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2011/02/15- Made in Heaven

Made in Heaven

by NaBaBa 2011-02-05 08:57 on pixiv


Hecatoncheir 3に参加してきました。前回に引き続き、二回目の参加です。作品投稿の他、当日はUST配信でゲスト出演し、参加者の作品の講評や、企画への意見を述べさせて頂きました。率直に言って、今回僕は前回以上に傍若無人の限りを尽くし、企画主のNEMO*BRANDさんやchimpamzeeさんからは行儀を知らないクソ野郎と思われても仕方がない事をしました。

その点を含めて、ここでは今回の企画を企画参加の趣旨とコンセプト作品の技術の原理二重画像の作り方Hecatoncheir 3についての4項に分けて振り返って行きたいと思います。

尚今回僕が投稿した『Made in Heaven』という作品はpixivという環境上で見ることに最適化して作られています。一応アカウントが無い人向けにpixiv上の画像をそのまま貼り付けましたが、アカウントを持っている人はpixiv上でご覧になることをお勧めします。

■企画参加の趣旨とコンセプト

今回出された"裏"という出題に対して僕が行った挑戦は、単にテーマに沿った内容を絵に起こすのではなく、作品の存在や、また企画に対する僕の姿勢や実際の行いを通じて、多義的且つ大局的且つコンセプチュアルにテーマを表現するというものでした。何故この様な目標設定をしたのかは4項目で触れますが、その実現の為に僕が自身の行為に課した一貫したテーマ、"裏"という元のテーマの解釈が"ハック"というものです。

例えば今回の僕の『Made in Heaven』という作品は、簡単に言えば原寸と縮小されたサムネイルで全く見え方が変わるトリックアートとでも言うべきもの。昔画像を全選択して青ラインを引くと、見た目が変わるトリックがあったのはご存知でしょうか。僕が実際に用いたのはこれよりも更に高度な技術ですが、要するにそういう特殊技術を用いて相手の意表をつく、裏切るという意味でのハックを実践してみせる。これがまず一つの目標でした。

但しこのトリックは、2000年代前半のアングラ時代に流行した技術であり、SNS全盛の時代になってからはサービス側がこの様な技術を閉め出してしまったため、自然と廃れていったものです。pixivも例外ではなく、通常の方法ではこの技術は使えない様になっていました。しかし今回はコンセプトを達成する為に、何とかこのセキュリティを掻い潜る必要があった。そんなpixivのセキュリティホールを見つけ、通常使えない技術を再現するという、正しく本当の意味でのハックの実践。これがもう一つ。

更にこうしたハック技術を用いた作品で、何とかしてpixivのランキング上位を奪取する。そうする事でpixivのシステムのみならず、価値観をも裏切り、裏をかく。そういう意味でのハック。

そして最後に上記の全てを達成し誰も文句を言えない実績を作る事で、Hecatoncheirという企画自体をハックする。乗っ取ってしまう。話題を総取りする事は勿論、企画趣旨をも捻じ曲げてしまう。今回は公式にUST配信のゲストに招かれていたので、それをも用いて徹底的に、露骨に乗っ取る。そういう意味でのハック。

こうした四本柱のハックを用いて、あらゆる意味で裏を体現してみせる。それこそが今回のテーマに対する最大限のリアクションだと捉え、そこに到達することを目標に制作その他準備を行いました。そしてそれは奇跡的に上手く行ったと言えます。翌日のpixivのデイリーランキング5位、翌々日は4位。現時点で閲覧数108238に点数は33975、ブックマークは3320と、トップランカーやランキングに入りやすいジャンルにとっては大した数字ではありませんが、この手の作品としては快挙であります。2008年1月からずっと試みてきたpixivの価値観へのハックが、やっとここで達成されたのかと思うと、実に感慨深い。まぁ1位を取れなかったのが心残りではありますが。

■作品の技術の原理

『Made in Heaven』の技術的な解説に移りましょう。この技法の原理の説明から始める為長くなります。そういうのが面倒くさくて作り方だけさっさと知りたいという人はこの項は飛ばしてください。

多くの人がこの技術に驚いている様ですが、5年以上前の画像掲示板全盛期のネット文化を体験してきた人にとっては、寧ろあまりに有り触れたもの過ぎて、だからこそ月日の流れと共に自然と忘却していったものかもしれません。

この技術は双葉ちゃんねるで流行した通称プーチンと呼ばれるものです。僕自身も存在は知っていましたが使った事はなかったので、まずはこのロストテクノロジーを発掘する所から始めました。と言っても二次裏にスレッドを立てたら一発で出てきたので、全盛期は去ったとは言え画像掲示板のライブラリー力は依然として凄まじいものがあると痛感しました。

この技術の原理は前項で少し触れた全選択で反転する画像と同じで、画像のX軸Y軸両方の偶数ドットと奇数ドットに、それぞれ別の画像を挿入しています。しかしそれだけでは不十分です。


上の画像は何の細工も無しに、ただ単に偶数と奇数に別々の画像を当て嵌めてみた例です。見て分かる通り、単に画像がレイヤーの様に重なって見えるだけで、拡大縮小をしても見え方が変わるわけではありません。

先の全選択で画像が変わるトリックは、昔のブラウザは選択時に出る青いラベルが、1ドットずつ隙間が空いた不透明の青ドットの集合体だったのを利用したものです。二つの画像の色調を上手く合わせて奇数のドットの部分だけが見える様にし、全選択して奇数が埋まると、溶け込んでいた偶数の画像が見えるという具合。但し最近のブラウザは青の網目ドットから、50%透明の青の面に変わってしまった為、この技法は再現する事が出来なくなってしまいました。

それに対して今回僕が使ったプーチン技法は、PNG画像ファイルの埋め込み機能を利用したものです。PNGは元の画像の他に付加情報を加える事が出来、例えば昔はそれを利用し音楽を挿入するという遊びもありました。ゲームのタイトル画面のPNGをWin AMPで開くと、そのタイトル画面のBGMが流れ出すとかいった感じ。

PNGは音楽の他に、同じ原理で画像を表示する際のガンマ値を指定する事も出来ます。画像そのものの明るさや色情報は保持しつつ、そこに新たにガンマ値を調整するレイヤーを重ねられるのです。


例えば上の画像はガンマ調整無しの状態で、それの一部を200%に拡大したものです。pixivのサムネイルでは50%相当に縮小されている為消えていましたが、こうして拡大すると白いドットが網目状に張り巡らされているのが分かります。そしてこのドットは一見真っ白に見えますが、実は別の画像が極めて薄く、白色に近い状態で乗っているのです。これをPNGの機能を使ってガンマ値を限界ギリギリまで下げると、


こうなるのです。今まで見えていた部分は黒く塗りつぶされ、逆に白かった部分の色が強調され、別の画像が浮かび上がってくる。どう?凄いでしょ?しかし察しが良い人は分かるかもしれませんが、まだこれだけではこのトリックを完成させるには不十分です。

このトリックが生み出された画像掲示板のシステムを思い返してみましょう。例えば双葉ちゃんねるを例に挙げると、あそこではサイズ制限に引っ掛からなければ、基本的に画像をオリジナルのままアップロードする事が出来ました。そしてその上で、サムネイル画像を元のファイルの形式を問わず、一律してJPGで生成する。このサムネイルのJPG化がミソなのです。

サムネイルがJPG化される事によってPNGが保有していた付加情報は全て破棄される為、見た目はガンマ補正が掛かっていない状態の画像になる。上の二枚のサンプルで言えば、白い方ですね。そしてサムネイルをクリックした時に表示されるオリジナルの画像は、当然PNGで付加情報を保持している為、ガンマ補正が掛かった黒い方の絵になる。このPNGの特性と画像掲示板の仕様を上手く利用したのが、プーチン技法のからくりなのです。

この技法が2000年代中期以降で廃れたのも、アップロード環境の仕様に依存する性質の為です。2004年にmixiが登場して以来、日本のネットコミュニティの主軸は従来の2ちゃんねるを中心とした匿名掲示板からSNSへと移行しました。しかしmixiを利用されている方ならご存知の通り、この手のサービスは画像のアップロードに様々な制限があります。JPG形式でないといけないとか、どの様なファイルでもサービス側からの何らかの変換処理が加わってしまうだとか。

このプーチン技法をpixivで実現する時にも、同様の課題に阻まれました。といってもpixivの場合、mixiの様にやたらと画像に手を加えられてしまうのではなく、逆に全く手を加えられないのが問題でした。pixivではオリジナルの画像の他に、縮小版が二種類生成されます。しかしオリジナルは当然ながら、縮小された二種類のサムネイル画像も、何とオリジナルのPNGの付加情報を保持し続けるのです。その為通常のイラスト投稿ではオリジナル以外はどれも黒く潰れた様な画像になってしまいました。

この時気づいたのが漫画を投稿する時の仕様です。漫画として投稿された画像は、このページの一番上の画像の様に、サムネイルが通常のイラストとは違う、数枚の紙が重なっている様な見た目に変換されます。これは元のPNGを単に縮小するだけではなく、明らかに新たな画像データを生成している。

それを見抜いて改めて漫画として投稿したら、出来ました。まぁハックと言うには大げさすぎる単純な事なのですが、しかし仮にpixivが昔の仕様のままで漫画投稿機能を付けていなかったら、他のSNSと同様ついぞこのプーチン技法を再現する事は出来なかったでしょう。その意味では仕様追加によって発生したセキュリティホールを突くという、ハッキングの王道中の王道を行く方法によって、このロストテクノロジーを復活させる事が出来たと言えるわけです。

■二重画像の作り方

技法の原理を解説しきった所で、いよいよ実際の作り方の説明に入りましょう。双葉ちゃんねるで出回っているプーチン技法のマニュアルを基本にしつつ、若干のアレンジを加えたものになります。使用ソフトはPhotoshopを前提に書き進めます。

1.組み合わせる画像の用意


まずは組み合わせる2枚の画像を用意します。画像の解像度は2枚とも同一である事は必須。また技法の仕様により、完成後は表側の画像は透明白が50%、裏側の画像は透明黒が50%乗った様な色味になります。それを考慮して表に使う画像は全体的に明るく、逆に裏に使う画像は全体的に暗く作っておくと、完成後の違和感が少なくなります。

2.画像の解像度をアップロード先の仕様に合わせる

アップロード先のサービスのサムネイル画像の解像度を調べ、2枚の画像の解像度をその倍数に調整します。今回はpixivのキャプション画面で表の画像が綺麗に見えることを最優先して作りました。キャプション画面の画像表示サイズの上限はX,Y共に600 pixel。その為2枚の画像は長辺を600の2倍の1200 pixelに調整しました。

3.裏の画像の明るさとコントラストを若干上げ、更にその状態から明度を+96%上げる


裏の画像は完成後は透明黒が50%乗った様な色味になるため、そのままだと見え辛くなる恐れがあります。その為この時点で明るさとコントラストを調整し、完成後に見え易い様にします。これは決まった数値は無いので、完成後の画面と照らし合わせながら何度も調整するのが理想的。

調整が済んだらその上から更に明度を+96%上げて、ほぼ真っ白に近い状態にします。

4.表の画像を裏の画像の上位レイヤーにする

そのまんまです。3で調整した裏の画像の上位レイヤーに表の画像を貼り付けます。

5.2x2の1ドットが黒、それ以外が白のパターンファイルを作成する


上の画像は3200倍に拡大したものですが、これと同じ様な感じで2x2の1ドットのみ黒でそれ以外が白の画像を作り、これをパターンファイルに定義します。これが表の画像と裏の画像を分ける、網目のベースとなります。

6.表の画像のレイヤーマスクを5のパターンファイルで塗りつぶす


そのまんまです。ここまで順調に進んでいれば。塗りつぶした段階で画面は透明白が50%乗っかった様な見た目になるはずです。

7.50%縮小表示した状態で、表の画像の色味をレベル補正等を使ってオリジナルに近づける。


画像を50%に縮小表示した上で、その状態の見た目をレベル補正等の色調補正ツールを使ってオリジナルに近づけていきます。

8.表の画像をレベル補正の出力レベルのホワイト部分を12程度下げる

これはやるかやらないかは任意ですが、どうしても黒が弱くて画面の白っぽさが抜けないという場合は、白の出力を下げる事で画面を引き締める事が出来ます。

これでPhotoshopでの作業は完了。"Web用に保存"からPNGで出力します。

9.TweakPNGをダウンロードする

http://entropymine.com/jason/tweakpng/

上記のサイトからTweakPNGをダウンロードします。これはPNGの内部付加情報を弄る事が出来るソフトで、これを用いてガンマ値を改変します。

10.TweakPNGでPNGファイルを開き、file gammaの欄を0.01に設定する


先程生成したPNGファイルをTweakPNGで開きます。開くと色々なステータスが表示されますが、その内Contentsの欄にあるfile gammaをダブルクリック、数値が0.45455とかになっていると思いますが、それを0.01に設定し上書き保存します。

完成!

これでデータは完成。後はpixivで漫画として投稿するだけ。ここまでの手順を間違えていなければ、無事サムネイルとオリジナルで、画像の見え方が変わるはずです。是非試してみて下さい。

Hecatoncheir 3について

第一項で書いた通り、今回Hecatoncheir 3企画側から出されたお題は"裏"、それに対する僕の解釈は"ハック"でした。ハックの実践は絵の構造からpixivのシステム、同じくpixivの価値観、更にはHecatoncheir 3という企画そのものに対しても及びました。しかも露骨に徹底的に。特に最後のHecatoncheir 3への仕打ちが重要です。

僕が今回Hecatoncheir 3にやった仕打ちというのは、端的に言えば企画の独占です。一参加者としてHecatoncheirを立てるのではなく、寧ろHecatoncheirを利用して自分だけが良い思いをしようとしました。作品は勿論そうだし、当日のUST配信もゲストの分際にも関わらず、勝手に一人作品講評会を始めて、それまでの温和な空気をぶち壊し、参加者達にスポ根を押し付けたのです。

Hecatoncheirという企画はそういう方向性のものではないという事は僕も理解しています。前回のイベントの時に書いた文にもある通り、Hecatoncheirの根幹は一貫してモラトリアムなパーティーであって、野心の実現とか、競争主義とか、そういうガツガツした姿勢とは真逆のスタンスだと僕は判断している。またそれが悪いわけではなく、それを貫き続ける事で新たな価値が生まれるかもしれないという期待も、前回と同様にある。

こういう認識があった為、当初はあまり波風立てない方向で参加しようかと考えていたんですが、ただ一つだけどうしても気に食わないところがあって、それ故に最終的にこういう仕打ちにせざるを得なかった。その気に食わなかった事とは、Hecatoncheirの特設HPに載っている企画のコンセプト文が、僕が前回のイベントに対して書いた文の一部からの丸々の引用になってしまっている事なんです。

"Pixivの創作絵描き向けのイベント。参加者全員が共通のお題の下、決められた日に一斉に作品アップロードしようという企画。Pixiv内で創作絵描きは冷遇されている立場にありあますが、そんな彼等をHecatoncheirという共通の名詞を持った集団として打ち出す事で、創作絵描きという存在の認知度を上げ、立場向上を図っていこうというものです。"

ページの下の方にさりげなく載っているだけなので見落としてしまっている方もいたかもしれませんが、この文は完全に僕の記事の冒頭部からの引用です。ここで槍玉に挙げているのは、何も勝手にパクりやがったなと言いたいわけではありません。事前にNEMO*BRANDさんから文の一部を引用させてもらうと打診があって許可したし(ただし何処を引用するかは聞かなかった)、仮にそれがなかったとしてもパクってどうのこうのという理由で攻め立てる事はありません。

僕が言いたいのは、そこは企画にとって一番大事なコンセプトの部分なんだから、引用を使わずに自分の言葉で説明しろよって事です。コンセプト文の引用は非常に危ない。何故ならコピーした側では認識できていない、文に含まれている意味までまるまるコピーしてしまう場合があるから。そしてそれを元に足元をすくわれかねないからです。

例えば今回引用された文の中には、Hecatoncheirは若手の創作絵描きをリードしていく立場なのだから、当然リーダーシップを発揮して彼らの立場向上を図ろう!という使命感を発揮してくれるに違いない!みたいな個人的な願望が込められていたわけですよ。そういう文を引用してきたのだら、実際の企画運営でそれを実践していくのは当然のはずなのに具体的にそれっぽい行動をしている様には見えない、というのは引用してきたコンセプトと違うじゃん、おかしくね?みたいな指摘が出来ちゃうわけですよ。

言いがかりだと思うかもしれませんが、あの文のソースコードを持っているのは僕であって、見た目はそのままに趣旨の改変は幾らでもできるし、それに何も文句言えないんですよ。丸コピだと。

だから引用されたあの文や、更には僕のHecatoncheirへの意見は、全てトロイの木馬みたいなものなんです。一見好意的なアドバイスに見えて、それを安易に信じて取り入れてしまうと、そこをセキュリティーホールにしてより深刻なジャックをされてしまう。世の中にはそういう悪意が沢山ある。Hecatoncheirは見事に嵌ってしまったから、その危険性を示す為には、ここまで露骨な事をやらないと伝わらないのではないか、と思った末の行動なんです。

大きなお世話、正義の押し付け、全く以ってその通りです。そんなにガツガツしたければ自分で企画立ち上げろって意見も反論できる余地はありません。だからNEMO*BRANDさんはもっと怒っていい。もっと自身の企画の所有権を自覚し、主張するべきです。僕如き存在による乗っ取りを許してはならない。若しくは徹底的に許すか。良いと思ったものは全部公式のものとして取り入れてしまう。但しそうであるならば、取り入れるものは全て精査し、勉強していつか自分自身で手綱が握れるようになる努力をしなければいけない。しかし丸コピというのは、相手に侵略を許しつつ、その侵略過程を勉強し自分のスキルに還元する事も出来ない、全く得が無いスタンスです。それをやっちゃ駄目。

それを言いたかった。その言及に説得力を持たせるための大掛かりな仕掛けだったのです、全ては。そしてそれを達成した今、もうこれ以上Hecatoncheirに対して自分からは言及しません。元より切られるの覚悟でやったので、ここから先あれこれ言うのは無粋というものでしょう。後はもう煮るなり焼くなり何とでもしてください。その先のHecatoncheirのあらゆる可能性に期待しています。これからも頑張って下さい。

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