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S.T.A.L.K.E.R.: Shadow of Chernobyl
開発: GSC Game Wolrd 販売: THQ - 2007
プラットフォーム: PC



■特異点の向こうに見ゆる遥かな夢

大作ひしめき合う2007年、一つ明らかに異彩を放つ作品があった。『S.T.A.L.K.E.R.: Shadow of Chernobyl』。欧米産ゲームが大勢を占める中、大作としてはほぼ唯一の東欧出身だった事もあっただろう。その様子はさながら、本作で語られる"特 異点"、Anormaliesそのものだった。

思えば本作は史上稀なる延期を繰り返した作品でもあった。開発が発表されたのが2001年。それから形になるまでにおよそ6年もの歳月を費やした。

6年もあれば世の中の構造は大きく変わる。彼がやっと完成した作品を持って外に出てみたとき、世界はより高度で合理的な発展を遂げていた。それに比べると 自らの作品は、当初の理想は実現できず、出来上がった物もつぎはぎだらけであまりに不格好な代物だった。

しかしそこには一つだけ他には無いものがあった。それは夢。2001年に思い描いたものを、そのままがむしゃらに追い求め続けた軌跡。我々が6年の月日の中で失ってしまったのかもしれない、大切な何か。そこには唯一つ、夢があった。

■ストーリー概要

『S.T.A.L.K.E.R.: Shadow of Chernobyl』(以下S.T.A.L.K.E.R)はウクライナのGSC Game Worldが開発した一人称シューティング。舞台は同じくウクライナにある、あの世界的原発事故で有名なチェルノブイリだ。

2006年にチェルノブイリ原発跡で再び謎の爆発が発生し、周囲は極度に汚染されることになる。それから数年、軍管轄の下侵入禁止とされているその汚染地 帯、またの名を"Zone"と呼ばれる所に、様々な思惑を持った人々が集まり始める。そこで手に入る特殊物質、Artifactで一攫千金を狙う者、事故 の真相を解明しようとする者、または単純にスリルを求める者。彼らは総称して"Stalker"と呼ばれるようになった。

そんな中、Zoneの奥地からやってくるという"Death Trucks"から、主人公が運ばれてくる所から話は始まる。自らの腕に"S.T.A.L.K.E.R."と刻まれている主人公は、これまでの全ての記憶 を失っていた。自らの記憶を探る為、所持していたPDAに唯一記載されていた"Kill the Strelok"の文字を頼りに、主人公は再びZoneへと潜っていく事になる。

この名前をめぐってストーリーは展開される。

■Zoneは一見様お断り

本作の最初にして最大の問題は、その取っつき難さに限る。まずゲームの中身の話をする以前に、とんでもなくバグが多いのが商品として欠陥。それも生易しい物ではなく、どれもゲーム進行が不可能になるような致命的なものばかりだ。

現在ではパッチにて大分改善されたが、それでも未だ一部に問題が残っている為、もしもの時にユーザーに多大な負担を掛けることになる。

またゲームの内容の方においても、その取っつき難さは変わらない。良くわからない幕開けのままゲームを始めると、そこにはいきなりだだっ広いフィールドが 広がっていて、何して良いのかまるで分からないだろう。そのまま適当に歩いていると突然死んだりするし、銃は滅茶苦茶当てづらく、しかも敵は遥か彼方から 容赦なく銃撃してくる。アイテムもそこらにゴロゴロ転がっているが、何の為に使うのか良く分からないし、おまけにそのPDAのインターフェイスも、最高に 使い辛くてゲンナリする。本作にユーザー・フレンドリー等という概念は存在しない。

とは言え暫くやってみれば、バグとインターフェイスの糞さは置いておくとしても、その他のケースは本作の演出上、首尾一貫した信念に基づくものなのだとい う事が分かるだろう。主人公の設定が記憶喪失という事を考えると、ある意味これは実にリアリティのある事なのかもしれない。何せ本当に路頭に迷う。

本作を面白いと思えるかどうかは、この出だしの高いハードルを乗り越えられるか、或いは許容できるかどうかに掛かっている。

初めてのZoneはとても寒くて・・・ そして辛い。

■執念の先にある圧倒的存在感

寒風身にしみる思いを堪えて先に進んだとき、そこで次第に驚かせられるのがZoneという世界の作り込みである。現地での繊密な取材に基づき形作られた廃 墟の数々は、チェルノブイリというこれ以上は考えられないロケにより、圧倒的な説得力を放っている。

またその世界は、決して『Crysis』のような最新技術を用いた合理性に基づいて作られているものではない。しかしまるで先の丸まった鉛筆それ一本で全 てを描写し切ろうとするかのような愚直さは、鬼気迫るものがある。その6年越しの執念から作られた画面は、ただクールに実写的である以上の存在感があるの だ。

廃墟マニアにとっては失禁ものであろう。

■生きるという事は知覚するという事

グラフィックスを眺めているだけでも半端なく凄い本作だが、真に凄いのはそれをプレイヤーに体感させる術にある。

本作でZoneは徹底して異常地帯として描かれる。崩壊した建物、放射能、それによって変異した動物、空間に点在するAnomalies。または様々な Stalker達と、そこで行われる様々な覇権争い。そんな無数の要素を、唯の机上の脳内設定に留まらせておくことなく、全てプレイヤーに体験させる仕掛 けが作られているのだ。

上記の例で言えば、建物には実際中に入る事が出来るし、汚染された地域に長くいれば、自らも放射能に侵されてしまう。変異した動物は常識を逸した攻撃をし てくるし、Anomaliesにも誤って突っ込んだら大怪我するか、最悪死ぬ。Stalker達の中にも好意的な奴らが居れば見るなり襲ってくる奴らもい るだろう。これら全ての要素はプレイヤーの生存競争、サバイバルという行為に直結している。

本作はそれを最初から最後までプレイヤーに投げかけるが故に、一番初めの猛烈な取っつき難さに繋がっている。生きる術を知らなければ、何もしようがない。 しかしそこから自らの一つ一つの経験を経て、生き残る術を磨いていくのだ。危ない場所を覚え、また事前に察知できる目と耳を養う。使える武器使えない武器 も、全て自分で試して乗り換えていく。そうして数字ではない、本当に自分自身にとっての経験値を積み、困難を乗り越えていくのが本作の最大の面白さだ。

そうしている内に、いつの間にかこの異常地帯に適合してしまっている自分を知るだろう。自らの経験や勘で生き残るというデザインは、その説得力のあるグラ フィックスと合わせて、他の作品には見られないような没入感を感じさせてくれるのだ。その時にはここはもう、あなたにとってもう一つの現実そのものになっ ている。

プレイヤーの全ての行いが、自らの命という天秤に掛けられる。

■実践にこそ妙技あり

上記のように言ったはいいが、しかしそれだけでは単なるコンセプトに過ぎない。それをどのように実践するかにゲームとしての真価が問われるのだが、そこにこそ『S.T.A.L.K.E.R』という作品の妙技がある。

本作はプレイヤーが実際そこに居るかのような感覚を味わわせる為に、非常に多くの要素を詰め込んでいるのだが、それらがどれも破綻を起こすことなく上手く纏め上げられているのは実に見事だ。

例えば本作には重量制限の概念があり、アイテムは回復薬や弾薬等も含めて全て重量が決められている。この重量バランスが絶妙で、装備のバリエーションとし て一応これだけ持っていれば安心という組み合わせがあるのだが、しかしそれを徹底すると殆ど空き重量が無くなってしまう。そうなると当然遠征時の収穫が少 なくなってしまうのだが、かといって軽量で済ますには、まだ踏み入れていない地では何が起こるか分からないので不安・・・ といった具合に、常に良い意味で頭を抱えさせられる事になる。

また戦闘面でのクオリティも素晴らしい。銃撃感は心地よく、武器別の個性や、特性別の弾薬の使い分け、スコープやグレネードランチャーを装着させる装備のアップグレード等など、やたらと奥が深い。

しかし何といっても特筆すべきはAIだ。AIは特にFPSにおける対人戦において要となる部分だが、これは本当に良くできている。野外を中心としたロング レンジからミドルレンジでは、カバーを使ってジリジリと間合いを詰めてきて、屋内を中心としたショートレンジでは、攻めと待ちを上手く使いこなしてくるだ ろう。また動きも画一的ではなく、こちらを撹乱させようとカバーからカバーへ頻繁に移動するし、逆にこちらが上手く誘導してやれば騙されるので、誰も居ない所にノコノコと出てきたところを後ろから攻撃、なんて事も実現可能。

これ以上例を挙げてもキリが無いのでここら辺でやめておくが、兎に角上記の例以外の要素も、総じてバランス良く纏まっており、プレイヤーが過酷なZoneの中においても、尚生きようとする動機づけとして効果的に働いている。

上には書かなかったが、モンスター戦も迫力があり見物だ。

■A-Lifeという夢物語

先ほどから書いてきた"生きる"というテーマを、元々本作はA-Lifeという技術で描こうとしていた。A-Lifeとは一言にして生態系シミュレーショ ンの事であり、Zone内の全ての出来事が仕込みではなく刻一刻と変化する、まさに生きた世界を再現するテクノロジーとして開発が進められてきた。

プレイヤー以外のStalkerは、皆独自の意思に基づきZone内を自発的に動き回り、自らの目標の達成の為、プレイヤーの至り知らない所で抗争をもする。動物も捕食や縄張りの概念を持って、他の動物やStalkerとも争いあう。本来ならばそれをメインにした作品作りの為、完成版の本作にあるような、 明確なストーリーを持った作品にはならないはずだった。もっとオープンワールドで、さながらオフラインでMMOをするような感覚に近いようなものになる予定だったのだ。

しかしそんな壮大なプロジェクトは暗礁に乗り上げ、それが原因で6年というこれまた壮大な延期を繰り返す羽目になる。その間A-Lifeの規模はどんどん縮小していき、オフラインMMOの構想も消え失せ、現在のようなストーリー仕立ての形に収まった。

こうして出来上がった本作だが、確かに当初掲げていたA-Lifeという技術は、ものの見事に失敗していると言って良い。それっぽい所は端々で見られるものの、それがAIなのか単なるスクリプトなのかは微妙な出来だ。そしてそもそもプレイヤーの至り知らない所で何かが起きているとして、それが果たして面白いのかという身も蓋も無い疑問まで湧いてくる。プレイヤーが知覚できない事は、即ち何も起きていないのと同義ではないのか。

しかし誤解しないで欲しいのは、例えA-Lifeが失敗だったとしてもそれが『S.T.A.L.K.E.R.』という作品の失敗を意味しているわけではないという事だ。A-Lifeそれ自体が失敗しようとも、A-Lifeが描きたかった物は作品の中にしっかりと定着されているではないか。生の実感、生きるというテーマは作中に強烈なまでに刻まれている。

ストーリーについても同じだ。開発途中で組み込まれることになったそれも、自らの生の軌跡を追う内容だった。本作品は合計で7つのエンディングが存在する が、その内5つはプレイヤーのそれまでの行いに応じて、それぞれの内どれか1つが選択される。作中でのプレイヤーの行いが、そのままプレイヤー自身の鏡となる。少なくとも開発者のそんな願いを、エンディングからは汲み取る事が出来る。

A-Lifeは失敗に終わった。しかしその夢は作品の中に強く刻み込まれ、作品そのものを素晴らしく豊かなものにしてくれている。

■まとめ

多くのバグや序盤の取っつき難さから、ハードルの高い作品であることには違いないが、その余りある魅力は、それを越えてまで感じるべき価値がある。特にプ レイしていく中での没入感は凄まじく、ここまで"生きる"という事を痛烈に実感させてくれる作品は他には無いだろう。FPSをやり慣れていない全くの初心者の方には薦められないが、ある程度やった事があるという人は、この作品を見逃す手はない。



参考リンク


S.T.A.L.K.E.R.: Shadow of Chernobyl 公式サイト
S.T.A.L.K.E.R.: Shadow of Chernobyl on Steam
S.T.A.L.K.E.R.: Shadow of Chernobyl Wiki
PCゲーム道場 - S.T.A.L.K.E.R.: Shadow of Chernobyl レビュー
Game Life - S.T.A.L.K.E.R.: Shadow of Chernobyl レビュー
FPS Unknown - S.T.A.L.K.E.R.: Shadow of Chernobyl レビュー
4Gamer.net - S.T.A.L.K.E.R.: Shadow of Chernobyl レビュー
GAME Watch - S.T.A.L.K.E.R.: Shadow of Chernobyl
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2008/12/07
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