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THE iDOLM@STER
開発/販売: バンダイナムコゲームス - 2007
プラットフォーム: Xbox 360



■ツンデレならぬデレツンなゲーム!?

自分が海外ゲーム目当てでXbox360を買ったとき、折角だから国内のゲームもと思って初めて手を出したのがこの作品。国内ではニコニコ動画などで大変な盛り上がりを見せているが、それを傍から見ていた印象はアイドルを育てて歌って踊らせるギャルゲーなんだろうというものだった。

そんな軽い調子で実際にゲームをプレイしてみたとき、その余りの高難易度に思わずずっこけた。ムズイ。とにかくムズイ。一昔前の洋ゲーもかくやと言わんばかりの難しさ。今でもその点は驚き続けているが、しかしやり始めのあの時、まさか僕がライブの映像を撮る為にキャプチャカードを買い、そしてわざわざここにレビューを書き記すまでにのめり込むとは夢にも思わなかったであろう。

そう、これはツンデレならぬデレツンなゲーム。見た目可愛くて中身は硬派。それこそが魅力の、『THE iDOLM@STER』だ。

こんな可愛い顔して・・・ 油断大敵ですよ!

■困難なプロデュース業を再現したシビアなゲームバランス

『THE iDOLM@STER』ではプレイヤーは新人プロデューサーとなり、選んだアイドル候補生をレッスンしたりオーディションに受けさせるなどして育ててていき、最終的にトップアイドルへ育て上げるのが目標だ。

先に結論付けると、本作のゲームプレイ、行為そのものは殆ど面白いようなものではない。このゲームにおける各シークエンスは、それぞれ独自のルールを持ったミニゲームで構成されている。それらは音ゲーの要素が入っていたりルーレットの要素が入っていたりと様々だが、ごく一部のものを除いて面白みがまるでなく、作業プレイ感が強い。それでは本作の面白さを司る要素は一体何なのか。答えは一連の行為によって動かす数値、パラメータそのものである。

本作をやって何よりも驚かせられるのは、プレイヤーが管理しなければならないパラメータのその種類と量だ。それらは例えばアイドルの能力値であったり、もしくは流行とそれに合わせた楽曲や衣装のコーディネートなど多岐に渡り、またそれらはお互い複雑に連動し、しかもプレイヤーにはその多くを明示しないままに全てのコントロールを求めてくるのだ。

当然無計画なプレイ方法は即ゲームオーバーを意味する。プレイヤーは膨大なパラメータを前にして、前途不明瞭且つ限られた時間の中をやりくりする計画性と、予想外のアクシデントに対応していく柔軟性が求められる。このパラメータとのにらめっこと駆け引きが本作の面白さの全てと言って良い。

その様子はある意味現実のプロデューサーそのものだ。担当アイドルを教育したり機嫌を取ったり、或いは流行に気を遣った衣装や楽曲のコーディネート、期日までに達成しなければならない目標等々、現実のプロデューサーがするであろう様々な行為や味わうであろう様々な思いを、パラメータとの格闘によって見事に疑似体験させてくれるのが本作なのである。

何をするにも数値数値数値・・・ 飽くなきパラメータとの格闘

■繰り返してわかるスルメの味わい

ゲームが如何にシビアであるかは前項で触れたが、本作はその分1ゲームが短いのも特徴だ。その為次のプレイで前回の経験則や反省を即座に反映できるようになっており、次第にゲームの流れをコントロールできるようになってくると俄然面白くなってくる。出来ることや出来ない事がはっきりしてきて、それを応用して変化をつけたプレイをしたくなってくるだろう。それに対してゲームはしっかりと反応してくれる、そんな呼吸感がとても楽しい。Wiki等を見て各パラメータがどのように連動しているのか研究してみるのも良いかもしれない。

兎に角プレイヤーが徹底したパラメータ管理をすればするほど報われるゲームであり、また一見ガチガチのようでいて最終目標さえ達成できればその過程は全て自由という柔軟性が、本作を奥深いものにしているのだ。

■運頼みは諸刃の刃

以上までは良い所を書き綴ってみたが、当然問題点も少なくない。私感によると、それらの殆どは「運」という要素に集約される。本作はセオリー通りの展開を防止する為に、ゲームの様々な場面に運が絡んだ不確定要素を取り入れている。

例えば週始めに担当アイドルと朝の挨拶をするシーン。ここでは毎回ギャルゲー風味に三つの選択肢が表示され、それぞれグッド、ノーマル、バッド判定といった具合でアイドルのテンション値が変動する要因となる。ただしどの選択肢がどの判定になるかは完全なランダムで、前回グッドだったものが次も同じくそうなる必然性は全く無い。つまりこの朝の挨拶は上手く転ぶも悪く転ぶも、運に任せるしかないのである。

本作はそういった場面が数多く存在しており、一つ一つは些細なものでもそれが蓄積されると次第に大きなストレスとなる。特にプレイヤーの学習に重きが置かれている作品において、それを運だけで片付けてしまう事は努力を無に返すのに等しい行為であり、その運用方法には大きな疑問を感じる。

但し全部が全部悪いわけではなく、それが上手く働いている点がある事にも注目しなければならない。本作のシークエンスにはオーディションというものがあり、ここではファン獲得を巡って限られた合格枠の中、ライバルアイドル達と鎬を削る事になる。

ここでは今まで育てたアイドルの能力値に加えてプレイヤー自身の実操作が求められる。この際敵の能力値は如何ほどなのか、またその上でどういった攻め方をしてくるのか、審査員の反応はといった様々な要素をを考慮しなければならないのだが、これらは選択したオーディションによって大まかな傾向は決まるものの、細かい部分においてはランダム性が伴ってくる。

このランダムに変動する現場の空気を読んで攻防する緊張感が本当に素晴らしい。数値的には明らかに劣勢な時でも現場対応を完璧にこなせれば逆転し得るし、逆に優勢だと高を括っていると思わぬ展開で押し負けてしまう事もある。また時には勝つと能力値にボーナスが得られたり、逆に負けるとペナルティを受けることもあり、そんな後に引けない状況の中で押すか引くかのせめぎあいが最高に熱いのだ。

ここでは運と実力の絡み合いが絶妙なさじ加減で調整されており、それぞれの要素が相乗効果を上げた好例だ。それを考えるに運の要素は使いようという事なのだろう。安易な扱いをせずに、他の場面でも駆け引きが生じるものにするべきだった。

オーディションは計画性と柔軟性のせめぎ合いという、本作の面白さが凝縮されている。

■ミニゲームは糞

オーディションはとても高い完成度だったが、他のミニゲームはまるで駄目だ。初めの方に書いたとおり、本作は各シークエンスごとに独自のルールのミニゲームが盛り込まれているのだが、その多くは各分野別のレッスンになる。

レッスンはヴォーカルやダンスなど、アイドルの基礎ステータスに合わせて計五種類あり、それぞれを行う事でアイドルの能力を強化していく事が出来る。またそれぞれは音ゲーやルーレットの要素が盛り込まれているのも前に言った通りだが、これがやたらと難易度が高いだけでちっとも面白くない。

感覚としてはRPGでレベル上げの為に、同じダンジョンを何度も何度も反復しているような、あの流れ作業的プレイそのものだ。基本的にやる事と言えばタイミング良くボタンを押す、示された手順を暗記するなどの単純行為ばかりであり、頭使わないくせに判定だけやたらとシビアでイラつかせられる事請け合いだ。

レッスンのかったるさを再現したつもりなのか!?

■髪が、スカートが、おっぱいが揺れる!末端のディテールに拘ったライブシーン

ここまで後回しになってしまったが、『THE iDOLM@STER』と言えばやはりライブシーンを外して語ることは有得ないだろう。本作におけるライブシーンは、オーディションに見事合格した際の"ご褒美"として位置づけられているように思う。

寧ろライブに限らずアイドルの女の子というキャラクターは、高難易度なゲームを進めていく上での動機付けとして作用していると言えるだろう。熾烈な戦いの後の育て子の歌声やダンスは、ひと時の安らぎを与えてくれる。そしてまた見たいという欲求が、次のオーディションに挑む新たな動機となるのだ。どうしても数字の良し悪しで展開されがちな本作において、このキャラクターやライブシーンの存在は、美しいコントラストを描いてお互いをより魅力的なものに感じさせてくれる存在なのだ。

また洋ゲーマーという立場から、キャラクターの末端のディテールへの拘りにも注目せずにはいられない。本作のキャラクターは髪やスカート、果てはおっぱいに至るまで様々な部位が物理演算処理を施されており、キャラクターの動きに合わせて自然にアニメーションされる。つまり髪がたなびき、スカートがめくれ、おっぱいが揺れるという事だ。これは実は凄い事なのだ。

どのように凄いかは海外のゲームを見てみれば良い。どれもこんなアニメーションなどしないはず。最近では『Assassin's Creed』や『Prince of Persia』辺りは凄い事になっているが、あれらは全て打ち込みのアニメーションなのに対してこちらは物理演算によるリアルタイム処理というのがポイントだ。ましてや他の大半は髪ならショートカットにしたり、衣装なら飾りのないものにするといった、動かす必要のない方向性にして対処してしまうのが現状なのである。

そういうものを見てきた中で、『THE iDOLM@STER』の拘りには特別なものを感じた。とりわけ全体の一部としてのアニメーションというよりも、髪!スカート!胸!という具合に局部への集中的なフォーカスの合わせっぷりをみるに、何処か偏執的なフェティシズムを感じずにはいられない。しかもそれが物理演算という今時の技術を以って実現されているという所が凄いのだ。

物理演算という今の技術を使っているという点がミソ。

■パッケージゲームDLCの雄とは言うけれど

本作を語る上で欠かせないもう一つの要素と言えばDLC(ダウンロードコンテンツ)だろう。パッケージゲームのDLCとして最も成功した例に数えられる『THE iDOLM@STER』は、Xbox360のマーケットプレイスの他インゲーム中の専用メニューにおいて、衣装やアクセサリー、独立した短編ドラマ等などを購入することが出来る。

この要素において指摘しなければならないのはやはりその価格設定だ。2008年8月に行われた価格改定の前ではオリジナル衣装一着が1000マイクロソフトポイント、日本円に換算しておよそ1480円という値段になる。比較的金額の良し悪しに縛られないオタク層向けの設定なのだろうが、同じXbox360のDLCであるライブアーケードで、その衣装以下の値段でまるまるゲーム一本買えてしまう状況を見ると、どうしても理不尽にしか思えない。

また購入したとしても本編と同様衣装やアクセサリーにはパラメータの概念がついてまわるので、見た目の特別さを売りにしているにも関わらず、実際にはその性能値によって使用を制限されてしまうのも問題だ。加えて購入すると本編でアイドルからメールをもらえるというメールアドレスは、それが直接パラメータ補正に関わってくるなど本編のゲームを有利に進められる代物でこれも問題。

本編はあくまでもそれ単体で満足に遊べるものであるべきで、DLCは見た目の変化ならまだしも本編のゲーム性に直接関わってくるべきものではない。そうでなければ、開発者はDLC有りと無し、一体どちらで遊ぶのが理想的と考えているのかが分らなくなるからだ。今回で言えばもしメールを全て購入した状態で遊ぶのが理想なら、その分の金額をソフトの価格に上乗せしてでも、購入した者が皆その時点で理想の状態で遊べるようにするべきである。

短編ドラマの方は本編とは完全に独立しているので、何の気兼ねも無しに楽しめるのは良いが、元々シミュレーターとしての面白さで成り立っている本作において、そこから会話パートだけを切り出してきても特別面白いわけでもないので、過度な期待は禁物である。

総じてDLCに関しては僕は良いイメージを持っていない。あれらを買う金で新しいゲームを買ったほうが、金額とそれで得られる対価の割が合っていると考えるのだ。

尚現在は先ほど言った通り価格改定によってほぼ半額に近い価格になっており、幾らかお求め易くなっている。

価格改定でスクール水着が一着約900円也。買いと思うかどうかはあなた次第・・・

■まとめ

小さからぬ問題点があるとはいえ、硬派なゲームデザインとそれを支えるバランス感覚が見事な作品である。その見た目のイメージとのギャップから万人受けするとは言い難いが、そのギャルゲー的な風貌を許容できるのであれば、やり応えのあるゲームを求めている人にはお薦めできる作品だ。逆にまさしくギャルゲーを求めている人は、間違いなく痛い目に遭うのでお薦めできない。



参考リンク

THE iDOLM@STER公式サイト
THE IDOLM@STER 360@wiki
GAME Watch - 特別インタビュー Xbox 360「アイドルマスター」
ITmedia +D Games:“進化”した「アイドルマスター」の魅力を、プロデューサーに聞いてみました
4Gamer.net - 極私的コンシューマゲームセレクション:第7回「アイドルマスター」
4Gamer.net - [Gamefest 08#02]ダウンロードコンテンツで儲けるには? アイマス開発者が語るダウンロード販売成功の秘訣

2008/12/02
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