Top Diary Review Text Gallery Link

2011/02/16- SNOW MIKU for SAPPORO2011レポート


先週末の12日、札幌で行われていた『第62回さっぽろ雪まつり』内のイベント、『SNOW MIKU for SAPPORO2011』に参加してきました。人生初北海道、人生初公式イベントのゲスト参加、しかも初音ミク、しかもほぼ土壇場での乱入と、実にイレギュラーに満ちたイベントでした。

誰もが首を傾げ、僕ですら良く分からないこのイベントへの乱入参加は、ひとえに村上隆さんやMr.さん含めたカイカイキキさんの御厚意によるものであり、ここ二週間の間で繰り広げられていた怒涛の日々の結末でもあります。今回のレポートではここまでに至った経緯を振り返りつつ、当日トークショーで発言したpixiv評を文章という形でおさらいしたいと思います。

■これまでの経緯

全ての発端は一月末に掛かってきたJNTさんからの電話。JNTさんとMr.さんがコラボ作品を制作するので、それを手伝って欲しいとの連絡があり承諾。6×2.5メートルという僕も経験した事のない巨大な絵画を、僅か一週間足らずで描き上げなければならないという難題プロジェクトが開始されました。

結局作品は当初の予想を上回る援軍の駆けつけもあり何とか完成。僕自身も連日泊り込みで作業にあたり、過酷な作業ではありましたが全てが未知の体験で学ぶものは沢山あったし、何より純粋に楽しかった。月並みな感想ですが、一つの目標に向かって皆で切磋琢磨するのは何て素晴らしいんだ!とも思いました。それくらい皆頑張っていた。

ただ一方で、そんな近年稀に見る面白体験が、自分が主役ではなく、他者のアシスタント作業に過ぎないという事に悔しさも感じていました。このアシスタント業の後、間髪入れずに迫っていたHecatoncheir 3に対して僕が行った仕打ちには、この時の面白さを超えてやろうという思惑もあったのです。

その後のHecatoncheir 3の顛末は『Made in Heaven』の解説ページに詳しいのでここでは触れませんが、イベントが終わったその翌日に今度はTwitter上でてつこさんと村上隆論でヒートアップ。その末にここまでの一連の流れを見ていたMr.さんと村上隆さんから声が掛かったという具合です。

ここまでが二週間未満という物凄い短期間で繰り広げられた事。余りにも全てがタイミング良く重なりすぎていて整理する暇も無かったのですが、得てして何か物事が進展する時とはこういうものなのかもしれません。こうして12日の札幌のイベントに突如乱入する事になったのでした。

■SNOW MIKU for SAPPORO2011当日の様子

紆余曲折の末やってきた『SNOW MIKU for SAPPORO2011』ですが、当日の会場で何が催されていたかはpixiv開発者ブログの記事が詳しいのでそちらを参照して頂くとして、それを目の当たりにした僕の感想はただただ「愛が重い!」の一言に尽きました。

会場は決して広くはありませんでしたが、兎に角その空間は初音ミク愛に包まれており、子供からお年寄り、外人等幅広い層が来ていました。そして場外では全国から集まったミクファンによる長蛇の列。11日、12日はグッズ販売日だったのでそれ目当てが大半だったのでしょうが、お陰で会場は終始整理スタッフの掛け声が響き渡る、さながら戦場の如き様相を呈しており、始めはおみやげにグッズを買っていこうかと思っていた僕も、途中で諦めざるを得ませんでした。

今回の参加が一般客としてならここで終わる話だったのですが、実際はトークショー、コスプレ、パフォーマンスをやらなければならなかったので、事態はより深刻でした。何せMr.さんもJNTさんも僕も、ミクに対しては因縁こそあれど会場を覆っていた様な愛情は無かったからです。

これがpixivや個人HP等といった場でなら問題ないのですが、今回はクリプトン主催の正真正銘の公式イベントです。そこで愛の無い我々が突貫的なコスプレで意味不明なパフォーマンスをするのは、ミクを愛する人々への冒涜になるのではないかという危機感が物凄くありました。かといって今までのスタンスを覆して「ミク最高です!」って言うのは、浅はかな嘘にしかならない。

だからあの状況では例えミクに直接的な愛はなくても、例え意味不明であっても、全身全霊をかけてパフォーマンスする。またその上で自分達のスタンスをハッキリと表明する。それが唯一の誠意を示す方法なのだと思いました。そういう思いの末のあのパフォーマンスであり、あのトークであり、今のこの文章なのです。

■自分にとっての初音ミクとpixiv

以上の流れを踏まえた上で、当日トークショーで飛び出した「pixivは僕のお父さん」発言の真意を解き明かしていきましょう。

僕やJNTさんとって初音ミクとは、またpixivとは、会場でも言った通り必要悪な存在でした。尤もそう感じてきたのは最近の話で、それまではもっぱら打破すべき宿敵と言っても良い意識だったのです。

2007年は様々な文化にとって転換期だったと記憶していますが、ネットの創作文化もその例に漏れず一大変革が起きました。特にpixivと初音ミクの登場は決定的で、これに2006年に登場したニコニコ動画を合わせたトライアングルの中で、様々な新たな創作文化が栄えていきました。それはもう目覚しい変革だったと言えます。

しかし一方で、その華々しい変革の影に隠れて評価の対象から落とされて行ったジャンルもありました。僕が創作絵描きと呼んでいる、pixivや初音ミク登場以前の画像掲示板時代の流れを汲んでいる層がそれです。彼等は巷のブームに流される事なく独自の表現を追求するタイプでしたが、だからこそどんなに技術が優れていても、どんなにセンスが良くても見返される事なく、ブームに飲み込まれて行ってしまった。僕はその凄まじい格差がとても悔しくて気に食わなかった。それに立ち向かう為に本格的にネットでの活動を始めたのが、2008年の丁度今頃。

このpixivの功罪と、それに翻弄された者達の話はpixiv語りという記事で詳しく触れているので、こちらを読んで頂くとさっきまでの話やここからの話が、より正確に理解できるのではないかと思います。

話を戻してpixivに対する悔しさから活動を始めた僕でしたが、その悔しさに拍車を掛けたのが、当時は画力が貧しかった為、ブームのチープさを叩けなかった事。今はより顕著になっていますが、当時から初音ミク等のブームにかこつけた技術レベルの低い絵が、技術力がありオリジナリティもある創作絵描きを差し押さえてランキングを席巻していて、非常に不愉快な思いをしてきました。

実は僕は当時一度だけミクを描いている。今から見れば下手くそすぎる訳ですが、当時は「ミクだったらこんなもんでも皆評価するんでしょ〜?」みたいな軽蔑意識を剥き出しにして評価される気満々で描いたのです。しかし結果は全く評価されませんでした。お前の絵はミクであるなしに関わらず、根本的に魅力がないと突きつけられた様で心底参った。ブームに便乗して評価される位の技術力すらない。自分が置かれた圧倒的弱者としての立場に打ちひしがれましたね。


でもそこからだな。敵対意識と、そこに同居する逆説的なリスペクト意識が出来てきたのは。相手は倒すべき敵には違いないが、そこには一定の流儀や求められるクオリティがあり、それを学びある意味で認められるところまで行かなければ、彼らにNoを突きつける事すら出来ない。だからまずは技術を磨こう。作品の画面は今のトレンドになるべく近づけ、そこに相反するアンチの姿勢を潜り込ませていこう。この様な今の僕に繋がるコンセプトの根本部分が、この時出来上がったのです。

こうして対pixiv、対初音ミク等のメジャーコミュニティへのアンチの姿勢を貫き続け、ようやくランキング上位に上がる事が出来たのがつい最近の事。そしてそれに合わせるが如くpixiv公式イベントの参加が急遽決まり、そこでパフォーマンスやコスプレやトークを披露する事になったのが、筋書きとして非常に出来過ぎていて面白かった。

まただからこそ、最初に書いたミクやpixivは必要悪だったという意識に繋がってくるのです。僕の体制に対するアンチの姿勢は、今では自身の作家性そのものになってきている。そしてその意識を育んでくれた環境は、他ならぬミクやpixivだったのです。pixivはネットの創作コミュニティに競争主義を持ち込む事で多くの人を焚きつけ、更にそこにミクというコンテンツが入り込み、成長しました。そしてその競争主義はランキングという表面的で華々しいものに限らず、そこに現れて来ないアンチ体制という、敵対的競争心をも煽っていたわけです。

少なくとも僕はそのケースにガチ嵌りだったし、それを貫き続けたことでここまで来れたに違いない。これを必要悪と呼ばずに何と言うのか。或いは父性的教育か?確かに父親的だったかもしれない。時にはpixiv Festaやpixiv Nightダメダメな所を見せて反面教師になるところも含めて。

但しこう言えるのは僅かながら成果が得られてきたからであって、それがなければ今でも僕はミクやpixivの事を巨悪と罵っていただろう。そして多くの人は今でも日の目を見られずに割を食った思いをしているはずです。だからやはり多様な方向性の作品を受容してくれる受け皿、成果が得られる環境は必要である。そしてそれをpixivに求めていきたい姿勢は変わらない。pixiv語りでも書いた通りpixiv以外の選択肢がおぼろげながら見えてきているとは言え、ネットで圧倒的な影響力を持っているコミュニティは、良くも悪くもpixivだけなのだから(その延長線上で僕はHecatoncheirを応援しているんだけどそれはまた別の話)。

だから今回のトークショーで片桐社長と面と向かい、今まで省みられる事がなかったpixivやミクの栄光の裏に居た人達の立場を、やっと直接言う事が出来たのは意義深い。これでpixivと僕との関係の決着がついたとは言えませんが、一つの区切りにはなったでしょう。

しかし戦いはこれで終わったわけではありません。これまでのあらすじを例えて言うのであれば、自分を虐げてきた仇敵にやっと切り付ける事が出来たら、そいつは他ならぬ父親だった!という物語だったのです。そしてこれからは、相手が父親だと分かった上で、それでも尚戦い続けるという第二部が始まるのです。いや始めなければならない。

実際『Made in Heaven』のランキング4位というのは、あの系統の作品としては快挙かもしれませんが、とは言え大した価値無いと思うんですよね。僕の上には描いた絵は何でもランキング上位は当たり前、1位ですら珍しくなく、その上でpixivの外でバリバリ仕事をこなしております!みたいな世界があるわけです。

だからこの程度で快挙だと喜んでいる自分がみみっちい。このみみっちさを超えた、より激しい戦闘に突入しなければなりません。より高みを目指し、そしてそこでどこまで今までの様なアンチの姿勢を貫き続けられるか、そして仮に自分が過去の自分が嫌悪していた立場になった時、何が出来るのか。それがこれからの僕の勝負なのだと思います。

NaBaBaはこれからも作品を作り続けていきます。



All trademarks and trade names are the properties of their respective owners.
Copyright (C) BaNaNaBoNa 2008-2010 All rights reserved.