を受けている事から、本作も一部のハードコアゲーマーの中ではかなり期待されていた作品。日本でもPCゲーム道場さんで特集が組まれているので、ご存知の方もおられるかと思います。

このスタジオの作品は『Pathologic』と本作共々とても風変わりな内容なのが有名で、世間的には前回のエントリーまで紹介してきたTale of Talesの諸作品と同様、アートゲームに分類されている様です。ただ元々ロシア出身の超マイナーなスタジオな上に内容も奇異な為ローカライズには恵まれておらず、『Pathologic』は一応英語圏で発売はされたものの翻訳が無茶苦茶で、英語を母国語とする人ですら難儀する代物だったらしい。そうした背景から『Pathlogic』は遊ぶのを見送っていてたのですが、本作は途中雲行きが怪しくなったりはしたけど、最終的にはちゃんと発売されて良かったです。

本作の舞台はVoidという名の異世界で、主人公は現実世界から精神が分離してこの世界に来てしまったという設定。具体的に何故Voidに来てしまったのか、またVoidとは何なのかは少なくともゲーム開始直後は明示されず、右も左も分からない状態の中、この世界で生き残り最終的には脱出を目指して行きます。

あちこちで言われている通り非常に奇抜な本作ですが、FPSの見てくれにRTS的な時間経過性と資源生産の要素、それにRPG的な成長要素を組み合わせた内容と言い表せば、多少は分かり易いんじゃないでしょうか。それぞれ具体的に見ていくと、本作にはまずターン性に近い時間経過の概念があり、例えばこのクエストは4サイクルまでに達成しろといった具合に、常にタイムリミットを設けられた中でゲームは進んで行きます。

その上で全てに先立ち最も重要と言えるのがLymphaという要素で、これは他のゲームにとってのHPや各種能力値、または弾薬や通貨等といった要素を、一元的に統括している存在です。Lymphaは更に七色の個別のColorによって構成されており、単純な話これをどれだけ持っているかが、プレイヤーの色々な意味での強さを決定します。

例えばHeartと呼ぶHPのスロットに注ぎ込んだLymphaの量がそのまま体力値となるし、またその時注ぎ込んだ色によって、どの能力にプラス補正が加わるかも変わってくる。また戦闘や各種特殊な動作をする際はこのLymphaで空中にそれぞれの効果に対応した絵文字を描くのですが、この時もLymphaの色や消費した分量によって効果及び威力は変わる。更には後述するSistersとのイベントを進めるのにも、これを貢がなければならない等など、全ての局面においてLymphaは必要不可欠です。


但しこのLympha、厳密にはHeartに注ぎ込んだそれは時間経過と共に減少していってしまうので、プレイヤーは絶えずこれを外部から摂取して行かなければなりません。最も基本的なやり方はマップ上で植物の様に原生しているものを収穫する事ですが、しかしこの手段だとColorの種類がターン毎に偏っていて、違うColorが欲しい時に詰まってしまう。その為本作にはGardenというColorの養殖場やMineという特定のColorを大量に取得できる鉱山が設けられており、ここで余ったColorを培養したり鉱山を掘る事を通じて、各Color毎のLymphaの量をマネージメントしていく。こうした消費と摂取を繰り返しながら、徐々にLymphaの所有量を増やしていって、己を高めていくのが本作の基本的な流れと言えます。


そしてもう一つ欠かせない要素がSistersとBrothers。彼等はこのVoidの住人で、プレイヤーはクエストを依頼されたり逆に助けてもらったり、また時には戦う等色々なかたちで彼等と関わっていきます。まずSistersは総勢11名でVoidの11個のエリアにそれぞれ分布しており、彼女達は条件付ではるけどもプレイヤーにとっては協力者とも言える存在。そしてその条件とは各Sisterが好むLymphaを貢ぐ事で、彼女のHeartをそれによって満たしていく事で、順に自分のエリアの要所へのアクセスを許してくれたり、次の別のSstersのエリアへの道を開いてくれます。

この辺はクエストの進行と連動しているので、ゲーム中盤までの目標は進行に従いながら各SistersにLymphaを貢ぎ、次のエリアへ進んでいく事。しかし最終的な目標は彼女の内誰か一人のHeartを最大まで満たす事で、そうする事で彼女はプレイヤーが現実世界へ帰る手助けをしてくれて、更には彼女を一緒に連れて行くことも出来るらしい。尚Sistersはそれぞれ女王様気質だったりメランコリックだったりと性格が異なっていて、また仲良くなっていくにつれて体を覆うオーラみたいなのが減っていって、より裸に近づいていきます。だから結構日本のギャルゲー、エロゲーに通ずるものがあるのですが、本作はあくまでもエロではなくアートというスタンス。余談ですがこうした際どさから英国版は表現が規制されるのではないかと言われていましたが、実際にやってみた感じでは 無事無修正みたいなので良かったです。


一方Sistersとの関わりは万事順調に行くわけではありません。Sistersが協力者ならその逆がBrothersで、彼等は言わばVoidの管理者的存在であり、Sistersと同様、それぞれと対になるかたちで総勢11名存在します。彼等は人間的なSistersとは打って変わって奇抜な姿をしており、表面上はプレイヤーの師匠として協力的な態度を取ってきますが、実際には罠に嵌めようとしてきたり、明らかに理不尽な不平等条約を押し付けてきたりと嫌味な奴等。また彼等は自分の配下のSistersとプレイヤーが接触する事を好まず、SistersにLymphaを貢いだり彼等が定めたルールを守らなかったりすると好感度が下がっていき、最悪敵に回って対決する事になります。しかしBrothersはとても強く、正面衝突したら多大な損害は免れられない為、なるべくご機嫌を伺って極端に嫌われるのを避けつつ進めていく必要があります。


以上が本作の簡単な概要説明となりますが全部説明しているときりが無く、かなり掻い摘んで書いているので詳しく知りたい方はPCゲーム道場さんの方の記事を読まれるのをお薦めします。要するにそれだけ奇抜な内容だって事で、僕もここまで遊んだ限りでは正直良く分からない部分が多すぎて、面白いともつまらないとも言えない状態。現時点では上記した様なLymphaを中心にしたステータスのマネージメント要素が強くて戦闘要素は大して無いのですが、にしては今後覚えていくであろう戦闘向けの魔法の種類が結構あるみたいなので、ここからまた展開が変わってくるのかもしれない。この不可解さは『S.T.A.L.K.E.R.: Shadow of Chernobyl』の序盤と同等かそれ以上です。

ただ好感が持てるのは丁寧なチュートリアルが用意されている事で、ゲームを進めて新しい出来事が起こる度にそれの解説をしてくれ、また会話内容も全てログに記録されて幾らでも読めるようになっているのはロシアの作品とは思えないくらいに親切。それだけ本作が奇抜なのは作り手も十分承知しているという事なのでしょう。ただ中盤に入っても相変わらずチュートリアルが挟まれるのは流石にくどいので、二周目以降はスキップできれば尚良いですね。


一方チュートリアルの必要性が高いという事は、言い換えるとゲームの内容が言語的な説明に依存しているという事でもあり、これに関してはもっと言うと内容の説明的な部分に留まらず、本作の面白さそのものにも関わってくる問題です。と言うのも本作はSistersやBrothersとの会話にとても比重が置かれていて、そこでのやり取りが作品の世界観や雰囲気の多くを形作っているからです。この比重はテキストベースのアドベンチャー程では無いにしても通常のFPSと比べると遥かに多く、よってゲームを進めるにも楽しむにも英語力は必須です。

これは逆に言うとそれだけ言語的な説明以外に、ゲームの進め方や世界観を理解できたり体感できる機会が少ないという事でもあり、これはちょっと期待はずれだったと言うのが正直な所。ゲームプレイと同時に見た目も奇抜な本作ではありますが、その世界観を所謂今時のFPSの様に主観視点で体感できる機会は少なく、ゲームの半分位はVoidの全体を表したマップ画面で過ごす事になります。ここで個別のエリアを選択し、その中では主観視点で歩き回る事が出来るのですが、そのエリアも一つ一つはものの一、二分で歩き回れる程度の大きさでしかありません。そもそもゲーム内時間の経過は全体マップの場面でしか行われないので、ここに居ないとゲーム自体が進まない。言い換えると戦闘や資源の生成、収穫等の行為を主観視点で出来るだけで、全体を通したプレイフィーリングは寧ろ傍観的なRTSやRPGに近い。最初の説明の方でRTSやRPGという単語を単語を出したのはこうした面も踏まえての事だったのです。


とは言えそれでも本作の世界観が他に無く奇抜で魅力的なのは違いなく、その点は素直に楽しめています。特にまず何よりもVoidという世界ありきという表現視点が、とてもロシア的な考え方と言うか感性で良いですね。本作のVoidという世界はプレイヤーが来た時には危機的な飢餓に見舞われている殆ど不毛の地という設定で、Sistersからは如何にここが飢えていて、そして自分達が凍えているのかという事を何度も何度も聞かされるし、BrothersからはVoidのルールや生態を知り、それを乱さず守り通す事を強調されます。こうした世界や自然を最上のものとし、ちっぽけな人間がそこに畏怖や畏敬の念を抱きながら存在するという図式は、『S.T.A.L.K.E.R.: Shadow of Chernobyl』や『Cryostasis』等同じ東欧出身の作品に共通して見られるものです。これはやはりあちらで生きる人々が民族的に持っている、普遍的な価値観なのでしょう。

これ以外にも前述したSistersのビジュアル表現は今までのゲームには無かったものでとても新鮮に感じるし、Brothersの奇怪なデザインもまた他のゲームにはなく、その容姿を活かした彼等の戦闘場面もゲーム的には避けるべき事態ではあるんだけど、寧ろ積極的に挑んで行きたい位に魅力的。これからどういった展開が待っているのか全く予想がつきませんが、良い意味でこうした不可思議さを維持したまま最後まで突き抜けて欲しいですね。

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