Top Diary Review Text Gallery Link

2010/07/05- pixiv語り


6月29日に開催された、pixiv Nightに行って来ました。「pixiv開発チームとユーザーとのリアルな対話」をテーマとした初のライブイベント、更にJNTHEDさんや梅ラボさんがゲストとして参加されるという事で、pixivとユーザーとの関係性に変化が起きるような何かが見れるかもしれない、或いはもっと漠然に何か面白いんじゃないかと思って参加したのです。そう思ったのは僕だけではなかった様で、当日会場には多くの絵描きさんが集まり、pixivに対する事も含めて様々な話が飛び交いました。

pixiv Nightに対する意見は、やれ期待はずれだったとか、やれ悪い意味で今まで通りのpixivのイベントだったとか、かなり批判的な声が多く聞こえてきました。絵描きと言っても色々なタイプの方が居り一概には言えませんが、少なくとも今回登場されたJNTHEDさんや梅ラボさんに代表されるタイプの、所謂創作絵描きと呼ばれる人々はpixivに対して必ずしも良いイメージで捉えてはいない。僕自身もその内の一人であり、翌日には虎硬さんのUSTチャンネルで彼と川洋さんと僕とで、pixiv Nightについて色々とトークもしました。

その時の内容は虎硬さんのブログにまとめられているので詳しくはそちらを見て頂くとして、ここではUSTで話した事話さなかった事も含めて、僕がpixiv Nightで感じた事、この間開催されたpixiv Festa Vol.3や季刊誌Quarterly pixiv等も射程に入れつつ、近頃のpixivについて書いていきたいと思います。

■当日の流れ

当日の流れを軽く説明しておくと、イベントは大きく別けて前半の片桐社長とディレクター兼プログラマーのysp氏によるpixivデザインリニューアルのプレゼン、後半のJNTHEDさんと梅ラボさんによるライブペイントの二部構成。前半のリニューアルプレゼンはサーバー強化による高速化、スタックフィード機能の導入、各種ニュースサイトとの提携によるニュースの配信、ページレイアウトの閲覧性の向上やマイページに壁紙が貼れるなどカスタマイズ性が向上されるというのが主な内容。

この中でも特に売りとして強調されていたのがスタックフィードで、これは名前だけ聞くと何なのか全然分かりませんが、どうやらマイピクやお気に入りユーザーの投稿・ブックマークした作品の情報がリアルタイムで表示されつつ、Twitter的な機能もそれに加味されるらしい。これを既存の機能に言い換えるなら、「このイラストをブックマークしているユーザー」のページの下部に、その作品をブックマークした人が他にブックマークした作品をランダムに表示する欄がありますよね。あれがトップに表示される様なもの。

これによりマイピクやお気に入りユーザーの二者間のみの硬直したコミュニティからその周辺の作品や作家まで捉えられるようになり、作品を観る側としてはより自分好みの作品にめぐり合える可能性が高くなり、投稿する側はビュワー数の拡大に繋がる。そうする事で今の新着やランキングに偏重したpixivの作品鑑賞のスタイルを変化させられるという事らしい。

その後質疑応答の時間が設けられ、全部は憶えていませんが大まかに言うと、タグ別ランキングは復活しないのか、他社のSNS等にpixivの一部機能を提供するつもりはないのか、電子書籍だとかに参入する予定はないのか、pixivフェスタ等のオフラインのイベントをこれからも主催していく予定はあるのか、後は就活絡みの質問が二件程あったかな。他にも幾つかあった気がするけど、目ぼしいのはとりあえずくれくらい。

そしてそれぞれに対するpixiv側の回答は、タグ別ランキングはやりたいけど今は予定は無い、他社へのpixiv機能の提供はするつもりはない、オフラインのイベントはお絵かき入門的ワークショップを秋にやる予定がある、就活関連はpixivが好きで目指しているものが一致するのであればどんな人でもウェルカムという具合でした。

後半のJNTHEDさんと梅ラボさんのライブペインティングは、当日お二人が机を並べてトークしつつ、作業データを時折お互い同期しながら、PC上で制作を進めていくというもの。その様子は会場のスクリーンに映し出され、さながらオフラインUSTといった感じでした。制作自体は当初の1時間という枠では完成に至らず、追加で30分延長されても出来上がらず、今度発売される季刊誌Quarterly pixiv Vol.2に完成品が掲載されると発表されてイベントは全プログラム終了。


■お粗末なpixiv Night

さてざっと説明した所で、改めて当日の感想について書くとすればグダグダだったという一言に尽きます。会場整備や進行の仕方からプログラム自体の内容も含めて杜撰というか、お粗末というか、まるで学園祭の様な素人臭さが漂っていました。これはpixiv Festa Vol.1から言われてきた事で、あれから殆ど改善されていない。そういう意味では今まで通りだったとも言えます。

具体的にどこが悪かったのかについては、該当する点が多すぎて何から書いたら良いのか分からないのですが、例えば前半のプレゼンならば、結局何がリニューアルされて何が今までから変わるのかという点が上手く伝わってこなかったのは相当不味い。当日絵描きさん達の中ではスタックフィードはまずまずの評判だったものの、具体的にどういう機能であるかは実は皆良く理解できていなかった。更にそれ以外に至っては殆ど理解できず、当日ウェブプログラムについて専門的知識のある参加者の方に解説して頂いてやっと理解できたという感じでした。

これはプレゼンの仕方が専門的技術の解説になりがちだったのが原因で、スタックフィードもそうだし、コンテンツのゾーニングとかCSSなんちゃらとか(名前忘れた)、知識を持たない一般人の我々にはそれが何なのかサッパリ分からない。我々ユーザーが知りたいのはどういう技術を使っているのかという事ではなく、どれだけページの読み込みが早くなるのか、またはどれだけページが見易くなるのかの二点にほぼ集約されるはず。そこに重点を置いて、専門用語を振りかざすのではなく、あくまでも体感的にどう変わるのか説明した方が遥かに良かったのではないかと思う。

後半のライブペイントも問題大有りで、まずあの状況とあの設備だけで二人に場を持たせろというのがかなりの無茶振り。前項でスクリーンに映された映像で作業工程を追っていくリアルUSTの様だと書きましたが、逆に言えばリアルな現場でのライブだったにも関わらず、UST程度のものしか出せていなかったという事です。しかもUSTはネットのものなので、ながら見をする事も途中で視聴を止めるのも自由自在ですが、リアルな会場だと観客はそこに拘束されてしまう。そうなると面白さや楽しさよりも退屈さの方が勝ってしまうのですね。実際当日はあの場に拘束されつつも、観客の半分はもうライブそっちのけでお喋りしあうオフ会の様な状況になっていた。

普段であればこういう状況の場合、僕はライブを行っていたJNTHEDさんと梅ラボさんのお二人に、クリエイティビティとサービス精神が無いからこんな事になるんじゃー!と言うところ。しかし実はあのライブペイント企画は当初は予定されていなかったらしく、企画内容が二転三転した末に土壇場で埋め合わせ的にあれをやる事が決まったらしい。お二人も事前の打ち合わせもなくぶっつけ本番だったという事で、それじゃあ企画したpixiv側に非があるだろうと思うのです。

またイベントが殆ど絵描き同士のオフ会になってしまうという事も、今回が初めてのイベントならばまだしも、pixiv Festa Vol.1の頃からずっとそうだったのだからいい加減予想がつくはず。だからそこはもう本来意図したものなのかどうかは抜きにして、寧ろ利用してそういうイベント内容に最適化すれば良いじゃないか。例えば今回のライブペイントならば折角フリードリンクなんだから立食パーティーの様にして社交メインの雰囲気を打ち出し、二人のライブペイントはあくまでもBGV的な位置づけにするとか。そうすれば二人の負担も減るし、観客も観賞を無理強いさせられているような気にならないはず。

他にも色々と常識的に考えてそれは無いだろうという事が幾つもあり、pixivはユーザー様の立場に立ってと言うけれど、それと杜撰さやお粗末さを履き違えているのではないでしょうか。

■pixivの構造と現状

ここまでpixiv Nightについて書いてきましたが、もっと拡大してpixivやそれを取り巻く環境について改めて書いていきましょう。今回のイベントは僕を含めた絵描きさん達からはすこぶる不評でしたが、元を正すとこれは今回の一件に限った話ではなく、常日頃のpixivの運営姿勢に対する不満から来ているものなのです。

今更な話だけど、pixivとは公式で掲げている「お絵かき楽しす」なんて嘘っぱちで、本当はランキングの結果だけが物を言う、厳然たる超実力社会であり商業主義的社会。ランキングの上位になる事のみが唯一の評価軸でありpixivの中での成功であり、それ以外はない。だから皆ランキングに上がる為に、意識無意識に関わらず、どの絵柄が受けるのか、何の二次創作が人気なのかとか売れ線ばかりを優先するようになる。

その結果pixivで羽振りを利かせるのは一部の大衆受けする絵柄、流行の版権物、或いは既に一定以上の知名度のある者のみになりました。中には類稀な作品の魅力と政治力で、必ずしも下記の成功の条件に100%依存しなくても立身した者も居る事には居る。しかしそれは本当に両手で数えられるかどうかって位しか居ないし、彼等の成功の条件を上手く歪曲して自分自身の魅力に変換する技は、そうそう真似できる代物ではない。だから結局大多数の人は真似で人気を取れる方向に走ってしまう。そこには多様な価値観に基づいた多様な作風や作品を楽しむ、或いは単純に絵を描く喜びを分かち合うという観点はものの見事に抜け落ちています。

これは言い換えると商業絵描き達が市場で行っている事の縮図です。僕はそこを実際に体験した事は無いから実は分からないけれど、既に只中に居る人達は皆そう言う。そしてその商業主義が絶対な価値ではないと疑い、そこでは表現できない事の活路をネットに見出そうとしたのが、僕がpixiv Nightでお会いした創作絵描き、それもどちらかと言うとモラトリアムな人々。彼等の中にはpixiv登場以前から活動されていた方も多く、その時にはあって今では失われてしまった価値を知っていて、だからこそそれを尊重しようとしないpixivや、今回のpixiv Nightに憤っている。

僕も含めて彼等創作絵描きがpixivに対して求めているのは、一部の売れ線のユーザーだけが美味しい所を持っていくのではなく、多くの人が平等に機会が得られる事。しかしそういう欲求に対してpixivはのらりくらり、碌な対応はしないどころかpixiv Nightの質問でも出たタグ別ランキングだとかいった、既存のランキング制度に取って代わる可能性のある機能は削除する始末。にも関わらず公では未だに「お絵かき楽しす」とか言って和やかムードを演出、その裏の商業主義的構造には頑なに触れようとしない。

でも実はここまで我々は憤っている!と現在形で書いてきたけれど、本当はそれは過去の話。昔は確かに憤っていたけれども今はもうある種の呆れや諦めの方が強く、pixiv Nightに対してもそういう風に見ていたと言った方が正しいと思います。だって負け犬の遠吠えじゃないですか。幾ら過去の価値が云々と言った所で、pixivが作り出したパラダイムシフトに乗っかれなかった以上それは敗者以外の何者でもなく、pixivからすればそんな奴の申し立てを聞くような義理や人情なんて無いわけです。言うだけ惨めなんですよ。

だから創作絵描き達は今ではpixivから距離を置いている。個人のHPだとか同人即売会だとかいった古巣に戻る者も居れば、UST等の新たなサービスに活路を見出そうとしている者も居る。ただそれでもpixivはこと多くの人に見てもらうという点だけは秀でているから、そこそこビュワーを稼げる人は、宣伝用と割り切った上でpixivを利用している。勿論成功した極一部の人は、最早pixivに投稿して成り上がる必要が無いのか、若しくはそもそも投稿する暇もないのか、どちらにせよこれまた宣伝以外でpixivを利用する事は無くなった。

■pixivの目指しているもの

ここまではモラトリアムな創作絵描きの視点で書いてきた為、あたかもpixivは巨悪の様な扱いですが、しかし必ずしも悪い所ばかりではないし、pixivを有り難く思っている人も居るという点は踏まえておかなければいけません。例えば前述した売れ線だとか二次創作が元々好きな方にとっては、この環境は厳しいながらも受け入れられるもののはず。そこでは楽しく競争が出来て、あわよくば自分の好きなゲームやイラストの仕事も得られるかもしれない。実際それがビジネスとして成立するのかどうかは分かりませんが、少なくともそういう夢は抱けるだろうし、pixiv側もそういう夢が実現できるような環境作りを目指している様に思う。

僕は季刊誌Quarterly pixiv Vol.1と、pixiv Festa Vol.3、そしてこれから開催されるP-1GRANDPRIX2010にそれを強く感じた。Quarterly pixivでは読者投稿欄の他に、hukeさんやコザキユースケさんらのインタビュー記事が目を引く。特にhukeさんはpixivから大ブレイクした成功者の象徴の様な方。彼はpixivではもう投稿されていませんが、読者投稿欄が多数のページを占める雑誌で、これまた多数のページを割かれてインタビューが掲載された。これで僕は、pixivはネットにおける季刊エス系の雑誌のポジションを狙っているのではないかと思ったんです。

pixivが登場してから数年が経ち、そこでの成功者という者が出てきた。彼等は大多数と同じ一pixivユーザーと言う身分から離れて、より運営側にコミットした、大多数が目指すべき象徴として我々の前に現われてくる。pixivとはそういう憧れの存在に投稿という手段で近づく場であり、ちょっと上手く行けば彼等がかつて居たランキング上位、或いは彼等が居る雑誌に同席できる。そしてもっと上手く行けば彼等の様に成功者の仲間入りが出来るかもね♪って感じ。そういう成功者にとってはビジネスの場、そうでない者にとっては登竜門的なポジションとしての色が日増しに濃くなってきている。

その傾向はpixiv Festa Vol.3でも見られ、完全な二次創作の方こそ少なかったけれども、よりファンタジーだったりSFだったりファンシーだったり、要するに売れ線な絵柄の方はグッと増えた。その一方でpixivの事を快く思っていない、しかも隙あらばジャックを企てかねないような不穏分子、それこそJNTHEDさんや川洋さんや虎硬さん、そして僕といったモラトリアムな創作絵描き達は軒並み居なくなっていた。何で居なくなったのかは分からない。別に募集の時にそういう人を弾いていた訳ではないだろうし、僕みたいにpixivに幻滅して参加する気が無くなったのか、それとも単純に忙しかったのか、兎に角綺麗サッパリ居なくなっていた。

だけどそうして不穏分子が居なくなった分、寧ろイベントとしての完成度は高くなっていたと思います。運営側の会場設備や対応は相変わらず学園祭レベルだけど、参加者の作品ラインナップは統一感が感じられるようになっていたし、その一つ一つの作品だって皆本当に良く描いている。売れ線であるとかモラトリアムであるとか関係無しに、その作品や自分自身に希望を感じている、そういう情熱を凄く感じた。そして何よりも皆楽しそうだった。だからもうここは僕が入って行く様な場ではない、ここで不協和音を奏でた所でそれは皆を不快にするだけだ。「老兵は死なず、ただ消えゆくのみ」とも言うし、僕の様に今のパラダイムに取り残された者は、静かにその場から消え行くのが筋だろうと思ったのです。

でもその一方で当日会場で販売されたSolid State Squareって公式の小冊子で、先程述べた不穏分子組を多数掲載しているのが抜け目無いですよね。そこに掲載された人達は確かにモラトリアムで成功者とは言えないけれども、しかしネットではそこそこの知名度のある人も居る。そういう全くの無害とも言えない様な人達を招待し、決してあなた達の事を度外視しては居ませんよってポーズを取っているように様に僕は感じたな。でも掲載されているのは全部既存の投稿された作品っていう。

だからpixivのこういう所は本当に強かだと思う。各種イベントの時の対応は杜撰で常識を疑う様な場面も多いのだけれども、pixivというシステムや社会を構築する術は高度でとても計算高い。中にはpixivの事をまぐれ当たりだと言う人も居るし、pixiv側もこの様な側面に関しては一切表で触れないので真偽は分からないけれども、僕は運営方針や目指している方向は主尾一貫していて、そしてそれは一定の成果を挙げてきているのだと思っています。

そしてこの流れはP-1GRANDPRIX2010に引き継がれる。これは新人デビューの機会を標榜した正に登竜門的イベントとして企画されていて、特別審査員も名のあるイラストレーターばかりで正に成功者の象徴。予選はこの企画の発表と同時期に導入された地域別ランキングの順位で結果を決めていくらしく、場を乱すような不穏分子は自然と排除されるシステムになっている所も用意周到。このイベントからpixivが目指している方向性をありありと感じ取る事が出来る。そしてそれは確実に完成度を高めています。

■pixiv以外の選択肢

この様に現状のpixivを取り巻く環境は、かなりの部分で割り切れてきているとも言えます。成功者はpixivと結託してより本格的なビジネスを行おうとしている。そんな彼等を夢見る若い人達は、彼等に近づくべくpixivという超実力主義、商業主義的世界の中でしのぎを削りあっている。そしてその構造に嫌気がさしたモラトリアムな創作絵描き達は、各々別の活動の場に移行し、その中である程度の実力や知名度がある人は、pixivからも一応は活動の場が得られる。そしてそのモラトリアムな創作絵描き達の中には、新たなpixivの対抗馬となる文化の形成を模索している人達も居る。その最後のpixiv以外の文化の可能性についても少し触れておきましょう。

最近のアンチpixivの例としてまず思い浮かぶのが、pixiv Festa Vol.3の時同時に開催された裏pixivフェスタvol.2。さいとうさんとしんくさんが主催された企画で、本pixiv Festaに落選したり応募が遅れたり、兎に角参加しない人達を集めて本pixiv Festaの会場近くのギャラリーで行われたグループ展。その性質上明確なアンチpixivとは言えないかも知れませんが、参加されている方はpixivの本流とは違う、モラトリアムの傾向が強い創作絵描きさん達。しかも皆若く、恐らく今pixivで一番割を食っているポジションに居る人達だと思う。だからやはりpixivに対する対抗意識は感じ取れました。

しかしハッキリ言ってその内容は酷かった。少なくとも本pixiv Festaには到底敵わない。単純に画力が足りていないし、それ以上に熱気がもう比較にならない。先程も書いてきた通りpixivやpixiv Festaは競争社会。そして競争によって生まれてくるものは、例えそれがどんなものでも強い。しかもその行為に夢や希望を見出しているならば尚更で、そこに生半可なアナーキズムで挑んだところで太刀打ち出来る筈が無い。またそれでも裏pixivフェスタを開催した意気込みだけは買いたいと言いたいところですが、しかしそれですら本当にpixivを打ち負かさない限り、単にpixivの名声を高めるだけの存在にしかならない。裏pixivフェスタはそんなpixivから独立してやっていく事の難しさ、更には独立する事自体の難しさを残酷なまでに証明していた気がします。

その一方で唯一独立に成功した集団も居て、それがカオスラウンジ。彼等の多くも元はpixivで活動されていた絵描きさんで、そこでは全く評価されないモラトリアムなポジションに居た人達でしたが、拠点をアートの現場に移すことでブレイク。pixivからは独立したグループとしての存在感を強めています。彼等も裏pixivフェスタ同様画力という点では特別秀でている訳ではありませんが、それを補って余りあるバイタリティが凄い。これは単に藤城嘘さんや梅ラボさん達ブレーンのカリスマ性によるものが大きいのですが、兎に角その活力の大きさがカオスラウンジと裏pixivフェスタの明暗を分けている大きな要因の一つだと思う。彼等の場合アートというpixivとは別種でより過酷な競争社会に身を投じていったので、これからもそのモラトリアムな姿勢を貫いていけるかどうかが課題となりますが、それでも彼等はpixiv外の活動フィールドの可能性という問いに対する一つの答えだし、今後有力な選択肢の一つになり得る。

ただこれらはいずれもネットが主体のpixivに対して、ウェブではないリアルな場に拠点を移す事でその呪縛から逃れようとしているケースです。ところがpixivが登場した一番の問題はネットの絵描き文化が駆逐された事なわけで、その観点で言えば上記の二つの事例はアンチpixivとしてはピントがややずれている。そうではなくあくまでもネットに、pixivの登場によってそれまでのネットの絵描き文化が完膚なきまでに叩き潰された場に、再びpixiv以外の文化を根付かせる事は出来ないのか。そういった目論見で丁度最近開始されたのが、JNTHEDさんの新装ラクバの計画だと思う。

JNTHEDさんは今では廃れてしまいましたが、pixivが登場する以前はRakGadjetというご自身のHPで、ネットのお絵かき掲示板文化の中心に居た人物です。そして当時の商業主義や業界ルールに捉われずに絵描き同士が交流できていた場を、Tumblrを大幅に改造する事で再び作り出そうとしている。正直僕はTumblrをやっていなければ当時のRakGadjetもただ傍観していただけなので、JNTHEDさんが目指しているものや、それがpixivの影響力がここまで強大になった今のネットで成立するものなのかどうかは分からない。

だけど今のところネットに主体を置いてここまで挑戦的な事をやろうとしているのは彼しか居ない。彼は以前にもSleepイラストというアンチpixivの企画を立ち上げている。その時はpixivに敗北していたけど、それにもめげないバイタリティとアイディアを持っている方です。またこの人の面白いところは、モラトリアム創作絵描き達の中でもアンチpixivの筆頭にあがるよう様な人なのに、今回のpixiv Nightや今度のP-1GRANDPRIX2010等で、pixiv側に招待されるゲストとして度々登場するところ。それがpixiv側に上手いように懐柔させられてしまっているのか、それとも何かの企てがあっての事なのかは分かりませんが、兎に角今後も要注目な方であることには間違いありません。

■まとめ

ここまでざっくばらんにpixivにまつわる事を書いてきましたが、これをまとめると、

1. pixiv Nightはグダグダでどうしようもなかった。
2. それでもpixivの影響力は絶大。商業主義的競争社会をネットの絵描き文化に持ち込んで、そのルールに合致しない人は割を食う時代になった。
3. 更に最近のpixivは成功した絵描きとの連携を強め、若手の絵描きの登竜門的ポジションを高めている。pixivが提案する夢や成功のかたちを追う場所としては完成度が高くなってきているが、それに合致しない人はますます居辛い場所になってきている。
4.  pixivに反感を持つ一部の人達は、別の活動の機会を求めて様々な模索をしている。しかしpixivに取って代わるか対抗馬になりそうな新たなネット文化という点では、今のところ決定的なものは登場していない。

といったところでしょうか。やはり理想的なのはpixiv以外の選択肢がある状況になる事。pixivは絶対悪ではなく、その社会のルールに合致する人が利用する分には、質は向上してきているし寧ろ良い。ただ現状ネットで絵描き活動を行う場合は、どんな人でも大なり小なりpixivに関わるなり意識するなりしなければならず、他の選択肢が用意されていないところが問題なのです。だからもっと選択肢を、出来る事ならネットの中に新たな選択肢が生まれると素晴らしい。

勿論絵描きとしては、いやクリエイターとしては、新しい居場所が勝手に出来上がれば良いなみたいな他力本願ではいけない。何かに保護されるなり環境を約束されないと成立しない表現なんて失格です。自らの居場所を創出くらいの姿勢が必要。しかしそうやって理想論を振りかざしたところで、必ずしも皆がそれを実現できる程のバイタリティやアイディアを持っているわけでは無い。またそれを持っている人でさえも未だ決定打は打てていない。やはり現実は難しいわけです。

だから現状はpixivは付かず離れず利用できるところだけ利用し、機会が訪れるのを虎視眈々と待つのが無難なスタイルになるのかな。ただ本当にpixivの中だけで活動していてこういう姿勢を取るのは難しいというか実質不可能なので、自分のHPを作るなり同人即売会に参加するなりして、別の居場所を作る事は心がけた方が良さそうです。pixivを肯定的に思っている人もそうでない人も、そうやって別の価値観に触れる機会を作り、それと掛け合わせた上で自分のポジションを決める。そうすれば自分を含めた周りの状況をより正確に把握できるし、そこから新たな何かが生まれる可能性もあるわけですから。

だから僕も頑張らなければいけないねぇ。僕はpixivをきっかけにネットでの表現活動を始め、具体的なイベントに参加したのはpixiv Festa Vol.2ただ一回のみ。それ以外はこのHPを細々と運営しているくらいだからある意味pixiv依存絵描きの典型なんですよね。もっと行動範囲を広げて色々な事に関わっていきたいです。という事で何か面白い話があったら教えて!と勝手なお願いをして今回の文章を締めたいと思います。最後まで読んで頂き有難う御座いました。




参考リンク

pixiv開発者ブログ - pixiv開発チームとユーザーとのリアルな対話「pixiv NIGHT」開催レポート
「pixiv NIGHT!!!!!」/「umelabo」のイラスト [pixiv]
Ramlog: - pixiv night後夜祭

カオス*ラウンジ2010 - カオスラウンジ公式HP
RAKBUDGET - JNTHEDさんの新装ラクバ
MeiBlog! - JNTHEDさんのHP
梅ラボ - 梅ラボさんのHP
RAM - 虎硬さんのHP
kawa/yoo - 川洋さんのHP
HWB - hukeさんのHP
KYMG - コザキユースケさんのHP
10.5ccweb 1.0 - さいとうさんが参加されている同人サークルのHP

しんく (shinnku) on Twitter - しんくさんのTwitter

POST_POP - 藤城嘘さんのHP


2010/07/05
All trademarks and trade names are the properties of their respective owners.
Copyright (C) BaNaNaBoNa 2008-2010 All rights reserved.