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2009/11/20 - 去勢された『Far Cry 2』


『Borderlands』をプレイしています。『Brothers in Arms』シリーズで有名なGearbox Softwareの新作。発売から一ヶ月経って旬を逃した感がありますが、どうせマルチプレイはやらないので関係ありません。フリーローミングの下で、オーソドックスなFPS的要素とハック&スラッシュ的なRPGの要素を掛け合わせたハイブリット作品。FPSとRPGの融合は今日においては何ら珍しいものではありませんが、本作はそれを完全な50:50のバランスで作ろうとしたところが特徴的と言えるでしょう。

まぁでものっけから否定的な事言いますが、発売前まではこの作品全然期待していなかったんですよね。だって今日においてFPS+RPGである事を敢えてセールスポイントに持ってくる所自体が新鮮味が無いし、ポストアポカリプス的世界観も同様にありきたり。今世代のゲームでこの世界観のゲームが幾つあると思います?先駆けだった『BioShock』は一番捻りが利いていて良かったものの、後続の『Fallout 3』、『Borderlands』、そして開発中の『Rage』はほぼ直球ストレート。

こういうネタ被りが起きてしまっている時点で商品として失格ですよね。本作は途中で画風をリアル路線からアメコミ路線に変えて若干持ち直したけれども、こういったゲームデザインと見た目共々ありきたりというその企画力の無さが、Monolithの『F.E.A.R. 2: Project Origin』やRavenの『Wolfenstein』と同様の、老舗スタジオの凋落の図にしか見えなかったのですよ。

ただ結果的に発売後はメディアからは高い評価を得て売り上げも上々という良い意味で予想を裏切る展開となり、それで僕も興味が沸いてきて購入と相成ったわけです。現在既に13時間以上遊んでいますが、確かにメディアからの評価も納得出来る作品の強度、作りの細やかさや丁寧さは感じました。一言にすると取り立てて悪い所はない。しかしその一方で発売前に懸念していた新鮮味の少なさや同時代的な意識の低さもやはり感じてしまいます。

本作の舞台はPandora。ここはかつては植民地として多くの者が移住してきていたが、度重なる原生のエイリアンによる襲撃により、一部を除いて多くが離れていった辺境の星。しかしこの星には遥か昔に知的宇宙人が遺した、Vaultと呼ばれる驚異的なテクノロジーが何処かに眠っているという伝説があった。主人公はその秘宝を求めてこの星に流れ着いたならず者のうちの一人という設定。


何かもう舞台設定の時点で色々なゲームと被っていますが、本作は今時のゲームにしては珍しくストーリー性が薄い。そのストーリーと言っても例えば『Call of Duty』シリーズの様なガチガチのスクリプト主体で見せる物もあれば、『S.T.A.L.K.E.R.: Shadow of Chernobyl』の様に直接的ではないが特殊な雰囲気によって物語る物まで様々なスタイルがありますが、本作はあらゆる意味でストーリー性、体験性が極めて薄い。これはもう『Doom 3』辺りの昔の味系ゲームとタメ張れるレベルで、ストーリーは兎に角添え物、寿司で言うところのガリ、メインディッシュはハック&スラッシュの語源通り、只管敵を切り刻んで叩き斬るもとい、撃って撃って撃ちまくるのみ。こういう形式は名作『Diablo』を始めとした欧米産RPGの古典的伝統なわけですが、それを何の捻りも無く今の時代に、しかもFPSで蒸し返す所に開発者の頭の古さが伺えます。まぁ文句ばっか垂れているとそれだけで終わってしまいそうなので、とりあえずまずは良い所を取り上げていきましょう。

本作の良いところはFPSとハック&スラッシュ的RPGの融合を目指した分、それに関しては完成度が高いという点に尽きます。ゲームの流れは単純明快で、ミッションを引き受けて指定された場所まで行って撃ちまくる、ただそれのみ。ミッション毎の個々の微妙な違いはあれど、基本的に銃をぶっ放しまくりなのは変わりありません。そしてそれにレベルアップやより強い武器の獲得といった要素が加わってきて、ミッションを引き受けるたびに強くなり、更に高レベルのミッションに挑戦していくというサイクルによって進んで行きます。


本作はゲームの始めに四つのクラスから操作キャラクターを選ぶ事になりますが、それぞれの性能差はそれほど強くなく、どれでもどのようにでも遊べるし、逆に言うとどれを選んでも大して多様性は無い。成長要素も同様で、一応スキルツリーがあって自分の好みで変化を付ける事は可能ですが、この効果もあくまでも補助的に過ぎず、総じてRPG的キャラクターエディット要素は本家のそれと比べると大分強制力は低いと言えます。

一方FPS的な部分は結構まともにFPSをしており、FPSの体裁をしたRPGといえば他に『Fallout 3』が連想されますが、ああいった見た目だけのものとは異なり、本作はかなり正統なFPSとしての立ち回りやエイミング能力が問われる内容になっています。もう少し具体的に見ていくとシューティングとしての味付けはオールドライクーシューター掛かったセミリアル式。但し動物系の敵と戦う場合等は相手の攻撃を避けて、お留守になった横っ腹に叩き込むといった、往年のシューターさながらの立ち回りを欲求されてきたりもします。


ここから言えるのは、本作は自分で動かなければ何も始まらないという事。例えば先ほど挙げた『Fallout 3』の場合は、敵の攻撃のミス判定だとか、自分の攻撃のクリティカル判定等は殆ど自身のパラメーターに依るという、極めてRPG的な決め方でした。しかし本作は自分で横に移動するなりして実際に敵の攻撃を避けないと避けた事にはならないし、クリティカルヒットも自分で相手の急所を狙い撃たない限りは絶対に発生しない。本作の能力値というのはそうした行動の結果に対して、どれだけダメージ値を上乗せするか、或いは下げるのかといったものに過ぎません。

何だかここまで読んだ限りだと全然FPS分の方が強いじゃないかと思われるかもしれませんが、実はそういうわけでもありません。じゃあ本作は何を己のRPG的な部分の担保としているかと言うと、レベルシステムと武器収集の二点にほぼ集約されます。順に見ていくと本作は多くのRPGと同様に経験値を溜めてレベルアップしていく事ができるのですが、他の作品と比べるとレベル毎の強弱の差が大分強いという印象を受けます。自分より数段低いレベルの相手なら簡単に倒す事が出来ますが、これが同程度になると一気に苦戦させられる状況が増えてくるし、更に自分より高い相手となるとこちらが一方的にちまちまと攻撃できる状況を作り出せない限り、倒すのは極めて難しい。その為本作はレベル上げるという、極めてRPG的な行為をする必要が出てくるわけです。

ただこれだけだと単なる作業プレイになってしまうわけですが、ここでモチベーションを維持させるものとして機能しているのが武器収集の要素。本作にはプロシージャル技術によって1600万種以上の武器が存在し、倒した敵がたまに落としたり、また敵要塞の最深部にある宝箱もとい武器ボックスを開ける事によって手に入れることが出来ます。この中には勿論レアな物も存在し、運良く手に入れる事が出来ればそれは戦闘において大きなアドバンテージとなる。このダンジョンに潜ってはお宝を手に入れ、どんどんパワーアップしていく事こそハック&スラッシュの醍醐味であり、本作はそこをかなり正確に捉えています。何せ1600万種だから一度として同じ武器にめぐり合う事は無く、次こそは強い武器が手に入るのではないかという期待感が、レベル上げを含めた本作で取れる行為全般を正当化しているのです。


こうした個々の要素を踏まえた上で見えてくる本作の最も優れている点とは、プレイヤーの裁量によってFPS的にもRPG的にも遊べるその懐の広さ。上記した通りレベル毎の差が激しい本作ではありますが、FPS的なスキルの必要性も高い分そちらに自信があれば、幾らかのRPG的な落差はカバーする事が出来る。一方FPS的なスキルに自信が無い人も、地道にレベルを上げて強い武器を手に入れていけば、急所を狙ったり避けたりしなくとも敵を制圧する事が出来る。これは言い換えればFPS初心者から上級者まで対応したデザインだという事でもあります。本作には難易度設定がありませんが、こうしたデザインによってプレイヤーが自分にあった難易度を自ら調整する事が出来る。ゲームの大規模化が進んだ昨今難易度調整は悩みの種の一つですが、本作はそれに対してスマートな解を示しています。

以上が本作の良いところでしたが、そろそろ悪いところも書いていきたいと思います。言いたいところは色々とありますが、先ず取り上げたいのはそれは『Diablo』が遥か昔に通った道だ、という事です。まぁ本作の場合はFPSの要素も絡むから完全な『Diablo』クローンとは言えないのだけれど、そのFPS的な要素にしたってそれ単独でみたら特別目新しい所はないわけでしょ。またそれぞれは過去の技術、過去のデザイン文法で十分成立しきっていたものであって、それを単に組み合わせるだけで現代的なデザインになり得るのかという話です。少なくとも本作はなり得ていない。両方組み合わせても刺激されるのは、結局過去の既に知っている面白さに過ぎません。ただ過去のゲーム二本を交互にやるのを、一本で済ませられるというお得感があるだけ。

またその肝心の二種配合のデザインそれ自体に対しても、ゲームを続けていくうちに段々と単調に感じてきてしまう問題がある。まず敵の種類が少ない。中盤まで進めたけれども人型の敵はBanditsただ一種のみだし、動物系を含めても片手で数えられる程度。マイナーチェンジ版はやたらと種類がいますが、これだけでは水増し感が否めません。またレベルが上がっていく事による変化も貧しく、確かに数値上は自分も敵も武器も強くなっていくのだけれど、新しい魔法を覚えるだとかいった事はないので、お互い与えるダメージ量が増えていくだけ。根本的にやる事は何も変わらない訳ですよ。

こうした問題点を見て思い出すのが『Far Cry 2』です。ここまで挙げてきませんでしたが本作と『Far Cry 2』はかなり近い部分があり、実際本作はシューティングに特化したフリーローミングという、コアな部分でのデザインの方向性も含めて相当あの作品から影響を受けていると思う。走ったり歩いたりといったFPSとしての基本的な挙動も通じる部分があるし、『Far Cry 2』に出てきたのと見た目が凄くそっくりなオーディオログを集めるという、半ばオマージュ的なミッションもある。

『Far Cry 2』と本作を比較して見た場合、一見すると本作の方が優れていると感じられる部分は多々あります。例えば目的地へ移動する時は本作の方が全然かったるくない。時間自体が掛からないし、道中で敵と遭遇してもそのままひき殺してしまえばいい。目的地での戦闘も本作はボス戦があったりして気が利いているし、武器の種類も沢山あるから刺激にも事欠かない。本作はまるで『Far Cry 2』の問題点を克服しているようでもあります。

しかし実はこれは単にお互い耐用年数が違うだけに過ぎないのです。遅い早いの問題はるけども、結局『Borderlands』も飽きてくるのですよ。多少工程を複雑化、簡略化したところでルーチンワークである事には変わりが無いのです。問題はここからです。このそろそろ飽きてきたなぁって所まで来た時に、そこから先に新たに見えてくるものが果たしてあるのか。『Far Cry 2』にはあった。でも本作には無いのです。

それは一言にすると体験としてのリアリティ、没入感なんですよね。いつもの決まり文句ですが、最終的にはやはりそれに尽きます。『Far Cry 2』はゲームとしての飽きが来た時、それが一周してアフリカの紛争地帯の途方もない殺戮の連鎖というリアリティに置き換わってしまっていました。それはシューティングとしての基本的な部分の完成度の高さの他にも、プレイヤーを取り巻く環境のリアルな表現に異常なまでに拘った賜物だと思います。舞台となるアフリカのマップの作りこみ、環境音への拘り、主観視点とNo HUDに徹底したインターフェイスデザイン、他のゲームと比べて異常なまでに遅い昼夜のサイクル等など。これらは作為的なものもあれば無作為でそうなってしまった部分もあるのだろうけど、少なくとも『Far Cry 2』の開発者達はリアリティある体験という点は滅茶苦茶拘っていたし、それがあったからこそ異様で存在感のある舞台と体験になっていたはずです。

それが本作にはあるか。ない、全く無い。恐らく眼中にも無い、意識にすら上がっていない。Pandoraという舞台を説得力あるものにする為の大事な仕掛けであるマップの作りこみが、あまりにもゲーム的な都合のみで作られた構造で、リアリティというか異世界だと感じさせる仕掛けが何も無い。天候の変化も全く無いし、昼夜のサイクルも意識が感じられなく、いつの間にか夜になっていつの間にか明けたみたいな調子で有難味の欠片も無い。ここで言いたいの個々のあるなしではなく、リアリティを感じさせようとする意識が根本的に欠けているという点です。その意識の無さが個々の要素の欠落を生んでいる。

開発者はそんなもの目指すつもりはさらさら無かったのかもしれませんが、だったらこれをわざわざフリーローミングという形だけは現代的なデザインにして、今の時代に出す意味が分からない。確かにフリーローミング自体は昔からあったしRPGの一つの定番形ではありましたけど、同じ名でも昔と今とでは定義も求められるものも変わってきている。誤解されたら困りますが、自分は追従しろと言っているわけではないんですよ。『Far Cry 2』にかなり似ているので今回はこの作品を例に挙げたけれど、必ずしもあれになれというわけでもありません。寧ろあれはあれで多分に原理主義的な部分があって問題点も多く抱えており、反面教師にするぐらいの姿勢が丁度いい。

ただ同時代に対して非常に意識的だったという点は買えると思うんですよ。問題はそこです。現代の文脈や風潮、定義の移り変わりに対してどれだけ意識的であるのかという点を問うているのです。だから否定しても良いのですよ。するのであれば徹底的にすればいい。でも本作は見栄えだけ借りて本質に対しては無視を決め込んでいるようにしか思えない。それに『Diablo』とオールドライクシューターを組み合わせただけなんて、単なる懐古趣味じゃないですか。

そういう事も関係して、僕は本作のアメコミ調グラフィックスもそこまで肯定的に見ていません。リファイン前のありきたりリアル路線はもう論外でそれよりかは確かにマシなんだけど、本作の世界観に合っているのかどうかはかなり疑問。『Team Fortress 2』や『Mirror's Edge』程のゲームデザイン上の必然性が感じられないどころか、グラフィックスの軽さがかえって舞台のリアリティをもおちゃらけたものにしているかのような印象すら受けます。まぁ個々のアーキテクチャは良く出来ているし、テクスチャも全部手描きだから凄く頑張っているとは思いますけどね。これはプロジェクト途中の方向転換から生まれたものだから、どうしても付け焼刃になっちゃったのかなぁ。


まとめると、既存の枠組みのパッチワークとしては良く出来ており、現代っぽい体裁もそれなりに整えている。しかし核の現代的な新規性には無関心で、意識の高さは感じられないし、故に高く評価する事は出来ません。まぁ大ボケかましているわけではなく無難にまとまってはいるし、何よりボリュームがあるので暇つぶしにはもってこいでしょうね。でもこういう言われ方ってゲームとしてはかなり不名誉な事だと思います。

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