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Grand Theft Auto IV
開発: Rockstar North 販売: Rockstar Games - 2008
プラットフォーム: PC



■概要

『Grand Theft Auto IV』は1997年の初代『Grand Theft Auto』から続くシリーズ11作目であり、シリーズ初のHDゲーム機向けの作品だ。このシリーズは特に01年に発売され、日本を含め世界的に大ヒットした『Grand Theft Auto III』が良く知られている。ロードを挟む事無く、一つ繋がりの広大なマップの中で勝手気ままに遊べるゲーム性を打ち出した『Grand Theft Auto III』は、オープンワールドゲームの新たなスタンダードとして後の作品に多大な影響を与えた。一方で犯罪行為をも自由とする内容は、暴力表現の過激さも相まって社会問題にまで発展し、日本でも神奈川県で有害図書に認定されるなど、この筋でも後続に影響を与えた作品として悪名高い。

そんなゲーム業界きってのトラブルメーカーらしさは本作でも健在で、今回は作中の飲酒運転シーンを問題視されアメリカの飲酒運転防止活動団体に訴えられている。しかし発売後はそんなマイナス要因を吹っ飛ばす驚異的なヒットを叩きだし、10年6月の時点で販売本数は1700万本を記録。開発費はゲーム史上最高額の1億ドルが掛かっているが、発売数日で安々と費用を回収している。

そんな商業的にはゲーム史に残る成果を挙げた本作だが、作品としても単なる正統進化に留まらない、いわば過去のシリーズで築いたオープンワールドのスタイルを再定義しようとした、非常に野心溢れる内容になっている。ただその反面過去のシリーズの様な面白さを求めると肩透かしを食らう部分は少なからずあり、その点で本作はファンからは手放しで評価されているわけではない。今回のレビューではそんな本作の目指した方向性と、過去シリーズとの差異を中心に論じていきたい。

■ストーリー

主人公Niko BellicはLiberty Cityへやってきた。従兄弟のRomanからその地でアメリカンドリームを成し遂げたと連絡されていたからだ。金、女、スポーツカーに豪邸。これまで犯罪にまみれた世界で生きてきたNikoにとって、従兄弟がメールや手紙で語るアメリカでの暮らしぶりは希望そのものだった。その地に行きRomanと暮らせば、自らの汚れた過去から決別できると。

しかし程なくしてこの希望は跡形もなく砕かれる事になる。Romanが語っていた成功話は全部大嘘で、実際は借金とトラブルにまみれた、アメリカンドリームとは程遠い惨めな生活を送っていたのだ。呆気に取られるNikoだったが、他に身寄が無い為しぶしぶRomanとの共同生活を始め、ついでにRomanの抱えている厄介ごとの処理までやらされるのだった。

しかし実はNikoにはRomanにも話していない、もう一つのLiberty Cityへ来た理由があった。

今回の主役は東欧出身。裏社会から逃れるも、結局ここでもまた裏社会に巻き込まれる。

■"砂場遊び"から"仮想体験装置"へ

さて早速核心を触れよう。『Grand Theft Auto IV』は過去のシリーズと比べて何が一番変わったのか。それは一言で表すと"砂場遊び"から"仮想体験装置"への変化だ。これまでのこのシリーズ、特にシリーズの名を世に知らしめた『Grand Theft Auto III』の面白さとは、大きなマップの中で好き勝手ハチャメチャに遊び回るところにあった。それはこのスタイルのゲームがSandbox型と呼ばれている様にさながら砂場遊びそのもので、通行人を虐殺したり車を奪って暴走したりも、全ては遊び道具の一つという観点だった。当然そこにリアリティが入り込む余地は無く、マップもとい街の中には警察からの指名手配度を消すアイテムだとか、メッタ殺しタイムという通行人を殺す人数を競うミニゲームが遊べるアイテムだとかが転がっている、とてもゲーム的な世界観だったのだ。

しかし本作では過去シリーズまでのこうしたゲーム的な嘘は極力排し、全ての要素がリアリティという観点の下再構築されている。例えば犯罪を犯し警察に追われている場合は、従来の様に路地裏にある賄賂アイテムを取って指名手配度を消すのではなく、実際に包囲網を掻い潜って警察隊から一定以上距離を離さなければいけない。またメッタ殺しタイムは当然無いし、タクシー運送や消火活動等の数あるインスタントなミニゲームも、本作では行うまでにリアリティを表現する為の手続きが増えている。タクシー運送ならその会社を経営している従兄弟に連絡して、バイトさせてもらうといった具合だ。他にもダメージバランスや身体能力も現実よりに調整されていて、その意味でもハチャメチャな事はやり辛くなっている。

ここまで書くとまるで悪いところ尽くめに思えるが、実際はそうではない。確かに個々の行為は無茶が出来なくなったり面倒が増えたが、代わりに行為のリアリティは格段に上がった。そしてこれにより単に遊びの種類が沢山用意されているという次元に留まらない、Liberty Cityという"一つの生きた世界"の中で色々な行為を行っているという、統一された仮想体験を味わえるようになったのだ。

この"一つの生きた世界"の中に居る感覚こそが、本作の最大の魅力だ。自由に選択できる行為の全てが、主人公やそれを操作するプレイヤーが、その世界に居住している事の証明になるというアプローチ。逆にゲーム中で行える個々の行為はこの仮想体験を味わうための手段に過ぎない為、それ自体がゲームの目的だった過去作と同じ遊び方をしようとしてもあまり面白くない。

ちなみにこの変化は本作で突然もたらされたものではなく、前作の『Grand Theft Auto: San Andreas』の頃から既に兆候は見られていた。『Grand Theft Auto III』が打ち出した"砂場遊び"としてのオープンワールドの原理は、別の言い方をすると遊び方や面白さは全てプレイヤーのイマジネーションにまかせて、ゲーム側からの強制は極力なくすという事だった。しかしこの原理を忠実に貫いていたのは実は『Grand Theft Auto III』だけで、以降のシリーズでは少しずつゲーム側からの強制が増えてきている。

例えば『Grand Theft Auto III』では無口で全く自己主張のしなかった主人公は、続く『Grand Theft Auto: Vice City』では固有の人格のあるキャラクターに変わり、『Grand Theft Auto: San Andreas』では主人公の自己主張は更に強まって、よりストーリー重視の内容になっていった。メインクエストは最初の頃こそクリア方法にかなりの自由度が設けられていたが、段々とゲーム側が指定したレールに沿ってクリアしていく傾向が強まった。他にもマップはどんどん大きくなり、車や武器は増え、服の着せ替えが出来るようになり、食事や筋トレ、ステータスアップの概念まで加わるなど、どんどん現実シミュレーターとしての側面も強まっていった。

以上の様にこのシリーズは回を重ねるにつれ、ゲーム側が用意した遊び方を指定通りに遊ぶ傾向にシフトしていったと言える。しかし問題なのはコアの部分は『Grand Theft Auto III』のデザインのまま要素を足しまくった事で、『Grand Theft Auto: San Andreas』の頃になると新しく追加されたプレイヤーに遊び方を強制する部分と、土台のプレイヤーに遊びを創造させる部分の食い違いが起こり、要素だけはやたら増えたが全体のプレイ感はかなり散漫な印象を受けた。

本作『Grand Theft Auto IV』はこの混乱を整理し、『Grand Theft Auto: San Andreas』の時点で兆候を感じさせた"プレイヤーへの強制を強くする分、現実シミュレーターとしての側面をより高める"という方向性を、土台の部分から作り直した作品とも言える。確かに『Grand Theft Auto: San Andreas』よりも要素は減り、当時のシリーズが売りとしていた面白さは減退した。しかしその分無駄な要素の無いとてもスマートな内容量になり、そこからもたらされるゲームプレイの統一感、"一つの生きた世界"の中に居住している感覚は、過去のシリーズは勿論、その他数多のオープンワールドゲームでも得られない凄まじいものだ。このオープンワールドを再度定義し直したという点において、本作は『Grand Theft Auto III』の意思を継ぐ、ナンバリングタイトルに相応しい作品として、高く評価していいだろう。

■おしゃべりは主人公とゲームとプレイヤーを繋ぐ

本作はストーリーも非常に完成度が高く、尚且つその表現方法はオープンワールドのゲームとしては相当異端だ。一般的にオープンワールドのゲームは主役はプレイヤー自身という観点に基づき、極力キャラクターの自己主張は取り払われるものである。このシリーズも『Grand Theft Auto III』まではその定石に従っていたが、それ以降主役に人格が伴ってきたのは前述した通り。本作ではそれが更に加速し、主役のNikoは兎に角自己主張をしまくる。自分の価値観を喋る機会も多く、しかもその内容はLiberty Cityを否定するものばかりで、プレイヤーへの冷やかしとしてすら捉えられるだろう。とてもじゃないがプレイヤー=主人公という観点では見られない。

しかしこれが不思議と不快ではなく、次第にNikoに対してはゲームとしてというよりも、より映画の登場人物を見ている感覚に近い意味で、感情移入が出来てくるだろう。これには幾つか理由があるが、まず一つは主人公を含めた登場人物の描写がとても巧み且つ丁寧で、愛着が沸くキャラクター作りに成功している点が大きい。『Grand Theft Auto』シリーズは毎回一癖も二癖もあるキャラクターが登場する事でお馴染みだが、本作も女好きの楽天家Romanに始まり、寛大で良い奴だがヤク中なのが玉に瑕のJacob、筋肉バカで超ポジティブなBrucieなど濃い者揃いだ。その中で主役のNikoは現実主義者で彼らに対するツッコミ役だが、そんな彼自身も人間的な弱さを抱えており、そんな人物達が毎回バカをやるのが面白おかしく、またたまに人生について深く語り合う姿はとても味わい深い。

しかし本作のストーリーテリングの凄さは、個々の役者の濃さ以上に、やはりその独特な語り口調にあるだろう。ストーリーは従来通りメインクエストの合間に挟まれるカットシーンでも描かれるが、実はより重要なのは主に車での移動中に行われる、主人公のNikoと他のキャラクターとの会話シーンだ。メインクエストはもとより、本作はサブクエストもNPCと共に行うものが多く、その中で実に多種多様な会話が行われる。取り留めのない世間話に始まり、自分の人生観や過去の話など。その量は膨大で、サブクエストは何十回とやっても毎回違う会話が行われるし、クリアしたらそれっきりのメインクエストですら、ゲームオーバーになってリトライすると、前回とは違った会話内容になっているのだ。

本作は一部例外があるが基本的には登場人物達が主人公に語る会話内容が、その人物や主人公の周辺以外で起こっている出来事を知る殆ど唯一の手段。その為共にクエストを行う事でついでにキャラクターの過去やLiberty Cityでの様々な出来事を知っていくのが余計に楽しく、またその積み重ねによって総体としての"一つの生きた世界"が浮かび上がってくるのが素晴らしい。これは現実で我々が世界を認知していくプロセスと同一であり、その意味でもとてもリアリティのある表現だ。

またこの技法はストーリーテリングの方法として優れている他に、主人公の全ての行動の動機付けとして機能しているという点にも着目しなければならない。普通主人公の自己主張がここまで強くて同時にゲームの自由度も高いと、プレイヤーが取る行為の中には明らかに主人公の信条にそぐわないものも出てくる。それは感情移入の妨げになるし、果ては物語や体験としても破綻する。しかし本作はプレイヤーがとれる殆どの行為に上記の様な主人公達の会話を挟むことで、行為一つ一つがプレイヤーが自由に選択したものであると同時に、主人公自身の人格的にも当然起こし得る事なのだという、正当化を行っているのだ。当然そこではNikoが本来これは俺のやる仕事じゃねぇとかブーたれる事も少なくないが、それでも結局やっちゃう所が人間臭くて愛嬌があるし、プレイヤーとの同一性も保たれる。本作が物語としてもゲームとしても破綻せず、統一された仮想体験を味わえる極意は正にここにあるのだ。

後は何だかんだ言って単純に脚本が良い。物語の中心はNiko抱えている過去の確執を描いており、これまでのシリーズの成り上がる事を単純肯定していた内容と違い、本作は現代に生きる事やそこで見出す幸福の意味や価値を、多種多様な登場人物による群像劇として表現している。そんなヒューマンドラマ的なストーリーとクライムアクション的なゲーム内容とのコントラストが魅力的だ。特に終盤の展開はそれまでの濃いキャラクターにそれまでの膨大な会話量、そしてそれまでの膨大なプレイ時間という積み重ねがあってこそ表現できる見事なもの。近年のゲームの中では『BioShock』と双璧を成す、トップクラスのストーリーだと断言して良いだろう。

ダチと飯食いに行って、他愛も無い話をして家路に着く。人生ってそんなもんさ。

■ディテールの鬼

本作の"一つの生きた世界"の中に居住している感覚を支えているのは、やはりリアリティある環境描写にある。これまでこのシリーズはPlaystation 2向けに開発されてきたので、グラフィックスについては期待できるようなものではなかった。しかし今回から初めてHDゲーム機向けに転身した事で、現行世代のゲームに相応しい、見事なグラフィックスになっている。

まず何よりもLiberty Cityの作り込みが病的なまでに凄い。ポリゴン数は圧倒的に増え、街並みのスケール感は現実そのものに感じられる。更に建物の下は無数の通行人が歩いており、彼らの行動パターンやAIも劇的に進化した。

特に通行人の多様性に関しては、本作で始めて導入されたEuphoriaという物理エンジンによる効果がとても大きいだろう。Euphoriaとはキャラクターの動作をAIによる物理制御で自動生成する技術で、モーションキャプチャーや手打ちのアニメーションの様にただ決められた動きを再生するのではなく、キャラクター自身の目的や周囲の環境に応じて一つとして同じではない振る舞いをするのだ。

例えば通行人を車で跳ねた場合、従来のシリーズでは単一の吹っ飛ばされるアニメーションが再生されるだけだったが、本作では軽く小突かれた程度では少しよろけるだけで、決して吹っ飛びはしない。逆に十分なエネルギーでぶつかりに行けば、彼らはそのままボンネットに乗り上げ、頭を押さえながら後方に転がっていくだろう。または酔っ払って千鳥足の人間相手だったら、少し小突いただけでも転倒するかもしれない。以上の様な振る舞いが全て自動で生成され、そしてその自然さや多様さはこれまでのゲームには無い驚くべきものだ。

こうした環境の下行う様々な遊びや暴走行為は、従来のシリーズとは別次元の面白さがある。またここまで来ると、敢えて何もしないというのも遊び方の一つだろう。車をそっと路肩に停めて、お気に入りの曲をかけながら、道行く人々を観察する。たったそれだけでも無数のドラマが発生するのである。

曲と言えば、このシリーズではお馴染みのラジオ局は本作でも健在だ。局数は過去最高の19(後のDLCによる追加分を含めると23)に上り、有名無名問わず現代の様々な曲をセレクトしている。しかも今回凄いのは、各ラジオ局の選曲を実在の有名ミュージシャン達が担当しているという点だ。例えばクラシックロックのLiberty City Rcok Radioを担当しているのは、パンクのゴッドファーザーことIggy Pop。ディスコ系のK109 The Studioはシャネルのファッションデザイナーの大御所、Karl Lagerfeld。他にもソウルミュージックにRoy Ayers、ハードコアにはJimmy Gestapo等など、その筋の巨匠が勢ぞろいしている。そんな彼らの選曲に耳を傾け、自らもまたセレブリティに浸るのも、本作の立派な楽しみ方だろう。

見所はまだまだ沢山ある。キャラクターを引き連れて遊びにいける遊戯施設はボウリングやビリヤードなど色々とあるが、どれもミニゲームにしてはかなり作りこまれていて、それだけでかなりの時間を費やせる出来だ。また劇場に出かければ様々なショーを見ることが出来、これまた完成度が高い上に、一部ではラジオ局同様実在のコメディアンが参加している。更にはネットカフェを利用すれば作中の架空のウェブサイトを見ることも可能で、これもまた異様な作りこみだ。またこれはキャラクターからの伝聞以外の方法でLiberty Cityの出来事を知る貴重な方法でもあり、自分がやらかした事も含めて様々な出来事がニュースサイトに取り上げられていく小粋な仕掛けが面白い。

色々と取り上げたが、これらのいわばミクロな部分への徹底的なリアリティの追及が本作が病的な所以であり、所々ではリアリティを通り越してリアルそのものにまでなってしまっている節すらある。コンテンツの絶対量で言えば『Grand Theft Auto: San Andreas』には及ばないが、一つ一つの密度は他者の追随を許さない。これらミクロの積み重ねが重厚な仮想体験を生み出していると思うと、開発費1億ドルは伊達ではない。

作り物のオッパイの作り込みが半端じゃないんです。

■必要な嘘とそうではない嘘

これまでのシリーズが抱えていたゲーム的な嘘を無くし、一気に仮想体験と物語を重視した方向性に転身した本作。殆どの部分は完璧に近い作りこみを発揮しているが、唯一つ肝心のメインクエストの仕上がりだけは必ずしも良いとは言えない。この問題は主に仮想体験性とゲーム的な快感の折り合いの付け損ねから来ている。

まず銃撃戦の出来の悪さは弁解の余地がない。そもそもこのシリーズは昔からシューティングとしてはダメダメだったのだが、本作ではカバーアクション等を取り入れて改善しようとしているものの、ジンクスを打ち破るまでには至らなかった。

この原因となっているのが先程取り上げたEuphoriaだ。Euphoriaのアニメーション技術はNPCのみならずプレイヤーキャラクターにも等しく適応されているのだが、あまりに嘘偽りなく人間の動作を物理法則に従って再現するので、リアリティがある反面動作一つ一つがとても重々しくなってしまう。特に銃撃戦という機敏な動作が求められる場面では、鈍重な動作は爽快感が無くイライラが募るばかりなのだ。プレイヤーキャラクターを抜きにすれば、Euphoriaは銃撃戦時でも敵が撃たれた時の仕草でその威力を発揮しているので、必要なのは使い分けだろう。

もう一つの問題はよりメインクエスト全般に関わる事である。これまでのシリーズと比較して本作のメインクエストは全体的に難易度が下がり、また物語重視の観点から従来よりもリニアでスクリプトを活用した内容になっている。その為従来のシリーズにあった問題解決の方法を自分で創造する楽しみは完全になくなり、指示された方法通りにクリアするだけのものになった。ただこれ自体は物語を楽しむためのお膳立てと捉えれば合理的な事であり、さして問題ではない。寧ろ不味いのは時として演出を重視する余り、仮想体験として明らかに不自然な現象が起きる事がある点だ。

一つ例に挙げるとカーチェイスを繰り広げるクエストの場合、こちらがどんなに速い車を使って超絶テクで運転しても、決して相手との距離は詰められない。またこちらがどんなに発砲しても相手の車を傷つける事は出来ず、タイヤを上手く撃ち抜きパンクさせても、相手は平然と走り続けるだろう。これは作り手が"ここは何が何でもカーチェイスする場面"と決め込んでいるからだ。

これではミイラ取りがミイラになってしまった様なものではないか。ゲーム的な嘘を無くして仮想体験性を高めようとしたら、結局ゲーム的な嘘をつく事になってしまった。折角の没入感も吹っ飛んでしまうというものだ。但し嘘自体は必ずしも悪い事ではないし、銃撃戦の様に時には積極的につく事も重要なのは忘れてはならない。肝心なのはプレイヤーがリアリティを感じられるかどうかであって、それは計算上のリアルとイコールではないのである。

この仮想体験性とゲーム的快感のバランス取りは本作が苦慮した点だろうし、明確な答は出せていない。かつてこのシリーズは『Grand Theft Auto III』から『Grand Theft Auto: San Andreas』に至る間で、ゲーム的な土台の上に仮想体験性を付け足していったが、これからは逆に仮想体験的な土台の上にゲーム性を付け足していく作業が必要なのかもしれない。

磁石の様にガチョンと吸い付く必要はないが、もう少しキビキビ動いて欲しい。

■まとめ

今世代のゲームを代表する名作。作品が目指した方向性、それを実現する為のメカニズム、ゲーム外のコンテンツをも取り入れようとする姿勢。それらの全てが最先端で、且つ他を寄せ付けない圧倒的な完成度を誇っている。かつての『Grand Theft Auto III』同様、本作も今後のオープンワールドゲームの基準になるだろうし、事実既に本作の影響を強く感じさせる作品は幾つか出てきている。

もし『Grand Theft Auto』シリーズをやった事が無い人ならば、極端に洋ゲーが嫌いでもない限り本作を見逃す手はない。寧ろ気をつけるべきなのは従来の『Grand Theft Auto』シリーズのファンだ。一見見た目は似ていても目指している方向性が違うので、従来の様な面白さはあまり求めず、新生『Grand Theft Auto』として割り切った方が素直に楽しめるはずだ。

一応コンソールはカプコン、PCはサイバーフロントからそれぞれ日本語字幕版が出ているが、PC版に関しては現在はパッチによって英語版も日本語字幕が表示されるようになっている。PC版はグラフィックスは一番綺麗だし、ビデオエディタといった独自の追加要素もあるのでお薦めだが、しかし要求スペックがバカ高いのでその点は注意が必要だ。

また本作の外伝的位置づけとして『Grand Theft Auto: Liberty City Stories』という作品も発売されている。これはコンソール版で先行リリースされていた『Grand Theft Auto: The Lost and Damned』と『Grand Theft Auto: The Ballad of Gay Tony』の二つのDLCを一つにまとめてパッケージ化したものだ。こちらはコンソールでは日本語版が出ているが、PCは英語版のみでパッチによる日本語字幕も無い。この辺はかなりややこしい事になっているので、購入前にちゃんと調べておいた方がいいだろう。



参考リンク


Grand Theft Auto IV 公式サイト
Grand Theft Auto IV コンソール日本語版公式サイト
Grand Theft Auto IV PC日本語版公式サイト
Grand Theft Auto IV コンソール版Wiki
Grand Theft Auto IV PC版Wiki
Game Life - Grand Theft Auto IV レビュー
4Gamer.net - Grand Theft Auto IV ファーストインプレッション
4Gamer.net - Grand Theft Auto IV レビュー
GAME Watch - Grand Theft Auto IV レビュー
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 2010/10/24
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